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悪魔★(4/4)

彼から離れ、服装を整える。
何度もむせながら、喉に残る妙味をかき消そうとしている彼を見下ろす。
「よく頑張ってくれたからね」
その場にしゃがんで、真正面から向き合う。
少し伸びた彼の髪を撫でながら、モノを再び弄りだす。
視線は逸らさせなかった。
彼が上り詰める表情を見つめながら、手に力を込める。
手指から伝わる感覚で、彼の昂りが分かった。
「我慢しなくて良いよ」
そう囁くと、彼は押し殺した喘ぎ声を上げて、イった。

彼の手の自由を奪っていたネクタイを解く。
元からあった傷の上に、新しい跡が上書きされていた。
手首をさする彼を見て、つい言葉が出る。
「・・・すまない」
その言葉を聞いて、彼は俺を見上げる。
目は潤み、上気した顔色だったが、表情は冷たかった。


先に行ってくれという彼を残し、俺はその場を離れた。
エレベーターの中で、気持ちを落ち着ける。
昂揚の後にやってきたのは、後悔だった。
彼の性癖があったにせよ、ここでは俺が上司であって
裁量一つで、彼の立場はどうにでもなる。
彼の中には、そんな恐怖もあったに違いない。
最後に向けられた表情が、頭から離れなかった。

彼が戻ってきたのは、ずいぶん経ってからだった。
手には、コンビニ袋が提げられている。
「何処行ってたんだよ?」
そんな同僚の言葉に、彼はいつもの愛想笑いを浮かべて言った。
「気分転換に散歩したついでに、いろいろ買ってきたよ」
丑三つ時を回り、どんよりしていた雰囲気が、少し緩和される。

「そういや、ネクタイどうした?」
ハッとして彼を見ると、ワイシャツのボタンは上まで留められていたが
ネクタイはしていなかった。
「ああ、さっき煙草で焦がしちゃったから、外したんだ」
「子供じゃあるまいし、何やってんだよ」
俺一人が、笑えなかった。
さっきまでの余韻は、シャツについた皺に残っているくらいで、他には何も無かった。


それからも、日常は変わらなかった。
心なしか彼に避けられているような気もしたが
実のところ俺が避けていたのかも知れない。
思わぬきっかけで目を覚ました加虐心も、あれ以来眠り続けている。

久しぶりに深夜残業に突入した夜。
ふと彼の席を見ると、姿が見えなかった。
何処にいるのかは、予想できた。
電気が点いていない喫煙スペース。
まばらに置かれたパイプ椅子に、彼は浅く腰掛けていた。
「お疲れ様です」
腕の傷は、もう大分消えていたようだった。
その視線に気がついたのか、彼は苦笑しながら言った。
「最近は、行かなくなったんで」
その後に続く言葉を、彼は飲み込んだ。

席を立つ雰囲気は無かった。
自分の煙草に火を点け、彼の顔を見る。
街の灯りをほのかに受けた目は
まるで俺の中の悪魔を待ちわびているように、輝いていた。

□ 02_悪魔★ □   
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共犯者の色目

再読しました。
最後のラストが良いですね。誰の心の中にも潜む「悪魔」の覚醒。個別の話を書いていて、浮上する普遍性。其こそが小説の醍醐味です!

あなたの小説を読むようになってから、洞察力が上がったのか、ずっと心の何処かに疑問点として引っ掛かっていた事が、突然、繋がりました。
小学5年生の時、父の知人の御嬢様の女子大生が、私の家庭教師として家に来ました。特別に美人でもないのに、何故か人を惹き付ける人でした。
ある日、そのIさんが、仔犬が産まれたからと言って、柴犬の仔犬を連れて来ました。そのプレゼント程、嬉しいものは無かった!庭に柵を作って、放し飼いしました。
しかし、私が6年生の時。柵が1ヵ所歪んでいて、其処から逃げて表の道路に出てしまい、車に轢かれて死んでしまいました。

それから、何年も過ぎた頃。
2人の幼子を抱えた女性が離婚話を父に相談。父が弁護士を紹介して、離婚が成立。
そして、父はその親子と一緒に遊園地等へ出掛けるようになりました。仕事が多忙という理由で、私とは1回も遊園地へ行った事が無いのに…。その女性こそ、Iさんです。離婚して旧姓に戻られたのに、長い間、気付きませんでした。
それより以前に、赤ん坊を1ヶ月程預けた看護師は別人です。

そして、今日、この『悪魔』を読み終えて、突然閃きました!
何で柵が1ヵ所歪んでいたのか?
犬が死んで号泣した母!
逃がすだけのつもりが、不測の事故死で良心の呵責があったのでは?
私は犬を飼いたいと訴えていたが、母は反対していた事。だから、父が仔犬を買い、Iさんに協力して貰って、Iさんがプレゼントしたように見せ掛けたと、考えられます。2人がついた嘘が、皮肉な事に2人を親密にさせてしまった。
逃がした理由は、犬嫌いでは無い、多分。…コントロール不能な憎悪。
この『悪魔』と言う小説は、コントロール不能な様々な感情が人間に存在する事を描き、普遍性を持っています。
そして、溜め息が出そうな程甘く脳細胞を痺れさせます。…冷や汗と伴に。

初心忘れるべからず。

このblogを始めるまで、小説を書いたことはありませんでした。
男同士の恋愛や性行為を描くような話を読んだことは、殆どありませんでした。
ちょっと書いてみたくなった、その衝動だけで出来上がった話が『猶予』と『悪魔』です。
60編目の話を更新している現在では、良くも悪くも知恵がついて来ました。
これらは、今となっては書くことの出来ない、素直な文章なんだと思います。
色んな意味で、初心忘れるべからず、と心に刻みたいものです。

愛情であっても、憎悪であっても、極端な感情を共有する関係と言うのは
通常では考えられない強い結び付きを生むのでしょうか。
コントロール出来ないからこそ感情と呼ぶのであって
コントロール出来るのであれば、それは理性と呼ぶべきなのかも知れません。
それでも人間は感情に揺さぶられ、生きている。
改めて、憐れで愛おしいものなんだと、貴女の文章を見て思いました。
Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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