成就★(11/13)
彼は、一体、全てのことにどうやって耐えているんだろう。
業務をこなす姿は、いつもと何も変わらない。
忍耐力、年の功、人間としての器の大きさ。
どれも持ち合わせていない俺には、想像もつかなかった。
並行して進めていた別物件の作業が終わったのは、夜も10時を過ぎた頃だった。
オフィスには、まだ所々照明が点いている。
同じ島の端に座る仁科さんも、まだ残業中だった。
「お先に失礼します」
「おう、お疲れ」
資料の整理に追われているのか、彼はパソコンの画面から目を離さない。
俺は、抱えた疑問を聞くべきかどうか迷い、その場に立ち尽くしていた。
気配に気がついたのか、怪訝な顔で俺の方を見る。
「何だ?」
「いえ、あの・・・」
「はっきり口で言わないと、分からないぞ?」
「・・・どうやったら、忘れられますか」
一瞬困ったような表情をした後、いつものように口の端を上げて笑う。
「これだけ仕事に追われてりゃ、嫌でも気が紛れる」
そう言うことじゃない、と思う気持ちが顔に出たのか、彼の表情が締まる。
「・・・忘れられる訳、無いだろ?」
「未だに食欲は無いし、寝る時も導入剤飲んで、無理矢理寝てる」
そう言って、目を伏せた。
静かに溜め息をつく彼が弱弱しく見えて、居た堪れなくなる。
「・・・このままじゃ、いつか壊れるかもな」
崩れ落ちそうな気持ちを抱えて歩いているのは、俺だけじゃない。
結局仁科さんは、その日の分の仕事を諦めたらしい。
二人で、会社を出た。
この時期にしては珍しく、風が冷たかった。
駅へ向かう道すがら、ふと聞いてみた。
「僕は、何か力になれますか?」
彼は俺を横目で見ながら、フッと笑う。
「言っただろ?」
「え?」
「お前に頼られてる、求められてると思えば、オレは立っていられる」
歩みを止めた彼につられて、一緒に立ち止まる。
短い沈黙が、二人を包む。
「・・・金曜の夜、オレの家に来い」
思わぬ言葉に息を飲んだ。
その意図は、明白だった。
無意識の内に、何かを求めていたのか。
男に興味は無い、そう言った彼は、自室で俺とキスをする。
あの夜には無かった課程を踏むことで、これからのことが別のものになる。
俺の手を掴んだまま離さない、眼鏡の奥の視線を断ち切って欲しい。
そう思いながら、長い時間、舌を絡めた。
互いに裸になり、ベッドの上で身体を重ね合わせる。
彼の体温を感じ、自分の身体が熱くなるのを感じた。
「どうして欲しいんだ?」
彼の声が耳元で響き、頭に血が上ってくる。
「・・・虐めて下さい」
「抽象的過ぎるな」
彼は、鼻で笑う。
「何を、どうして欲しいのか、具体的に言えよ」
髪から徐々に、手が下へ降りていく。
やっと赤みが引いた乳首に、彼の指がかかる。
触られてもいないのに、思わず身体が緊張した。
俺の口から発せられる言葉を待っているように、指はその周りをゆっくりと動く。
「乳首・・・摘んで下さい」
自分の言葉で、昂揚する。
追ってやってきた刺激は優しいものだったのに、快感は大きかった。
手で口を塞ぎ、声を止める。
彼はそれを制するように、俺の手を避ける。
「お前の声が無きゃ、興奮できないだろ。お前も、オレも」
刺激は徐々に強くなる。
短い喘ぎ声が、部屋に響いた。
「強く・・・抓って下さい」
彼は、俺の言うことを素直に聞き入れてくれる。
痛みと快感で顔が歪み、その力が一瞬緩む。
彼の肩に手を置き、力を込めて掴んだ。
両方の乳首が、抓られ、引っ張り上げられるのが見える。
喉の奥から、情け無い声が出る。
「どうなんだ?」
「んっ・・・」
「ちゃんと、言えって」
「気持ち、いい・・・です」
顔を両手で包み、キスをせがむ。
軽く唇が触れた。
「もっと・・・酷く、して下さい」
□ 16_成就★ □
