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希求★(3/5)

翌朝。
季節外れの暑さだったのは覚えている。
バス停を通り過ぎ、地下鉄の入口までやってきた。
激しい動悸と酷い悪寒。
感じたことの無い類の恐怖だった。
そんな俺の気分を無視して、電車の時間は迫る。

久しぶりに乗る地下鉄は、相変わらず混雑していた。
つり革を持つ手が、わずかに震える。
駅を幾つか通り過ぎ、緊張がピークを迎える頃、わずかに鼻で笑う声が聞こえた気がした。
後ろを振り返ることは、出来なかった。
ゆっくりと、感触を確かめるように足の付け根辺りを触られる。
その手は腰を周るように前の方へ動き、スーツのポケットへと入ってくる。
スーツの上からとは違う、リアルな感触。
ポケットの中の手は、やがて俺のモノを軽く撫でて来た。
目眩がしそうなほどの嫌悪感。
それでも、耐えるしかなかった。

幾つか駅を過ぎた頃、不意に手の動きが止まり、俺の体から離れていく。
「次の駅で降りろ」
確認しなくとも分かっていたが、その声で、改めて現実を突きつけられた。
その駅は、俺が降りる駅でも、彼の勤務先に近い駅でもない。
疑問に思ったが、そんなことはどうでもいい気分だった。
俺には、降りる以外に選択肢が無かったからだ。

改札を出て、乗り換え通路を歩く。
この駅は3路線乗り換え可能な駅、となっているが
実のところ、互いの駅間が遠く、あまり乗換えで使っている客はいない。
出勤時間にもかかわらず、通路を歩く人影はまばらだった。
無言で歩く俺に、彼は声をかけてくる。
「会社に電話を入れた方が良いんじゃないか」
思わず睨み付けた。
その態度に、彼はそれ以上の威圧的な表情をする。
「すぐに帰れると思うなよ」
寒気がして、背中に冷や汗が流れるのを感じた。

現場直行で、昼には戻る。
俺が会社にそう電話を入れた後、彼は再び歩き出し、通路途中のトイレに入っていった。
通路もまばらなのだから、トイレは更に人気が無い。
ひんやりとした空気に、独特の嫌な臭い。
彼は、一番奥のブースに入るよう促した。
「壁を背にして、立って」
言うとおり、和風便器をまたぐように、立つ。
ドアが閉められ、カバンはフックにかけられた。
吐き気がするような状況だった。

俺のベルトに手がかかる。
甲高い金属の音が響き、まもなく体から離れていく。
「手、出して」
ためらいながら、両手を差し出す。
震えは、もう隠せなかった。
彼はさも愉快そうに、手首にベルトを巻き、締め付ける。
そして、俺の頭上にある金属製の棚に結びつけた。
体の自由を奪われることが、これだけ人を不安にさせるのかと実感する。

彼は、次に俺のネクタイを掴むと、強く引っ張った。
不気味な笑みを浮かべた顔が、近づく。
手首のベルトがわずかに食い込む。
「僕ね、君みたいな生意気なヤツに屈辱を味あわせてやるのが楽しくて」
「どうして・・・」
ネクタイが徐々に首を締め付け、苦しくなってくる。
「下請けの癖にエリート面してんのが、気に食わないんだよ」
俺がいつそんなことをした?
ただ、認められようと、必死に仕事をしてきただけじゃないか。
アンタの仕事で大きなヘマをしたことも無い。
理不尽すぎる。

□ 04_希求★ □   
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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