Blog TOP


警笛(3/5)

あれから数日。
森下さんが書いた新しい物件のプランを眺めていると、声をかけられた。
「萩原君、結城さんが来たよ」

電話で話していた通り、結城さんは後任の営業さんを連れてきた。
「あっ・・・」
恐らく、同時に声を上げたのだと思う。
結城さんの後ろに立っていたのは、銚子で出会った彼だった。
「何、知り合い?」
驚いていたのは結城さんも同じだったようで、俺と彼の顔を交互に見ている。

「この間、銚子で一緒になりまして」
「そりゃ、凄い偶然だねぇ」
「結城さん、この間僕に、銚子でもどうだって言ってたじゃないですか・・・」
改めて名刺交換を済ませ、打合せ机に向かい合った彼は
上司の顔を見つつ、苦笑しながら言った。
「それ、私も言われましたよ・・・。同じこと皆に言ってるんですか?」
「さぁ、どうだったかなぁ」
いつもの調子でのらりくらりと話す結城さんに、ペースを持って行かれる。
「でも、良かったでしょ?」
「ええ、何て言うか、心が洗われると言うか」
「毎日忙しいだろうから、たまにはぼんやりしなきゃ」


新しく営業担当になった石塚君とは、それをきっかけに連絡先を交換し
ちょくちょくメールをするようになった。
結城さん仕込みだからなのか、電車の話になると、話題は尽きない。
俺が新車好きと知ると、何処の路線にどんな新車が入ると言う情報もくれる。
時間が合えば、一緒に乗りに行きましょうという話もしているのだが
なかなか上手くは合わないのが実情だ。

ある週末の夜、そんな彼と飲みに行く機会が出来た。
待ち合わせ場所の上野の駅前は、流石に人が多い。
浅草橋に程近い場所にあるうちの会社からは、決して遠くは無いけれど
帰りは京浜東北線で素通りしてしまうものだから、あまり立ち寄る機会が無かった。
少し時間に遅れてしまい、階段を駆け上がる。
改札を出て広小路口へ向かうと、彼の姿が見えた。
しかし、どうやら様子がおかしい。
彼の傍らには、父親と言うには若く、兄と言うには歳の離れた男が立っていた。

「本当に、もう、勘弁して下さい」
「どうして?金なら、ちゃんと出すよ?」
「そういうの、止めたんです」
おぼろげに、会話が聞こえてくる。
絡まれているような雰囲気だったが、声をかけるのにはタイミングが悪すぎた。
会話の内容に違和感を感じつつ、改札の方へ戻り、電話を入れる。
「・・・お疲れ様です」
「お疲れです。ごめんなさい、今、上野に着いたんですけど」
誰なんだ、と言う男の声が聞こえ、それを制止するような物音がする。
「すみません・・・どちらにいらっしゃいます?」
「改札出て、パン屋の辺りです」
「すぐ行きますんで、ちょっと待ってて下さい」
そう言って、電話は切れた。

彼が来るまでには、少しの時間がかかった。
あの男を振り切るのに、手間取っていたのだろうか。
やってきた彼の顔には、若干の疲れも見えた。
「お待たせしまして」
「いえいえ、こちらこそ」
頻繁にメールのやり取りをするようになって、大分打ち解けて来たと思ってはいるけれど
彼の端々に見える隠されたものが気になっていたのも、確かだった。


適当な居酒屋で、ひとしきり鉄道話に花を咲かせる。
「SLなんて、興味あります?」
「う~ん、興味はあるんだけど、わざわざ行くかって言うと・・・」
「僕、ちょっと前に、大井川に乗ってきたんですよ」
「ああ、雑誌ではよく見るね」
彼が話す大井川鐵道は、川に沿ってSLが走ることで有名だ。
今まで俺は、SLに乗ったことも無ければ、実物を見たことも無かった。

「僕も初めてSL乗ったんですけど、案外乗り心地が悪くて」
「良かったって、勧めてくれると思ったのに」
「いや、SLはそんな感じだったんですけど、その先にあるアプト線って言うのが最高で」
川と湖と山とダムを見ながら、トロッコ列車で走る、その路線。
途中、渓谷にかかる鉄橋の上では、しばらく停車して景色を楽しむことも出来ると言う。
「あそこは、ホントにお勧めです」
彼はそう言って、屈託の無い笑顔を見せる。


店を出たのは、それほど遅い時間ではなかった。
ちょっと寄りたい場所がある、と言う彼に付き合って降りたのは日暮里駅。
鶯谷の方へ戻るようにしばらく歩くと、谷中霊園に連絡する鉄橋に着く。
「たまに、ここに来ては、電車眺めてるんです」
そこからは、京浜東北線や山手線、常磐線など、多くの路線が一望出来た。
しばらく眺めているだけでも、足元を何本もの電車が通り過ぎていく。
右手には京成の線路もあって、新しくなったスカイライナーについ目を奪われる。
彼は、日暮里駅に入っていく山手線を見ながら、呟いた。
「・・・さっき、広小路口にいらっしゃいましたよね」

□ 17_警笛 □   
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   ■ 5 ■
>>> 小説一覧 <<<

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

コメント

非公開コメント

Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

*** Link Free ***



>> 避難所@livedoor
Novels List
※★が付く小説はR18となります。

>>更新履歴・小説一覧<<

New Entries
Ranking / Link
FC2 Blog Ranking

にほんブログ村[BL・GL・TL]

駄文同盟

Open Sesame![R18]

B-LOVERs★LINK

SindBad Bookmarks[R18]

GAY ART NAVIGATION[R18]

[Special Thanks]

使える写真ギャラリーSothei

仙臺写眞館

Comments
Search
QR Code
QR