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土曜の昼に、東京駅に着く予定。
そう話していたから、片手では持ちきれないほどの郵便物は、まだ机の上に積んだままだった。
ドアチャイムに起こされ、時計を見るとまだ朝の7時前。
ぼんやりする頭でドアを開けると、そこには疲れた様子の彼が立っていた。
「まだ、寝てたか?」
「昼って、話じゃ」
「ああ、バスで帰ってきたんだよ。・・・その方が早く着くから」
はにかむ彼は、紙袋いっぱいの土産物を玄関に置いた。
「起こして悪かったな。後で、また来る」
喜ぶ隙も与えず、彼は早々に出て行く。
待ち遠しかった日常が戻ってくる。
それだけで、俺の心は安堵で一杯になった。

いつもの店で、いつものように彼と向かい合って飯を食う。
何でもないことなのに、妙に昂る気分になっていることが不思議だった。
彼の土産話は尽きることが無かった。
それほど饒舌ではなかったのに、よく喋る関西人に感化されたのだろうか、と可笑しくなる。
「そんなに楽しかったのなら、もっと居れば良かったのに」
つい軽口を叩くと、彼は一瞬鋭い視線を俺に向ける。
「何それ、本気かよ」
「・・・冗談ですって」

煙草を咥える彼の顔は、確かに若干丸みを帯びたようにも見える。
俺の視線に気がついた彼は、突然、俺の顔に手を伸ばした。
「お前、ますます顔小さくなったな」
「そうですか?」
身体の割に顔が小さい、と言うのは昔からよく言われて来た事だ。
だからなのか、多少腹が出ていても太っていると思われることはあまり無い。
「しばらく、一緒にフィットネス行くの、止めとこうかな」
「何でですか?」
「マジ、太ったんだって」
「気にしませんよ、俺は」
「・・・オレが、嫌なの」
バツの悪そうな顔をして呟く彼。
それを誤魔化すように、俺は一つの約束をした。
「じゃ、湿布くらいは貼ってあげますよ」


相当な寂しがり屋だ。
彼が大阪から帰って以来、そう実感することが多くなった気がする。
変わらない日常。
それだけじゃ物足りなくなってきた、自分の気持ち。
こんなに近くに、いるのに。
遠く離れていた時よりも、恋しさが募っていく。

「すげー、身体痛ぇんだ」
昼になっても音沙汰が無かった土曜日。
隣の部屋を訪れると、身体を引き摺るような彼が出迎えてくれた。
「3ヶ月前の俺を見るようですよ」
そう笑うと、彼は悔しげな口調で吐き捨てた。
「ちくしょ~・・・何も言い返せないのが、情けねぇ」

諦めたように、彼は自分のベッドに横になる。
「身体鈍るのって、あっと言う間だな・・・」
風呂から上がって時間が経っていないのか、熱を帯びた背中は斑に赤くなっていた。
思い返していたよりも、やっぱり直接目にする傷跡はリアルで、触るのに戸惑いを感じる。
「どの辺、痛みます?」
「背中かなぁ・・・肩甲骨の下辺り」
そっと指でなぞる。
体温が肌に滲みて、やっと、彼が戻ってきたことを噛み締められた。
「貼りますよ?」
「おう、頼む」
湿布を貼ると、彼の身体は瞬間強張り、力が抜けたようにベッドに軽く沈み込む。

そのまま背中から腰の方へ手を滑らせる。
無防備な身体を見ながら上半身を前に倒すと、ベッドの軋む音が響いた。
「何?お前、傷フェチ?」
俺の顔の気配を感じたのか、高杉さんはそう聞いてくる。
その問に答える事無く、唇で背中を撫でる。
背筋の窪みが深くなり、少し身体が傾いた。
「・・・くすぐったいって」
「前の、お返しですよ」
柔らかい脇腹に手を添えながら、慰める様に、何度も唇をつける。
小さく反応を繰り返す彼は、何も言わずに行為を受け入れていた。

「もう一枚、貼ります?」
「いや、もう良いよ」
彼から離れてベッドを降りると、彼はゆっくりと身体を起こす。
その顔を見て、急に気恥ずかしさが込み上げる。
思わず視線を外すと、彼の手が俺の頬を包んだ。
「オレ、背中の感覚、あんまり無いんだよね」
手に力が入り、俺は彼と向き合う格好になる。
「折角キスしてくれるんだったら、今度は、もっと感じるところにしてくれよ」
躊躇う唇が、震えた。
彼はそれ以上顔を近づける事無く、目を細める。
やがて、頬から熱い感触が離れて行った。
「昼飯、食いに行くぞ」


「1ヶ月で、元の体型に戻して見せるさ」
歩きながら、彼は自信たっぷりの口調で言った。
「それまで、一人で行くつもりですか?」
「一緒に行きたいなら、そう言えよ」
「高杉さんこそ」
窺うような視線を送ると、睨みつけるような視線が返って来る。
「・・・じゃ、水曜の夜な。電話する」

晴れた空を見上げると、行く手に白い月が浮かんでいた。
足を止めて、彼と共にしばらく見入る。
同じものを見て、同じことを感じて、同じ時間を過ごす。
それだけのことが、俺の心を満たしていくようで、嬉しかった。

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テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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