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融化(6/6)

長い沈黙だった。
通り過ぎていく人たちは、オレたちの事をどう見ているんだろう。
同僚、友達、そんな風にしか見えないはずだ。

俯き加減だった彼の顔が、ふと前を向く。
水の出ていない噴水を見やりながら、言った。
「・・・好きです」

予想していた答だった。
何処かで期待していた部分もあった。
にも拘らず、同性からの告白を、オレは素直に飲み込むことが出来ない。
急に怖くなって来たからだ。
自分の気持ちの変化に、軽く動揺する。

「でも、あなたが受け入れきれない事は、分かってるんです」
少し怯んだオレの顔を見て、彼は寂しげな笑みを浮かべる。
「あなたには、先が見えないでしょうから」
オレが恐れているものを、彼は分かっている。
既に歩んできた道なのかも知れない。
ここまで来たのは、薄っぺらい情にほだされただけだったのか?
それは違う、そう思いたかった。

「仮にあなたと付き合ったとして」
彼はオレから視線を外し、前傾姿勢で遠くを見る。
「いずれ、私は、あなたに色々なことを求めるでしょう」
恋人として、求めること。
どんなことかは分かっても、今のオレには、足を踏み込む勇気は無かった。
「そんな望みを抱いている私と、一緒にいられますか?」
オレに向けられた顔は、拒否されることを望んでいるような目をしていた。
生半可な気持ちで飛び込むなと言う忠告なんだろうか。
オレが、いずれ彼の元を離れていくだろうと言う諦観なんだろうか。

小さく開いた膝の上で組まれた彼の手に、自分の手を乗せた。
「今のオレには、これが精一杯です」
そう言って、彼の手を握る。
「気持ちが混ざり合うまでには、まだ時間がかかると思います」
彼の顔には、まだ途方に暮れる心情が表れていた。
「・・・それでも良い、と言ってくれませんか」
組んでいた手が解け、彼の指がオレの指に絡んでくる。
彼の体温を感じる。
ほんの少しだけ、気持ちが溶けた気がした。
「わかりました」
一つになった手を見つめながら、彼はそう答えた。


乗る電車は、いつもと変わらない。
見かける面子も、同じだ。
その中で、他人には見えない変化を遂げた、オレと彼の関係。
ホームで顔を合わせても、声をかけることは無く、軽く会釈をするだけ。
恋愛関係と言うには、薄すぎる。
それでも、心の何処かで繋がっていると言うことが嬉しかった。

戸惑いが無い訳じゃ無い。
それは、彼もきっと一緒だろう。
電車は地下に入ってすぐの駅に停まり、にわかに混雑してくる。
彼の身体が、オレに触れた。
そっと背後に手を伸ばし、手の感触を確かめ合う。
人目につくことに抵抗もあり、あからさまに目を合わせることは無いけれど
密やかに、その時間を享受する。

彼の降車駅に電車が到着し
少し前まで触れていた手の余韻を感じながら、オレは先に電車を降りた。
彼は胸の辺りをオレの肩に軽く押し付け、振り返る事無く改札へ向かう。
若干不自然な行動を不思議に思いながら、再び電車に揺られる中で
あれは、彼にとってキスの代わりなのかも知れない、そんなことを考える。

視界の闇が急に取り払われる。
電車は速度を落とし、ホームへ滑り込んで行った。
刹那的な悦びで終わらせたくない。
ゆっくり、彼と溶け合って行きたい。
時間はそれを許してくれるだろうか。
甘い不安と共に、オレは電車を降りる。

□ 13_融化 □   
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   ■ 5 ■   ■ 6 ■
□ 61_朝凪 □
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■
□ 67_車窓 □
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   ■ 5 ■   ■ 6 ■   ■ 7 ■
■ 8 ■   ■ 9 ■
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コメント

