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悪魔★ (1/4)

「今日も暑いなあ」
そんな言葉が挨拶代わりになっている、今日この頃。
うちの会社はクールビズを推奨しているので
夏らしく半そでのワイシャツを着ているが、それでも暑い。
クールビスの代わりに空調の温度が28℃に設定されているからだろう。

そもそもパソコンが商売道具であるIT企業で、28℃という設定温度は高すぎる。
一フロアに何十台もパソコンが置いてあり、それぞれが排熱しているのに。
役所指導の設定温度だと総務は言っているが
お役所が決める基準は、現場のことなんて何も考慮されてないんじゃないか。

「菅原君、長袖でよく暑くないねえ」
大きなうちわで勢いよく扇ぎながら、部下の千葉さんが話しかけたのは
協力会社から出向してきている菅原君だった。
「ええ、これくらいで丁度いいですよ」
キーボードを打ちながら、涼しげな表情でそう答えている。
「あたしなんて、この格好でも十分暑いよ」
キャミソールに薄手のカーディガン、フレアのミニスカートにヒールの高いサンダル。
それ以上薄着は無理だろう。
って言うか、その格好は逆セクハラだ。

はは、と愛想の良い笑みを向けて仕事に戻る彼は、そんな千葉さんの格好とは対照的で
上着すら着ていないものの、長袖のワイシャツにネクタイまで締めている。
袖口を開けて捲くる者も多いが、それすらしていない。
協力会社の社員だからと言って、特に服装に関しては定めていないし
彼の会社だって、今時分はクールビズを推奨しているはずだ。
若干違和感を感じつつ、個人の志向もあるだろうと、特に気にはしなかった。


今うちの部署で手がけているのは、大手食品会社のシステム構築。
3ヶ月前からプロジェクトが動き出し、マスターアップまではまだ時間があるものの
クライアントからの要望に応える為、度々深夜作業に及ぶこともある。

今日も、そんな日だった。
夕方先方から連絡があり、明日予定されていたプレゼンの内容の変更が通達された。
部署の中で数人が残り、変更作業を進める。
プロジェクトマネージャーである上司が出張で外しているため
変更内容のチェックは、俺の仕事になった。
とは言え、作業が一段落するまで、俺の出番は無い。

自販機でコーヒーを買って、喫煙スペースへ向かった。
電気がついていることで、先客がいることを知る。
残業に駆り出された菅原君だ。
お疲れ様、と声をかける前に、目に入ってきたのは袖を捲くった彼の腕だった。
彼はその視線を感じたのか、急いで袖を下げ、ボタンを留める。
「お疲れ様です。松尾さんも大変ですね」
そう言って、あの愛想の良い笑みを浮かべた。
けれど、明らかに目は動揺していた。

彼の腕には、いくつもの傷がついていた。
手首には、きつく縛られたような跡。
肘から下の部分には、火傷や何かで引っかかれたような傷。
それらが両腕に、生々しく残っていた。

「お先に失礼します」
そう言って立ち去ろうとする彼に、疑問を投げかけようとした時
彼はこちらを振り向いて、目で訴えてきた。
何も聞かないでくれ、そう言っているように見えた。

□ 02_悪魔★ □   
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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