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昇華(5/5)

久米が言った、好き、と言う言葉。
あれから、その意味を考えない日は無かったかも知れない。
いつも笑顔を見せてくれていた久米。
けれど、最後に見たあいつの顔は、自身の中に持つ感情を吐露する悲壮な表情。
それに応えてやれなかったことが、俺の中で大きな後悔として残っていた。
この気持ちをどうやったら整理できるのか。
答えの無い問を、必死で考える、毎日。

***********************************

静岡にある久米の実家では、彼の母親が出迎えてくれた。
「遠いところ、わざわざありがとうございます」
僅かに疲れを見せる母親は、優しい口調で感謝の念を述べる。

笑顔の写真に再会したのは、あれから2週間ほど経ってからのこと。
久米の葬儀には、仕事の都合でどうしても行くことが出来なかった為
改めてお伺いします、と連絡を入れておいた。

居間を抜けたところにある和室には、真新しい仏壇が置かれていて
その中に、久米の写真が飾られていた。
あれは確か、大学4年の夏に行ったゼミ合宿でのもの。
俺が持っている写真では、久米の隣には俺が映っているはずだ。
あの笑顔を見ることも、笑い声を聞くことも、もう出来ない。
込み上げてくるものを堪えるよう、その前に座り、線香を手向ける。


「大学のお友達のことは、あまり知らないの。ごめんなさいね」
「いえ、お気になさらず」
出されたお茶を飲みながら、しばらく世間話をする。
お互い知らない同士と言う事もあり、おのずと話題は久米の話になった。
「・・・そう、6年間もお付き合いしてくださっていたのね」
「大学に入ってすぐ、親しくなったので」
「あまり実家にも帰って来なくて。まぁ、それだけ大学が楽しかったって事かしら」
「かも知れません。僕も、実家に帰るより、友達といる方が楽しかったですし」
「ご実家は、どちらなの?」
「山形の・・・尾花沢って所なんです」
寂しげな笑みを浮かべていた彼女の顔が、フッと緩む。
「スイカの名産地なんですって?」
「ええ、良くご存知ですね」
「秀晃が、そんなことを話していたなって、思って」
「え?」
「夏になると、スイカを持ってくる友達がいるんだって」
「ああ、確かに・・・実家から送られてくるスイカを、研究室で食べてました」
夏の風物詩、久米がそう笑っていた情景が蘇る。

「・・・っ、すみません」
感情の堰が、急に崩れた。
溢れる涙を、止められなかった。
「秀晃は、幸せね」
母親は、少し鼻をすするように、呟いた。
「いつまでも、思い出の中で、笑っていられるんだもの」

***********************************

海ほたるの中は、あたかもショッピングモールのような作りだった。
土産物屋やレストランなどがひしめき、観光客も多い。
賑やかな雰囲気を感じていると、ここは本当に海の上なのか、そんな思いが過ぎる。

川崎方面を向くデッキへ出てみた。
遠くに川崎、横浜の影が見える。
相変わらず空は晴れ渡っていて、海の濃い青とのコントラストが眩しかった。
海の下には、俺が走ってきた海底トンネル。
久米が散った、場所。


あいつと友達で良かった、今でもそう思う。
それなのに、告白を聞いてから、その関係に歪みが生じたのも確かだった。
変わらない関係を望んでいた久米の気持ちを、未熟な嫌悪感で受け入れられず
後悔を引きずるように、ここまでやってきた。
昇華なんて、出来る訳無い、それがやっと分かった。
きっと俺は、久米を思い出す度に、この苦しさに苛まれるんだろう。
いつになったら、素直にあの笑顔を思い浮かべられるんだろう。
あいつがこんなことを望んでいないのは、分かっているけれど。

デッキの柵の向こうに広がる海を覗き込む。
午前中の海とは違い、波は穏やかになっていた。
「ごめん・・・ホントに・・・」
目の前に広がる青が、徐々に歪んでいく。
やがて、それは間を置かずに原形を留めなくなり、流れて行った。

□ 23_昇華 □
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テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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アプローチも相手次第

満更でもないなぁ…と思っている人に告白なりアプローチされると、例え苦い結末であろうと、思い出は美化されて残ります。
久米は死んでも、いつまでも奥田の心の中に、その笑顔と共に生きる。この題名のように昇華される。
そして、いつの日か奥田が死んだら、天国か極楽で再会する。→宗教を信じているなら…。
無神論者だと、死んだら無になるだけ。
でも、それに耐えられない多くの無神論者は未来への希望・人類の進歩を夢見る。
死んだら無になるという虚無感は、普通の神経では耐え難い、おそらく!

逆に、全く好意を持てない人に変なアプローチをされると、後味の悪さがいつまでも残ってしまう。

昔の話。
夕食に誘われて、断った翌日に言われた台詞。
「あなたが来ないから、1人で寂しく鰻重を食べました。」
永久に1人で食べていて!しかも、鰻とは!!
この人の転勤ほど嬉しかった事は無いです。
私は、女子学生達から親切にも注意されてたしね。
「アイツさぁ、美人だと、よろけた振りして触るんだよ!美人じゃないと、無視するから余計に腹立つわ(怒)!!触られないように気を付けたほうが良いよ!!」←年齢が近いせいか、何故かタメ口で話しかけられてました(笑)。
その注意、もっと早く言ってくれたら良かったのに!?と、思いました。

消化。

年が近い、身近な人間の死を、私は容易に昇華出来ませんでした。
むしろ、自分に非があるわけでもないのに
咎を背負わされたような気分を、未だに引きずっているような気がします。
妄想の世界ではありますが
彼らが上手く感情を消化し、昇華し切れることを祈るばかりです。
Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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