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道標(4/6)

談笑しながら会社の玄関を出て行く女の子たち。
クリスマスイブの夜、俺が出社するタイミングで、彼女たちが退社していく。
その中の一人と目が合う。
引っ張られるよう、俺は彼女の元へ近づいた。

「仕事だから、しょうがないですよね」
開口一番、彼女は何か吹っ切れたような顔でそう言った。
「難波には、何か、言ったの?」
「誘うには誘って、OKは貰ったんですけど・・・何か乗り気じゃないみたいなテンションで」
「照れてるだけじゃない?あいつ、そう言うとこあるし」
「でも、結局夜間工事が入ったって、断られちゃった」
ふと見せた寂しげな仕草が、罪悪感となって心に残る。
俺のせいじゃないし、プライベートよりも仕事を優先させるのは、当然だと思う。
けれど、今回の件については、上司の提案に他の若手が渋る中
難波がわざわざ名乗り出たという話を、後日聞かされた。
何やってるんだ、あいつ。
予定は無いと言い切った理由は、何なんだ。
申し訳の立たない俺の顔を見た白石さんは、俺と、自分を慰めるように笑顔を作る。
「だから、今日は皆で女子会して、楽しんで来ます」


一方、男ばかりの夜間工事現場。
仮設足場の一部分に、何処から持ってきたのかLEDのチューブライトがグルグルと巻きつけられている。
場違いな赤いイルミネーションが、雰囲気を少し軽くさせているようだった。
「今日だけだぞ」
現場監督は呆れたようにそう言って笑う。
工事もラストスパート。
何処からかクリスマスソングが流れてきそうな雰囲気の中で、夜が更けていく。

作業も終わりに差し掛かる午前4時過ぎ。
機械室の中から数人の叫び声が聞こえて来た。
駆けつけてみると、すっかり濡れ鼠になった作業員と難波の姿。
「・・・何があった?」
「流量確認しようとしてたら、流量計が外れて・・・」
情け無い声で話す後輩の隣で、黙々と流量計を設置し直す作業員。
「水浴びには早すぎるだろ」
「温水で、良かった」
近くに置いてあったモップで水を掃き出しながら、その光景に思わず口元が弛んだ。

遅れが懸念されていた空調工事も、ほぼスケジュールに追いついた。
「冷温水の流量も、空調機の風量も問題ありません」
髪の毛をタオルで拭きながら、難波は手書きの測定表を机に広げる。
「後は、制御系の検査を明日予定しています」
「電気の方での連携は終わってますから、問題無く進められるかと」
「週末には予定通り終われそうですね」
「ええ、年末はゆっくり出来るんじゃないですか」
このところピリピリしていた進捗会議も、やっと先が見えてきたこともあり、和やかな雰囲気。
岸の離脱と言う大きなアクシデントも、若い力で何とか克服出来ている。
身体の重い疲れを感じ始めてきたのは、精神的に少しずつ解放されている証だろうか。


「お疲れ様です・・・どうされたんですか?」
車に乗り込むと同時に、運転手は心配そうな声を後輩にかける。
「半年早い、水遊びです」
わざと不貞腐れた様にそう答えた後輩は、自らの作業ズボンを擦りながら言った。
「ちょっと、シート濡れるかも・・・大丈夫ですかね?」
頭上から降ってきた温水は、当然のことながら全身を濡らした。
上着は防寒着で代用できたが、ズボンはそうも行かない。
大型のハロゲンヒーターで応急処置はしたものの、どうやらまだ湿っているようだ。
「構いませんよ。ちょっと、エアコン強くしますね。風邪引くといけませんから」
「すみません。助かります」

