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托生(5/6)

一次会を終えても、幾つかの集団は店の前に留まっていた。
この後の店を選ぶ者、我関せずで帰途に就く者。
分室の面子も、銘々の端末で次に行く場所を探しているらしい。

「お疲れ様です」
背後から声を掛けてきたのは、五十嵐くんだった。
「二次会、行きます?」
「うん、たまには皆に付き合おうかと思ってる」
「僕、ちょっと・・・」
ふと困惑気味の表情を浮かべた彼は、遠くをしばらく見やり、こちらに向きなおす。
その視線の先には、新人の女の子が他の社員に支えられている姿があった。
「飲み過ぎたらしくて、誰か送ってやらないとって話に」
「家は近いの?」
「ウチの駅から、会社の方に2~3駅行った所だそうです」
「じゃあ、送ってあげたら。あの様子じゃ、一人だと危ないだろうし」
今の状況で出せる最適解を、彼に投げる。
それなのに、目の前の男は少し目を伏せて、口を歪ませた。
「なら、二次会の店決まったら、連絡ください。後で合流するんで」
「良いけど、俺も長居はしないと思うよ」
「・・・そうですか」
「とりあえず、明日連絡するから。気を付けて送ってあげて」

小柄な女は、まんざらでも無い表情を浮かべて男の腕に自らの腕を絡ませた。
覚束ない様子で数回会釈をしながら集団から離れていく二人の姿を
数人の社員たちが冷やかしては笑い声を上げる。
振り返った彼と目が合っても、哀しいほどに、嫉妬心は芽生えてこなかった。

「清水さん、次、どうします?」
トーンが一つ上がった関くんの声に呼ばれ、そちらへ近づく。
「何処か良いところ、あった?」
俺自身が酒を飲めないこともあり、普段、社員と親睦を図る機会を持つことは殆ど無い。
「ここなんか、どうですか」
「ああ、良さそうだね」
小さな画面に映る内容は余り頭に入ってこなかったが、了解の返事を口にする。
「たまには俺の奢りにしようかな」
「ホントですか?」
「何?清水の奢りなの?」
「分室メンバー以外は実費でお願いします」
「何だよ」

結局、後輩に連れられて行った店を出る頃には終電も無くなり
何軒かの店で時間を潰した後、空が白み始める頃に帰途に就く。
『今、家に着きました。帰り、気を付けてください』
電車の中で確認した彼からのメッセージは、彼らと別れて1時間も経たない内に届いていた。
最寄駅に向かい、彼女を駅で降ろし、自身の家まで帰るルートで想定される最短の時間。
『いろいろあって、今から帰るよ』
心変わりに安堵している後ろめたさを抱きながらも、そんな返事を送る。
『お疲れ様です。じゃあ、お昼くらいに電話します』
時間は朝の5時を回った辺り。
即座に戻ってきた言葉に、俺は何も返せなかった。


彼と過ごす休日は、これといって特別なことも無い。
駅前で待ち合わせて、昼食を取って、未だ片付けの終わらない俺の部屋でたわいも無い話をする。
夜を一緒に過ごすことは無く、身体で愛を確かめあう機会も、訪れてはいない。
平行線を辿る月日が長くなればなるほど、心苦しさは薄れていくものの
互いの想いに対する疑問符が大きくなることも、確かだった。

この日も、それは変わらなかった。
ただ、昨日の今日で彼女の話題に触れぬ訳にもいかないと、彼は思ったのだろう。
教育係になり、社内では一緒にいる時間が長いこと。
帰り際に声を掛けられ、何回かお茶の誘いに乗ったこと。
週末になると、それとなく土日の予定を探られること。
「でも、別に・・・これといったことは、本当に無くて」
もちろん、彼にだって女の意図はある程度察知できている。
だからこそ、敢えて聞いてみた。
「・・・五十嵐くんは、どうなの?」

その問は、少なからず彼を傷つけたのだと思う。
「どうって・・・どういう意味ですか」
怪訝な表情を浮かべ、僅かに語気を強めた声をぶつけてくる。
「彼女のこと、どう思ってるのかなって」
「だから、そういうんじゃ・・・」
遣る瀬無さで震える唇を目にしながら、あくまで冷静を努めた。
「悪い気しないんじゃない?彼女のこと、一回も話に出なかったよね」
「それは・・・」
男が女に惹かれる本能を、決して否定はしない。
違う色の情動が彼の中に燻ぶり始めているのなら、俺は煽る役目を果たしたい。
「君の思うようにすれば良いよ。俺に気を遣う必要、無いから」


翌週の金曜日、彼から一通のメッセージを受け取った。
人と会う用事ができたので週末は会えないかも知れない、という内容だった。
余りにも身勝手な悔恨に、これで良かったのだと言い聞かせて、必死で耐えた。
本気で好きだから、道連れにはできない。
本気で好きだから、俺と情を通じたことを、いつか、後悔して欲しくない。

□ 05_感触 □   
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□ 99_托生 □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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