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東男に京女

この小説は続編が読みたいと思う一方で、完成度の高い作品としてこのまま終わって欲しいという気持ちもあります。あくまでも創作者のあなたご自身のお考え次第ですから、強力にリクエストするわけではありません。

創作は孤独な時間だと思い、少しでもほっこりして頂けたらとコメントしてまいりましたが、最近は、却ってご迷惑かもしれないと考えたりもします。
京女は東男の溢れるばかりの才能や、的確に表現されるリコメに感心して、尊敬申し上げております。

中国語でサヨナラは、再見。再び会うと言う意味。
再見と言った方が良いのでしょうか…。
ご迷惑をおかけしているとしたら、心苦しいのです。

互いに心に刻むこと。

あまりこう言ったことは言わない方が良いのかと思っているのですが
実は、こちらの話、自分の中ではかなり気に入っている話の一つです。
自分が書いた話であっても、やはり、何となくしっくり来ないものであったり
特に、初期の話の中には、もう一回書き直したいと言う衝動に駆られるものもあります。
それでも、一度公開した話に関しては、私の手を離れていると思っていますし
また、その話を気に入って頂いた方がいるのであれば、手を加えるべきでは無いと思っています。

『嫉妬』で頂いたコメントだったと思います。
思いも寄らない感想を頂き、非常に驚いたことを覚えています。
自分が書いた文章が、こんな言葉で評価されるのかと震えました。

私の書く話は、全てセクシュアルマイノリティを扱うものです。
だからこそ、その世界に生きる人たちを傷つけてしまわないように
出来る限り気を遣っているつもりです。
もちろん、それは男女においても同じことで、性の問題は非常にデリケートなもの。
それを心に刻んでおくことは、必要なことだと思います。

リクエストは承ります。
相も変わらず、公開時期はお約束できませんが…。

すみません、かなり長くなりました。
ここでは敢えて、等候と申し上げておきたいと思います。
これからも宜しくお願い致します。

謎2

読後に満足のため息をつき、余韻にひたる。
手をつなぎ、肩でキス。同性愛初心者な青柳さんが可愛いです。
しかし、かわりばんこに連載してる★印18禁話に引きずられた訳ではありませんが、青柳さんサイドに立つとうっとりな話も、尚紀君サイドから見るとまた違ってくるのではないでしょうか?
もし、もしもですが、尚紀君が、実は青柳さんとあ~んなコトやこ~んなコトをしてみたいと思っていたとして、青柳さんがいつまでも初心者過ぎて手を出せないとしたら?かなり苦しい?
こんな事思いついた自分が嫌、恥ずかしい(〃д〃)ですが、気になって。
まべちがわさんの小説の中で、青柳さんは青柳さんの都合で動き、尚紀君は尚紀君の都合で動いています。これって凄いですよね。ドキュメンタリの人間模様を見ているみたいです。しかし、悲しいかな一人称なので、どうしても謎が…。
『融化』『朝凪』ワールドで尚紀君が何を考えどんな気持ちだったのか知りたいです。尚紀君サイドのお話をリクエストしてもいいですか?

悶々とした葛藤。

先ほどレスをさせて頂いたコメント(融化・5/6)にも書きましたが
手を繋いで、キスをして、肌に触れて、その後…という思考は
どんな恋愛においても外せないものだと思っています。
下世話な言い方をすれば、悶々とした青臭さを抱えて生きている訳で
それが成就できるまでの葛藤は、ある意味書き応えがあるかも知れません。

リクエストにはお応えさせて頂きたいと思います。
ただ、展開によってはR18の話になる可能性がございますので
予め、ご了承ください。
流石に3作目ですので、ここで雰囲気を崩さないように気を付けます。

御礼

お忙しい中リクエストをお引き受けくださりありがとうございます。
リクエストするのはいろいろドキドキして怖かったです。
だから受けていただいた喜びといったら!本当にありがとうございました。
一言御礼を言いたかっただけなのでお返事コメは結構です。
Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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