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悪魔★(2/4)

あれから、半月ほど。
夏は益々勢いを増し、人間の気力を奪っていく。
しかし、菅原君は相変わらず長袖にネクタイと言ういでたちだった。
残業中に喫煙スペースで彼に出会っても、袖を捲くっていることは無かった。
傷を隠す為に、あの格好をしていることは明白だったが
興味本位で質問することも悪い気がして、何も聞かなかった。

そんな中、暑気払いが行われた。
プロジェクトメンバー全員が参加するものだから、店は貸切。
久しぶりの息抜きと言った感じで、大いに盛り上がった。

気になる話を聞いたのは、三次会の席。
流石にそこまで行くと参加者は極少数で、飲んだくれの集まりになった。
「そういや、あの菅原ってのは、松尾のところのメンバーだったな」
不意にそう聞かれた。
仕事も出来るし、人となりも良い彼の話がここで出てくるとは思わず、少しうろたえる。
「あいつねぇ、前はちょっとやばかったらしいぞ」

どうやらそれは、うちに来る前にいた現場の話らしい。
今のプロジェクトよりは小規模のシステム設計に携わっていた時
頻繁に欠勤することがあったそうだ。
フラフラのままで出勤し、そのまま職場で倒れてしまったこともあると言う。
「介抱した社員が言うには、体中、傷だらけだったんだってよ」
仕事に問題は無かったが、結局その現場は他の社員に引継ぐ事態になったとのこと。
今の状況からは、とても想像できない。
「その後、あいつはSMにはまってるって言う噂が流れたらしいからな」

あの時の光景を思い出した。
傷だらけの腕を隠し、そそくさと去っていった時の彼の表情。
飲んだくれ共は、笑い話として昇華してしまったようだが
俺の中には、わだかまりが残ったままだった。


暑気払いの後、プロジェクトはいよいよ忙しさを増してきた。
おしゃれにうるさい千葉さんの格好も、Tシャツにジーパンとラフなものになり
現場の雰囲気もピリピリし始めている。
その中で、菅原君の格好だけは、相変わらず変わっていなかった。

今晩は終電にも間に合いそうも無いな、そう観念した夜。
いつものように眠気覚ましのコーヒーを持って、喫煙スペースへ向かった。
電気は点いておらず、先客はいないようだった。
そう思って中に入ったものだから、隅に人影を見つけ、ドキッとさせられる。
「何だ、びっくりした。電気くらい点けたら良いのに」
中にいたのは菅原君だった。
「すみません、すぐ出るから良いかと思って」
そう言った彼の袖は捲くられていたが、薄暗い中で傷までは見えなかった。

そこまでしても見られたくないって事か。
忙しさに、少しいらついていたのかも知れない。
俺は、立ち去ろうとする彼の腕を掴んで、聞いてみた。
「その腕の傷は、何?」
彼は俺から視線を反らし、押し黙る。
「それを隠す為に、いつも長袖なんだよね」
「別に、何でもありません」
腕を振り払おうとする拍子に、彼のうなじが見えた。
こんなところにも、傷がある。

「SMでついた傷なんだって?」
はっとする彼の表情に、噂が本当であったことを悟る。
「・・・もう行かないと」
単に意固地になっていただけなのか。
彼を喫煙スペースの中に引き戻し、窓際に追いやる。
逆光になっていて、彼の表情はよく分からなかったが
薄い闇に溶けた顔には、不安と困惑が混ざっているように見えた。
「前の職場で、問題起こしたって聞いたよ」
彼はうつむいたまま、声を絞り出す。
「こちらでは、迷惑はおかけしてないつもりです」
「でも、まだ続けてるんでしょ?」
「それは・・・仕事には支障が出ないようにしています」

俺に元々加虐的な嗜好があったのかどうかは分からない。
今まで男相手に欲情したことも、もちろん無かった。
「口開けて」
冷たい笑みを浮かべていた気がする。
「え・・・?」
俺は彼の首筋を掴み、彼の口の中に舌を突っ込んだ。
喉の奥から、くぐもった声がする。
苦しそうな表情が、よく見えた。
しばらくすると、硬直していた彼の舌は段々と従順になってきた。
かすかな水音が辺りに漏れる。

「その表情、凄いそそられるね」
肩で息をする彼を見ながら、わざと意地悪く言ってみた。
「男にされても、感じたりするわけ?」
肩から下に、体を撫でていく。
彼が言葉を発したのは、手が下半身にかかる頃だった。
「・・・やめてください」
その言葉が引き金になることを、彼は分かっていたのかも知れない。

□ 02_悪魔★ □   
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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