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業務をこなす姿は、いつもと何も変わらない。
忍耐力、年の功、人間としての器の大きさ。
どれも持ち合わせていない俺には、想像もつかなかった。
並行して進めていた別物件の作業が終わったのは、夜も10時を過ぎた頃だった。
オフィスには、まだ所々照明が点いている。
同じ島の端に座る仁科さんも、まだ残業中だった。
「お先に失礼します」
「おう、お疲れ」
資料の整理に追われているのか、彼はパソコンの画面から目を離さない。
俺は、抱えた疑問を聞くべきかどうか迷い、その場に立ち尽くしていた。
気配に気がついたのか、怪訝な顔で俺の方を見る。
「何だ?」
「いえ、あの・・・」
「はっきり口で言わないと、分からないぞ?」
「・・・どうやったら、忘れられますか」
一瞬困ったような表情をした後、いつものように口の端を上げて笑う。
「これだけ仕事に追われてりゃ、嫌でも気が紛れる」
そう言うことじゃない、と思う気持ちが顔に出たのか、彼の表情が締まる。
「・・・忘れられる訳、無いだろ?」
「未だに食欲は無いし、寝る時も導入剤飲んで、無理矢理寝てる」
そう言って、目を伏せた。
静かに溜め息をつく彼が弱弱しく見えて、居た堪れなくなる。
「・・・このままじゃ、いつか壊れるかもな」
崩れ落ちそうな気持ちを抱えて歩いているのは、俺だけじゃない。
結局仁科さんは、その日の分の仕事を諦めたらしい。
二人で、会社を出た。
この時期にしては珍しく、風が冷たかった。
駅へ向かう道すがら、ふと聞いてみた。
「僕は、何か力になれますか?」
彼は俺を横目で見ながら、フッと笑う。
「言っただろ?」
「え?」
「お前に頼られてる、求められてると思えば、オレは立っていられる」
歩みを止めた彼につられて、一緒に立ち止まる。
短い沈黙が、二人を包む。
「・・・金曜の夜、オレの家に来い」
思わぬ言葉に息を飲んだ。
その意図は、明白だった。
無意識の内に、何かを求めていたのか。
男に興味は無い、そう言った彼は、自室で俺とキスをする。
あの夜には無かった課程を踏むことで、これからのことが別のものになる。
俺の手を掴んだまま離さない、眼鏡の奥の視線を断ち切って欲しい。
そう思いながら、長い時間、舌を絡めた。
互いに裸になり、ベッドの上で身体を重ね合わせる。
彼の体温を感じ、自分の身体が熱くなるのを感じた。
「どうして欲しいんだ?」
彼の声が耳元で響き、頭に血が上ってくる。
「・・・虐めて下さい」
「抽象的過ぎるな」
彼は、鼻で笑う。
「何を、どうして欲しいのか、具体的に言えよ」
髪から徐々に、手が下へ降りていく。
やっと赤みが引いた乳首に、彼の指がかかる。
触られてもいないのに、思わず身体が緊張した。
俺の口から発せられる言葉を待っているように、指はその周りをゆっくりと動く。
「乳首・・・摘んで下さい」
自分の言葉で、昂揚する。
追ってやってきた刺激は優しいものだったのに、快感は大きかった。
手で口を塞ぎ、声を止める。
彼はそれを制するように、俺の手を避ける。
「お前の声が無きゃ、興奮できないだろ。お前も、オレも」
刺激は徐々に強くなる。
短い喘ぎ声が、部屋に響いた。
「強く・・・抓って下さい」
彼は、俺の言うことを素直に聞き入れてくれる。
痛みと快感で顔が歪み、その力が一瞬緩む。
彼の肩に手を置き、力を込めて掴んだ。
両方の乳首が、抓られ、引っ張り上げられるのが見える。
喉の奥から、情け無い声が出る。
「どうなんだ?」
「んっ・・・」
「ちゃんと、言えって」
「気持ち、いい・・・です」
顔を両手で包み、キスをせがむ。
軽く唇が触れた。
「もっと・・・酷く、して下さい」
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