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融化(4/6)

ホームに立つ彼は、オレの顔を見て驚きを隠さなかった。
前と変わらず、一本前の電車を見送る彼の横に立つ。
言葉を交わすことも無く、目を合わせることも無い。
同じタイミングで電車に乗り、同じ車窓を眺める。
緊張しているのは、オレの方だった。

彼女たちと別れた後、自分の部屋で一人悶々と考えた。
オレが彼に抱いている感情は、何なのか。
彼は同性愛者で、オレに気がある。
それを聞いても、頭の片隅に残る彼を消し去ることが出来ない。
男に恋愛対象として見られていると言う、得も言われぬ恐怖が無い訳ではない。
今以上の行為にエスカレートしていくことにも、若干の抵抗はあった。

それでも、彼との関係を続けてみることにした。
オレの気持ちは、自分自身でも整理が付いていない。
曖昧な状況のまま結論を出してしまうのは、何となく悔しかった。
希望を持たせるなと言った瀬戸さんに申し訳ないと思いつつも
時間に全てを任せてみよう、そう考えていた。

途中の乗換駅では、多くの客が乗り込んできた。
背後から来る人の波に押され、彼の身体が近づいてくる。
瞬間、彼はドアに腕を伸ばして、オレと密着しないように自身の身体を押さえた。
圧に耐える彼の顔が、窓に映りこむ。
電車が動き出し、しばらくすると車内も落ち着き、彼もドアから腕を放す。
彼の腕がオレに触れることは無かった。

随分諦めが早いんだな、ついそんな風に思ってしまう。
彼らの恋愛は、そう言うものなんだろうか。
大半の男が受け入れないであろう感情を抱えて
受け止めてくれる運命の人を、もがくように探している。
中途半端な同情、なのかも知れない。
ちょっとした好奇心で踏み込んじゃいけないのかも知れない。
急に大きな決断を迫られたような気分になり、少し鼓動が早まる。

窓には、あらぬ方向を見つめる彼の顔が映っている。
背後の彼に向かって手を伸ばした。
彼の右手を捕らえ、そのまま軽く握り締める。
窓の向こうの彼と、目が合う。
その表情には、動揺と混迷が見て取れた。
オレは、彼から視線を離さず、手を握り続け
彼はその手を握り返すこと無く、電車を降りていった。
一歩踏み込んだ、その事実が、心に重く圧し掛かっていた。


次の日の朝。
ホームへ上がっていくと、彼はこちらに視線を向け、自らイヤホンを外す。
真摯な表情に、緊張感が走る。
「どういうことですか」
「何がですか?」
「どうして・・・」
言葉を途中で止め、彼は目を伏せる。
見ず知らずの男の腰に手を回してくるような積極性は何処にあったのか。
そんな風に思わせられる程、彼の姿は、迷いの中で弱っているように見えた。

「態度で示せ、そう言ったのは、あなたですよ」
ホームに滑り込んでくる電車を見ながら、言った。
彼はうな垂れたままだった。
ドアが開き、乗客が降りてくる。
「そうでしょう?」
オレは彼の背中を軽く押し、電車の中へ促した。

それから、電車の中での主導権はオレに移った。
手を握り、身体を引き寄せる。
彼はそれを拒否する訳でも無く
かと言って以前のように積極的に手を伸ばして来るでも無く
ただ、オレの手を待っているようだった。
数日経っても、それは変わらず
彼は本当に、あの一回の拒否で、全ての希望を捨ててしまったのかも知れない
そう思うようになってきた。


ある日の朝、途中駅に停車中、ホームにけたたましいサイレンが響いた。
先の駅で、非常停止ボタンが押されたようだった。
乗換駅だったこともあり、車内の乗客が続々と降りていく。
他の路線に乗り換えようと言うことなのだろう。
しかし、オレも彼も、この路線じゃないと目的の駅には辿り着けない。
そのまま車内で待つ以外の選択肢は無かった。

人がまばらになった車内で、彼の方へ振り返る。
彼は、片方だけイヤホンを外した。
「奥さんから・・・聞きました」
伏目がちにオレを見ていた彼の表情が一変する。
何を聞いたのか、彼にはすぐ分かったのだろう。
視線を不自然に泳がせ、立ち尽くしている。
「その上での、ことです」
やっと口を開いた彼の声は、僅かに震えていた。
「困ります・・・」
先に手を出してきたのは、彼だ。
何を、今更。
ホームの人だかりは、大分解消されていた。
けれど、電車が動く気配は無い。

□ 13_融化 □   
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□ 61_朝凪 □
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■
□ 67_車窓 □
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■ 8 ■   ■ 9 ■
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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