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矜持★(5/8)

画面には、俺の社員証がアップになって映し出されている。
「・・・営繕部部長、能登洋司」
男の声が終わると同時に、カメラは、その奥の痴態へとピントを移す。
「いい歳したオッサンが、オモチャで弄られてビンビンになっちゃってまーす」
眉間に皺を寄せ、快感に耐える紅潮した顔。
クリップで挟まれた二つの乳首。
アルミテープで裏筋と亀頭にローターを固定された、勃起した性器。
プラグで栓をされた肛門から伸びる、二本のリモコンコード。
再び戻ってきたカメラの向こうから、質問が飛ぶ。
「気持ち良いっすか?淫乱、部長」
伏せていた眼が、躊躇いがちにこちらを向いた。
「・・・は、い」


「エレベーターの中じゃ、あんな堅物そうに見えたのに」
俺にスマートフォンの画面を向けたまま、彼はいやらしい笑みを浮かべる。
「自分の恥ずかしい動画観て、イきそうになってやんの」
客観的に見せられた自分の姿は、恥辱となって更に身体を追いつめた。
性器を垂れていく汁は僅かに白濁し、限界が近いことを物語っている。
しかし、その至福は、彼の手によって突然打ち切られた。
「ここまで来れば、オレの言うこと、素直に聞けるよなぁ?」

目の前に差し出された物に、息苦しさにも似た躊躇いが芽生える。
大きさは並み以上、まだ若く張りのある半勃ちになった男の性器。
彼は俺の頭を掴み、それを口元に押し付けた。
「ほら、口開けろよ。イきてぇだろ?」
イきたい。
無理矢理こじ開けられた本能の扉の向こうから、声がする。
今はただひたすら、自らの性欲を解放したかった。

咥内を蹂躙するモノは、凄まじい勢いで喉奥を突いてくる。
鼻先が彼の身体に潰される度に、目の奥で火花が散った。
男に犯されているという事実が、男としての矜持を崩していく。
絶望的な敗北感が、更に焦燥を加速させた。


玩具を抜き取られた穴が粘液で満たされ、衝動の滾る性器が股間に擦り付けられる。
貫かれる瞬間を見せつけようと、男は俺の腰を更に高く持ち上げた。
未だ勃起している自らの性器が、否が応にも目に飛び込んでくる。
そして、その向こうには、男が中に入らんとする光景が見えた。

「が・・・あ・・・っ」
人工物とは比べ物にならない程の圧迫感が、全身を締め付けた。
荒い鼻息を一つ吐いた男が、俺の太腿を抱えるように持ち、そのまま腰を動かし始める。
衝撃と痛みが心身を振り回し、俄かに思考を停止させていく。
「ぐっ、う」
目を閉じた俺の耳に様々な音が響き、それら全てが、今まさに行われていることが現実であると知らしめた。

苦行に耐える時間が、彼の息遣いと共に刻一刻と積み重ねられる。
初めての刺激が変質し始める頃、不意に大きな波が打ち寄せた。
こちらを向いた性器が、再度快感に震え始める。
「っひ・・・ああっ」
「かわいー声出しちゃって。ケツ掘られながらイっちまうか?」
男と玩具に蹂躙される二ヶ所の相乗効果は、残酷な程に大きい。
肛門を出入りする性器が体内をこする度に、欲望が噴き出しそうになる。
「ほら、イけよ。あんたの、負けだ」
腰を打つ動きが更に早くなり、鼓動が割れんばかりに勢いを増す。
「あっあ・・・う、くっ」
俺の、負けだ。
一瞬弾けた光が頭の中に拡がり、腹を汚した自分の精液の感触で、それが拭われる。
追いかけるように男は短い喘ぎを上げ、身体の奥に、欲求の残渣が放出されていった。


この夜は、何だったのだろう。
不運を表すような冷たい春雨の中、歩きながらぼんやりと考える。
あの時、会社に戻らなかったら。
あの時、エレベーターのボタンを押し間違えなかったら。
あの時、扉に手を掛けなかったら。
過ぎてしまったことへの後悔を何度も反芻しながら、溜め息を吐いた。

しかし、時折感じる身体の奥の痛みが、その思考回路の流れを僅かに澱ませる。
甚振られ、犯されたという現実は、痛みと屈辱と、得も言われぬ快楽を刻みつけた。
しがらみを捨て、本能のままに迎えた絶頂を思い返すと、何かが疼く。

「ばら撒いたりしねーよ」
悪夢の終わり、男は床に水を撒きながら言った。
「皆に知れたら、意味ねぇし」
凌辱の跡を辛うじてコートで誤魔化している俺に卑しい視線を送り、小さく口角を上げる。
「オレだけがあんたの弱みを握ってる。それが良いんじゃん」

彼だけが知る、俺の本性。
心の中に芽生え始めた、この歪んだ衝動を解放してくれるのは、彼しかいない。

あれから、エレベーターや社屋の中で顔を合わせる機会は何回かあった。
けれど当然、立ち位置は対角線上のまま変化は無い。
無言の箱の中、彼の後ろ姿を見やる程に少しずつ焦燥感が募っていく。
仕事帰り、非常階段で11階へ上ってみることもあったが
閉ざされた扉を開けることはできないままだった。

□ 98_矜持★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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