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陶然-醒-★(15/17)

電話を返す素振りを見せると、直政はいいから切れというジェスチャーをした。
「ホント、馬鹿だ・・・」
悔しさを滲ませた声が、一瞬途切れる。
「訳わかんねぇこと言ってっから、好きにしろって、言っといた」
「・・・そう」
「あいつのこと、頼むわ」
未だ納得できないという表情を浮かべたまま、彼は俺の肩を叩いた。
「今度来る時は、あの馬鹿も連れてこいよ。全然、顔見せやしねぇんだ」


逸る気持ちを抑えながら、夜道を走る。
騒々しい光を振り撒く商業施設の脇の道を入り、彼が住むアパートの前までやってきた。
見上げた先の窓に灯りは無かったが、年季の入った軽自動車は定位置に停まっている。
あの状態で何処かに行けるはずもない。
とりあえず空きスペースに車を置いて、階段を駆け上がった。

幾度となくインターホンを押しても反応は無く、何回ドアを叩いても部屋の明かりは点かない。
あれだけ泥酔していたのなら、もしかして眠ってしまったのかも知れない。
けれど、何か彼の身にあったのなら。
居ても経ってもいられず声を上げようとした瞬間、ドアのロックが外れる音がした。

扉を開けた先には、這いつくばる様に俺を見上げる男がいた。
「電気点いてないし、何回チャイム押しても出ないし・・・何かあったのかと思ったよ」
「ああ、わりぃ・・・寝ちまったみたい」
廊下の照明が照らす男の顔からは、意識が朦朧としている様子がはっきりと見て取れる。
「どんだけ飲んだんだ」
「わかんね」
何とか上半身を起こした彼の身体を抱きかかえる。
立ち上がらせようとした時、その足がもつれ、急激にバランスを崩してしまった。

「こんなになるまで、飲むなよ」
倒れ込んだ輝政の身体を下にしたまま、彼の揺らぐ瞳を見つめる。
頬に添えられた手に呼ばれ、唇を重ねた。
「素面じゃ、やってらんなかった」
呼気に含まれるアルコールが鼻腔を通って身体の中に入り込み、鼓動が少し早くなる。
「・・・俺の、せいか?」
「そうだよ。お前がいないから、酒に酔うしか、なかった」
未だ薄弱な声を上げながら、彼の身体から力が抜けていった。

静かに、深い呼吸を繰り返す男の顔を、宥めるように撫でる。
「月曜日、ナオに会って・・・その時」
「あいつのことは、もう、気にすんな。話、つけたから」
こちらに差し向けられた手が襟元から中に入り込み、冷えた首筋に熱をもたらしてくれる。
頑なになっていた心が、解けていくようだった。
「すげー、酔ってる」
「ああ、そうだな」
僅かに眉を顰め、一呼吸置いてから、彼は俺を真っ直ぐに見た。
「すげー・・・酔ってる、オレ、お前に」
照れ隠しのように小さく笑い、言葉を続ける。
「ずっと、酔わせててくれよ」

目の前の霧が晴れていく。
紆余曲折しながら、時には躓きながら進んできた道の向こうが、やっと見えてくる。
暗がりの中、穏やかな表情を浮かべる彼に、何度となく口づけを繰り返した。
「素面に戻れなくなったら、どうする?」
「いいじゃん。一緒に、酔いどれてようぜ」
首に腕が絡み、身体が引き寄せられる。
抱き締めた男の感触が、心の奥に閉じ込めていた衝動を呼び起こす。
「今日は、主導権、お前にやる・・・好きにしてくれて、良いから」


力の抜けた彼を肩に担ぎ、ベッドまで引き摺る。
横たわった男の身体が深呼吸と共に軽く沈んだ。
傍に立つ俺に向けられた視線に呼ばれるよう、その上に跨る。

外から入ってくる僅かな光に照らされた表情は、酒の所為もあるだろう、酷く穏やかだった。
頬を撫でながら、奥底に潜んでいる昂ぶりを少しずつ引き上げる。
長い間妄想の中だけで処理してきた、恋心と対になった欲求が満たされるかも知れない。
けれど俺の身体は、まだ、大事なところが欠けている。
「俺さ・・・ダメかも知れない」
男の手が首筋から上半身を辿っていく。
「何が?」
「イけない、かも」
「何で?」
「ずっと・・・そうなんだ。途中で、ダメになる」

男の肩口に顔を埋め、一度きりの経験を、初めて声に出した。
自らが望んだ行為では無かったこと、それでも、快楽の中で溺れ "本当の自分" を暴かれたこと。
性的快感が身体を満たしていくにつれ顔を出しそうになる本性を、受け入れたくない。
こんな俺を、きっと彼は、軽蔑する。
それが、怖かった。

どうしたら、彼の期待に応えられるだろう。
耳元に軽くキスをして、顔を上げる。
「だから・・・」
左手で彼の頭を抱えたまま、右手で腰回りに添える。
一瞬微かに反応した身体に、指を滑らせた。

その時、彼の手が不意にこちらへ伸びてきて、浮かせていた腰が引き寄せられる。
「オレとでも、ダメか?」
下半身が密着し、男の感触が伝わってくる。
「・・・分からない」
興奮の気配を見せ始めた箇所を擦り合わせるように、彼は身体を小さく捩った。
「じゃあ、オレが、忘れさせてやる」

□ 95_陶然-酔- □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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