いつもと変わらない道を走るタクシーは、ある橋の手前で少しスピードを落とす。
「左側に見える橋に、今日だけ電飾が点いてるんですよ」
ハンドルを握る彼は、楽しげな声で話しかけてくる。
後輩の向こうにある窓の外には、青白い小さな光が纏わりついた橋の概形が浮かんでいた。
「へぇ・・・何か、富士山みたいですね」
「ああ言うちょっとした遊び心って、何となく和むなって思って」
「男3人で見るもんじゃない気もするけど」
「まぁ、この時期じゃないと見られませんから」
過ぎていく光の山を何も言わずに見ていた難波が、不意に俺の方へ顔を向ける。
「・・・何だ?」
「いえ。別に、オレは良いですよ」
そう呟いてシートに身を任せる彼は、酷く穏やかな表情を見せる。
その言葉の意図がつかめないままの俺は、俄かに気持ちの所在を失いかけていた。


最寄り駅に着いたのは朝6時前。
明るくなりかけた街を、各々家路へ向かおうとした時。
「永瀬さん、ちょっと、飯食って行きません?」
「今から?もう寝るだけだろ」
「腹減ったんですよ」
目の前には、24時間営業のファミレス。
昼夜逆転の生活から見れば、これは晩飯。
そう言う後輩に押し切られるよう、俺たちは店に入った。

「飯を食うタイミングが、イマイチ分かんないんですよね」
難波の前には、薄いステーキとハンバーグとエビフライが乗ったプレート。
朝からこんなものを食べる客も、なかなかいないだろう。
「まぁ、それは分からんでもないけど」
言われてみれば、確かにこの生活を続けるようになって、飯を食うのは一日一回になった。
夜勤明けに食う気もせず、かと言って起きたばかりの夕方前に食う気もせず。
結局、現場に出る前、会社の近くの定職屋で採る晩飯だけになっている。
「不健康過ぎません?」
「元から健康的な生活なんか送ってなかったしな」

□ 49_道標 □
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テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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狡い男

女子の人数が少ないので、工学部の女子大生はモテると聞くけど、本当かしら?
友人の息子さんは企業の研究所で働いていますが、今まで一度も彼女が出来た事がないそうです。
学部時代から忙しすぎて、普通に交際する時間が中々とれないし、今の職場には、適齢な女性が居ないという環境。
長身で好感の持てる印象だけど、本人にその気が全くないそうです。
男ばっかりの環境にすっかり慣れているそうです。
ちなみに、中学・高校は公立の共学。
その友人は離婚されていて、それが影響して女嫌いじゃないかと心配されてます。
一方、ウチの愚息は、私立の中高一貫の男子校出身。(高校から入学する人もいますが。)しかし、高校生の時には、バカップルで校内でも有名。大学受験の追い込みの為に、家には喧しい妹がいるので、勉強に集中さす為、ホテルで缶詰めさせたいと夫が言うから、担任教師(独身のイケメン)に相談したら、日頃、温厚な方が激昂して、「駄目です!そんな事したら、女が部屋に来ます!あの女の学校の教室に乗り込んで、『ウチの大事な生徒に手を出すな!!』と言ってやりたい!」と、捲し立てられて、ビックリしました。
結局、ホテルの部屋はとりませんでした(笑)。
息子は、センター試験直前にも関わらず、クリスマスには神戸ルミナリエ、正月には初詣へバカップルで行き、大学に合格すると、いよいよ上京直前に、ラブレターみたいな別れの手紙を彼女に書きました。
下書きが机に放り出してあったので、こっそり読みました。
…お前に出逢ってからの3年間は、出逢う前の15年間の何倍も楽しかった。80歳になっても、愛している!
と、書いてありました!!
子供だと思っていたけど、ちゃんと恋愛していたんだわ。
でも、別れるのにこんな事を書くなんて、狡い男ですね。

いけない魔法。

出身大学が、工業系の単科大学でした。
今はどうか分かりませんが、私が在籍していた頃、男女比は98:2と言ったところ。
恐らく、彼氏のいない女の子はいなかったのでは無いのでしょうか。
知り合いの元自衛官も言っていましたが
あまりにも女性が少ない環境だと「女であること」だけで全てを赦してしまうような
いけない魔法にかかるのだそうで…。

それにしても、息子さんの恋愛術には感心します。
狡いと言うか、純粋と言うか。
恋愛が楽しくて明るいものだと思える内が、華なんでしょうね。
Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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