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嫉妬★(1/7)

「いいじゃん、時間まだあるでしょ?」
終電が近づく午前1時前。
たまに行くバーで、泥酔した男に絡まれた。
居た堪れなくなって店を出たものの、男はまだ食い下がってくる。
「近くにクルージングもあるし、さぁ」
「興味無いんで」
「オレ、アンタみたいなの、すげぇタイプ」
そう言って俺の手を取り、自らの股間に擦り付けようとする。
「やめて下さい」
腕を力任せに引き抜いた。
「何だよ、バーで男漁ってる、日照りしたゲイのくせに」
逆切れした男が、俺に向かってそう叫ぶ。
言い返す言葉は思いつかなかった。
男の顔を睨みながら、俺は足早にその場を去る。

大通りに出てすぐ、タクシーに乗った。
「駒込まで」
タクシーに乗るような距離じゃない。
終電もまだある。
けれど、もう人の中を歩くのが億劫になっていた。
こんなことは、今までも何回か経験がある。
体の関係無しに、交流を深めることは出来ないんだろうか。
いつも、そう思う。


自分が同性しか好きになれないと感じるようになったのは、大学生の頃だ。
それまでは、男女問わず、他人にそれほど興味が無かったから
気が付かなかっただけかも知れない。
サークルに入り、楽しく時を過ごす中で、ある先輩に複雑な感情を抱いた。
彼のことをもっと知りたい、もっと一緒に時間を過ごしたい、彼に触れたい。
そんな気持ちが大きくなるにつれ、自分への違和感で押しつぶされそうになる。
この時初めて、自分が同性愛者だと悟った。

自分の思いが、周りの仲間に、ましてや彼に受け容れられるとは微塵も思わなかった。
感情をコントロールすることに必死になっていた、と言うのが大学時代の印象だ。
彼が卒業を迎えた時、張り裂けそうな寂しさと同時に
この苦しみから逃れられると言う安堵の気持ちも抱えていた。
それから、あの時のような気持ちに陥ることも無く、ただ時間だけが過ぎていった。

社会人になり、ある程度金と時間に余裕が出来た。
インターネットもこの10年では大きく変化し、知りたい情報は概ね手に入る。
自分と同じような悩みを抱える人がいることを知ったのも、ネットからだ。
それをきっかけに、ゲイバーに足を運ぶようになったのは、2年位前からだろうか。
話しているだけでも楽しかったし、孤独感を紛らわせることが出来た。
ただ、時折、体の関係だけを求めて言い寄ってくる男もいる。
愛の無いセックスは、などと言うつもりは無いのだけれど
どうしても越えられない一線があった。


「柏木、今度の新規物件さ」
あれから何日か経った日の夕方。
同僚の西岡が声をかけてきた。
「川口のテナントビルだっけ?」
「そう。あれの打合せが金曜の午後にあるんだけど、一緒に行けるか?」
俺が担当しているのは、建物の積算業務。
材料や労務費、土工事などの金額を弾いて、工事全体の工費を出す。
物件に合わせて、基準書や物価本を眺めながらの、根気が要る作業だ。

件の建物は、それほど大きな規模でも無いので、西岡と二人で担当する。
奴とは入社当時からの付き合いで、かれこれ5年、顔をつき合わせている。
友達、と言う程の近い関係では無いけれど
時折飲みに行っては、愚痴を言い合うような仲だ。

その日の帰り、もう一人の同期と鉢合わせする。
総務の女の子と仲睦まじく歩く姿を見て、西岡が呆れたように呟いた。
「あいつは、懲りないねぇ」
そんな声が聞こえたのか、こちらを振り向く。
「おう、お疲れ」
西岡の表情とは対照的な、飄々とした顔をして話しかけて来たのが、諏訪だ。
奴とは研修の時に一緒だったものの、配属先が異なっていた為に、西岡ほど交流は無い。
けれど、背が高く、顔も良く、加えて手が早いと言う事実も加勢して
社内の女の子たちの、格好の噂の的になっている。
結果、俺たちの耳に奴の話が入ってくることも多かった。

「この間は、経理の娘じゃなかったっけ?」
「そうか?」
「その内、社内の女全員を敵に回すんじゃね?」
「敵に回すような終わり方はしないから、大丈夫だよ」
相当な自信家なのも、入社当時と全く変わらない。
二人のやり取りを見ながら、そんなことをぼんやりと思う。
その時、遠くから様子を眺めていた女の子と、ふと目が合う。
「あっ・・・」
彼女は俺の顔を見て、軽く驚きの声を上げた。
何処かで遭った記憶は、俺には無かった。

□ 14_嫉妬★ □   
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コメント

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はじめまして

ミステリが好きなので、続きが凄く気になる書きだしです。第1作の「猶予」から本作までハズレが1つも無く、どれも面白いし、胸がじ~んとして感動した作品もあります。プロの作家でもこれだけの打率は挙げられませんよ。このブログを見つけて本当に良かった!宝くじが当たったみたいな気分です。

ありがとうございます。

>サフランさま
コメント頂きまして、ありがとうございます。
お褒めのお言葉、大変恐縮です。
ミステリーのような起伏のある展開を進めて行く技量は
未だ道半ばではございますが
これからも、ご閲覧のほど宜しくお願いします。
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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