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つまらない合コンだった。
と言うか、俺は本当に必要だったのか、非常に疑問だった。
やってきた女の子は4人。
にも拘らず、男連中は倍の8人。
どう考えても、女の子たちの入れ食い状態だ。
結局、見向きもされない仲間たちと、ひたすら酒を飲むだけの時間だった。
惨めな時間のせいで、悪酔いしたのかも知れない。
マンションの窓の明かりは、点いていた。
ドアチャイムを鳴らすと、ドアが開く。
「今、お帰りか?どうした?」
怪訝な顔をする高杉さんを見て、俺は軽い気持ちで疑問をぶつけてみる。
「何か、今日、機嫌悪く無かったですか?」
「別に?」
「そうですか?」
「何なんだよ?」
真夜中の廊下に、静かで、激しい口調の声が響いた。
「俺が合コン行くの、そんなに不満ですか?」
「そんなこと、言ってねぇだろ?」
「だって・・・」
不意に、腕を引かれる。
玄関に引きずり込まれ、背後でドアの閉まる重い音がした。
「うるせぇよ」
そう言うや否や、俺の身体は彼に抱き締められる。
「ちょ・・・っと」
「・・・不満で、悪いか?」
耳元で発せられた言葉に、鼓動が早くなる。
発するべき声を見失った俺の身体は、すぐに彼の元から押し返された。
「お前、飲み過ぎ。とっとと帰って、早く寝ろ」
壁を一枚隔てた向こうに、彼はいる。
何をしているのか、知る由も無い。
もちろん、何を考えているのかも、分からない。
強い力で抱えられた腕の感触が、二の腕からまだ消えない。
縋り付く様な声のトーンが、耳から剥がれない。
不機嫌な時や怒りに震える場面は何回か見てきたけれど
あの彼の雰囲気は、今までに無いものだった。
何故彼は、あんなことをして、あんなことを言ったのか。
幾ら考えても分からないけれど、何となく今までの関係が歪んでしまう様な気がして
言い様の無い不安が、心に影を落とす。
場の勢いに任せて飲むのが好きだ。
あまりベロベロに酔うことも無いし、記憶を失うことも無い。
けれど、一晩経っても、上手く酒が抜けないことが多い。
昼前に、家のドアチャイムが鳴る。
「ほら、食っとけ」
いつもと変わらない様子の先輩は、スポーツドリンクのペットボトルと
レジ袋いっぱいのリンゴを差し出してくる。
「・・・すみません」
胸焼けの酷い俺は、まともに顔さえ上げられない。
「何でこうなるって分かってて、同じこと繰り返すかねぇ」
きっと、あの意地の悪い笑みを浮かべてるんだろう。
そう思いながら、全くです、とうな垂れながら答える事しか出来なかった。
「あと、オレ、来週からちょっと家空けるから」
帰りしな、彼は言った。
「・・・え?」
「3ヶ月くらい、大阪の現場の応援に行くことになったんだよ」
「えっ?」
突然のことに、思わず顔を上げる。
気持ち悪さも忘れて、問いかけた。
「いつから、ですか?」
「来週の水曜日」
「随分、急な」
「前からやばいって話はあったんだけどさ」
「そうですか・・・」
ありふれた日常が、僅かに変わる。
そのことが、奥底の不安を助長した。
「たまに、ポスト見ておいてくれるか?」
「え、ええ・・・良いですよ」
「その間に、ちゃんと鍛えておけよ?」
ぎこちない週末が過ぎ、彼はさほど大きくないスーツケースと共に、旅立って行った。
土曜日も現場が動くと言う理由で、週末にも帰って来ないと言う。
いつも側にいる人がいなくなる。
少し開放的な気分になりつつも、一抹の寂しさは拭えなかった。
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と言うか、俺は本当に必要だったのか、非常に疑問だった。
やってきた女の子は4人。
にも拘らず、男連中は倍の8人。
どう考えても、女の子たちの入れ食い状態だ。
結局、見向きもされない仲間たちと、ひたすら酒を飲むだけの時間だった。
惨めな時間のせいで、悪酔いしたのかも知れない。
マンションの窓の明かりは、点いていた。
ドアチャイムを鳴らすと、ドアが開く。
「今、お帰りか?どうした?」
怪訝な顔をする高杉さんを見て、俺は軽い気持ちで疑問をぶつけてみる。
「何か、今日、機嫌悪く無かったですか?」
「別に?」
「そうですか?」
「何なんだよ?」
真夜中の廊下に、静かで、激しい口調の声が響いた。
「俺が合コン行くの、そんなに不満ですか?」
「そんなこと、言ってねぇだろ?」
「だって・・・」
不意に、腕を引かれる。
玄関に引きずり込まれ、背後でドアの閉まる重い音がした。
「うるせぇよ」
そう言うや否や、俺の身体は彼に抱き締められる。
「ちょ・・・っと」
「・・・不満で、悪いか?」
耳元で発せられた言葉に、鼓動が早くなる。
発するべき声を見失った俺の身体は、すぐに彼の元から押し返された。
「お前、飲み過ぎ。とっとと帰って、早く寝ろ」
壁を一枚隔てた向こうに、彼はいる。
何をしているのか、知る由も無い。
もちろん、何を考えているのかも、分からない。
強い力で抱えられた腕の感触が、二の腕からまだ消えない。
縋り付く様な声のトーンが、耳から剥がれない。
不機嫌な時や怒りに震える場面は何回か見てきたけれど
あの彼の雰囲気は、今までに無いものだった。
何故彼は、あんなことをして、あんなことを言ったのか。
幾ら考えても分からないけれど、何となく今までの関係が歪んでしまう様な気がして
言い様の無い不安が、心に影を落とす。
場の勢いに任せて飲むのが好きだ。
あまりベロベロに酔うことも無いし、記憶を失うことも無い。
けれど、一晩経っても、上手く酒が抜けないことが多い。
昼前に、家のドアチャイムが鳴る。
「ほら、食っとけ」
いつもと変わらない様子の先輩は、スポーツドリンクのペットボトルと
レジ袋いっぱいのリンゴを差し出してくる。
「・・・すみません」
胸焼けの酷い俺は、まともに顔さえ上げられない。
「何でこうなるって分かってて、同じこと繰り返すかねぇ」
きっと、あの意地の悪い笑みを浮かべてるんだろう。
そう思いながら、全くです、とうな垂れながら答える事しか出来なかった。
「あと、オレ、来週からちょっと家空けるから」
帰りしな、彼は言った。
「・・・え?」
「3ヶ月くらい、大阪の現場の応援に行くことになったんだよ」
「えっ?」
突然のことに、思わず顔を上げる。
気持ち悪さも忘れて、問いかけた。
「いつから、ですか?」
「来週の水曜日」
「随分、急な」
「前からやばいって話はあったんだけどさ」
「そうですか・・・」
ありふれた日常が、僅かに変わる。
そのことが、奥底の不安を助長した。
「たまに、ポスト見ておいてくれるか?」
「え、ええ・・・良いですよ」
「その間に、ちゃんと鍛えておけよ?」
ぎこちない週末が過ぎ、彼はさほど大きくないスーツケースと共に、旅立って行った。
土曜日も現場が動くと言う理由で、週末にも帰って来ないと言う。
いつも側にいる人がいなくなる。
少し開放的な気分になりつつも、一抹の寂しさは拭えなかった。
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