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昇華(1/5)

京葉道路の宮野木JCTを過ぎると、車の量は大分減った。
途中の幕張PAで買ったチョコレートを口に放り込みながら、目の前に広がる空を見やる。
まさに、晴天。
絶好のドライブ日和だ。

蘇我ICに入る頃、道路の名前は京葉道路から館山道へと変わる。
海の気配を僅かに感じながら、車は更に南を目指す。
ドライブのお供は、車についたナビだけ。
『目的地まで、およそ25km、です』
「おうよ、ガンガン行くぜ」

ラジオから聞こえてくる流行の洋楽。
正直、そう言ったものには疎いから、CMで聞いたことあるかな、くらいの感覚だ。
毎日、朝から晩まで仕事をして、CDを買ったり、音楽をダウンロードしたりもしない。
当然と言えば、当然なのかも知れない。
こうやって歳を取っていくんだろう、と思うと、可笑しくなって来る。

***********************************

「奥田、朝だぞ」
大学の研究室に置かれたソファで仮眠を取っていた俺は、そんな声で起こされる。
「あぁ・・・何時?」
「8時半」
そう言って自席についたのは、同じ研究室に所属する久米だ。
「早ぇな」
確か、昨日あいつが自宅に帰ったのは夜中の3時過ぎ。
俺が堪らずここに横になったのは、それから30分くらい経ってからだったと思う。
「お前がやった実験結果、早めに解析しようと思ってね」
「そう言われたら・・・俺も起きなきゃなんねぇじゃん」
「だから、起こしただろ?」

久米とは学部生の頃からの友達だ。
縁あって同じ研究室に入り、そのまま修士課程まで進んできた。
今は、共同研究という名目で、構造物に対する風応力の影響に関する修士論文をまとめている。
俺が模型を作って実験をし、あいつがその結果の解析を行う。
お互いの得意分野を活かせるから、そのメリットは大きかった。

「おい、実験室の電気点けっぱだぞ!」
「やべ・・・」
廊下から聞こえる怒鳴り声の主は、研究室の菊地先生。
豪快な言動とは裏腹に几帳面な性格で、ちょっと室内を乱雑にしようものなら
即座に怒声が飛んでくる。
けれど、俺たちに年齢が近いせいか、親身になって相談に乗ってくれることも多く
学生の信頼は大きかった。
「すみません、すぐ消します!」
「もう、消したよ!」
そう言いながら、先生は研究室のドアから中を覗き込む。
「お前、そんなんじゃ、実験の内容も突っ込まれんぞ?」
「はぁ・・・」
「久米の几帳面さ、少し分けて貰ったらどうだ?」
彼はそう笑いながら、自室へ向かって行った。

「幾らでも、分けてやるけど?」
PCの前でやり取りを見ていた久米が、悪戯っぽく言う。
「俺は、自分の性格は嫌いじゃねぇの」
「ずぼらなのも?」
「そ」
「ま、オレもお前の性格は今のままで良いと思うよ」
「何それ?」
「フォローのしがいがあるじゃん」
そんな得意顔の友を見て、悔しいような、嬉しいような気分になる。
確かにあいつに助けられた部分は多々あって、それは逆もしかりだった。
日常の、何でもない出来事で、俺は度々実感した。
こいつと友達で、良かった、と。

***********************************

富津金谷ICの出口を示す標識が見えてくる。
高速を降りて一般道へ入り、道なりに車を進めると、やがて目の前には海が広がる。
大きくカーブを取った道を下り、更に南下すると、目的地の金谷港に到着した。

フェリーは既に着岸していて、乗り込んでいく車の列が見えた。
急いで乗船券を買って、その列に混ざる。
車のままで船に乗り込むと言うのは初めてで、若干緊張しつつ誘導通りに車を進め、停車させる。
造船所のような無骨な車両甲板の中を眺めながら、俺はデッキへ上がった。

□ 23_昇華 □
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テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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船の恐怖症

フェリーに乗っている現在と、工学の大学院生時代との話が平行するのでしょうか!?

私は、どうも、船が苦手。なので、なるだけ乗らないです(笑)。

今は、明石海峡大橋があるけど、昔、フェリーで四国へ行った時、全然揺れないのに気分が悪くなった事があります。
鳴門の渦潮を見る為に遊覧船に乗った時は、揺れたのに全く平気でした。渦潮を見たい!という好奇心のせいで、平気だったかもしれないですね。

実は、飛行機も嫌いだけど、これは他に代替手段が無い場合は、乗るしかないです。
離陸時が、嫌。
一端飛び出したら、まぁ、平気になるけど…。
以前、機内放送後、急降下した時の恐怖が頭にこびりついているから…。放送後、覚悟している間が、物凄く怖かったですよ。

やっぱり結局。

今回は、現在と過去の二重の展開になっています。
半分は学生もの、半分はドライブもので、サラリーマンものらしき情景はあまり出てきません。

乗り物は苦手ではありませんが、普段それほど大移動もしないので
大概は電車での移動になってしまいます。
住んでいる所が羽田から遠いので、岡山くらいまででも新幹線を選んでしまい
結局後悔することが多いのですが・・・。
Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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