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矜持★(3/8)

勢いよく掛けられた水の感触で、全身の感覚が蘇る。
「いつまで寝てんだよ」
視界に物が映る前に身体の自由が利かなくなっていることに気付いた脳が、警告の感情を湧き上がらせた。
一体、何なんだ。
言葉は口に噛まされた猿轡らしきものに遮られ、男には届けられなかった。
濡れたワイシャツを通して背中に当たっているのは、何かの配管だろうか。
腕はそこに絡ませられるように繋がれており、身体を捻る度に金属音が虚しく響く。
下半身は衣服を剥ぎ取られ、下着一枚だけが残されており
両足首も同じように枷で自由が奪われて、開かされた脚を閉じることはできなかった。

愉快そうに自分を見下ろす若い男は、睨みつける視線を自身のスマートフォンで受け止める。
撮られている、そう思っても、忌々しい想いをぶつけずにはいられなかった。
感情を逆撫でするように嘲笑を一つ浴びせ、彼は無造作に投げ捨てられた自分の衣服を漁り始める。
やがて手にしたものは、ストラップの付いた社員証だった。
「営繕部部長・・・へぇ、偉いんだ。あんた」
今更身分を知られたところで、大した問題では無い。
「幾ら貰ってんの?給料。一千万とか、普通に貰ってんだろうなぁ」
こっちだって、彼の所属も、名前も、分かっている。
「クソみたいなオレらの仕事なんか、いっつも見下してんだろ?」
けれど、目の前の男は、明らかに異常な眼をしていた。
「そんな奴に、タマ握られてるって、どんな気分?」
水に濡れて重みを増したネクタイが引っ張られ、顔が彼の方へ近づけられる。
狂気の満ちた表情に、背筋が寒くなった。
「・・・ああ、酒飲んでんのか。ったく、良い御身分だな!」
握り締められた拳が向かってくる。
思わず逸らした頬に、硬い感触がめり込み、目の前に火花が散った。

鼻で息を吐くと、拍子に生暖かいものが口元へ垂れていく。
視線で向けられた抵抗の意思に、彼は何処か嬉しそうな表情を見せた。
「ああ、おっさんも悪くないかも」
社員証を放り投げ、上着を脱ぎ捨てた男は、傍に置かれた工具箱を足で引き寄せる。
「若い奴だと、殴っただけで戦意喪失しやがるから、つまんねぇし」
恐らく、さっき逃げていった男も、同じ目に遭ったのだろう。
「あんたみたいに強気な眼ぇされると、とことん楽しんでやろうって、気になるんだよ」


彼の足元にばら撒かれたのは、工具とは程遠い道具の数々だった。
「とりあえず、小手調べ、ってことで」
そう言って手に取ったのは、競馬で使う鞭のような形をした物体。
男が振り上げ、空を切る度に、風切り音が耳を刺激した。
瞬間身体を縮こませようとする本能が、枷に遮られる。
勝ち誇ったような顔が心底不愉快に思え、その後すぐに太腿に打ち付けられた痛みが理性を大きく揺らがせた。
「・・・っぐ」
喉から絞り出されていく音が、辛うじて意識を繋ぎとめる。
「おっきい声出しても、良いんだぜ?どーせ、誰も来ないんだから」
半笑いの口調で、男は更に凶器を無抵抗の身体に打ち付ける。
理不尽過ぎる仕打ちに、ただただ、耐えることしかできなかった。

幾筋もの跡が付けられた脚の感覚は殆ど無くなっていて、痛みから変わった痺れと熱だけが残されていた。
腰回りにも力が入らなくなり、上半身が徐々に倒れていく。
こちらへ伸びてきた男の手が無造作にネクタイを引き抜き、ワイシャツのボタンを乱暴に外す。
「さっきの奴よりは、良い身体してんね」
肌蹴られた胸元を、無慈悲な物体が這う。
弄ぶように数回先端で腹の辺りを軽く叩き、彼は笑った。
「ちゃんと腹筋に力入れとけよ」

踏ん張りの効かない身体に痛みが刺さる。
幾ら手を握り締めたところで、然程の効果は無かった。
一撃一撃食らう度に耳の奥が抉られるような電流が走り、こめかみから首筋、背中の方まで脂汗が流れていく。
それでも、男の動きが止んだタイミングを見計らって、未だ、抗いの意思は尽きていないと示す。

許しを乞う?
どうして、こんな奴に。

この時は、まだ、そんな矜持が自分の中に残っていたのだろう。
限界が近い身体を見下ろす彼は、そんな感情を一笑に付す。
「まだまだ・・・これからが、本番だから」

正面に立った男の足が自分の太腿を踏みつけ、更に股を開かせる。
持っていた鞭を逆さに持ち替え、その柄で無防備な場所を擦り始めた。
直接的な痛みよりも、恐怖は大きかった。
下着が摺り下ろされ、彼の前に下半身が差し出される。
全身の強張りを感じ取ったのだろう。
ふと目を細めた若者は、尻の割れ目に棒を宛がい、ゆっくりと動かし始めた。
「ああ・・・こっちの方が、あんたには効くってことか」


その場を離れ、程なく振り向いた男の手には、大ぶりな鋏が握られている。
目前に迫る最悪な組み合わせに頬が痙攣し始めた。
「流血沙汰は好きじゃないからさぁ、とりあえず安心しなよ」
口角を上げ、わざとらしく首を傾げた男の手が自分の股間に伸びてくる。
僅かに引いた腰はすぐさま引き戻され、開いた二枚の刃が鈍く光った。
「邪魔なもん、取っちまうだけだって」
そういうや否や、脚の付け根付近に纏わりついていた下着が、小気味よい音を立てながら只の布と化す。
恥辱に震える感情は、肌に感じられた冷たい感触にすぐさま打ち消される。
性器の傍を辿る金属の気配に、思わず頭が横に揺れた。

「結構デカいじゃん。でも、もうそんなに勃たねぇんだろ?」
楽しげに独り言を口にして、彼は鋏を操り続ける。
ザクザクと陰毛が切られる音と振動が頭の中に響き、冷静さを奪い去っていく。

こいつを止めるには、どうしたらいい?
どうすれば満足する?

男が再び立ち上がった時、その場所は無残な姿になっていた。
禿山のような肌の上に、萎れたままのモノが横たわっている。
「あんたがイったら、オレの勝ち、な」
親指と人差し指で性器を摘み上げ、彼は俺に、答を投げた。

□ 98_矜持★ □
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コメント

非公開コメント

No title

部長が受けるであろう理不尽な行為に矜持が対抗しうるのか、それとも墜ちてしまうのか、今後の展開が楽しみです。

No title

どのようにして矜持を傷つけられていくのか楽しみです。

中年男の難しさ。

コメント頂きましてありがとうございます。
今回の話は、久しぶりに中年男にフォーカスを当ててみました。
以前いただいたコメントにお応えするべく『能動/受動』の番外編として書いていたのですが
どうも纏まりがつかなくなってしまった為、新たに書き直したものになります。
当時はご期待に沿うことができませんでしたが
今回は、ある程度お応えできているのではないかと思います。
最後までお楽しみいただければ幸いです。
Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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