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陶然-醒-★(14/17)

旧友の変貌ぶりは、輝政から話を聞いていなければ、全く気が付かない程だった。
「変わってねぇなぁ。ちょっと痩せたか?」
「運動しなくなったから、筋肉が落ちたかも。ナオは・・・デカくなったな」
どちらかと言えば線が細いタイプだった少年は、すっかり貫禄の付いた男になっている。
「オレぁ、幸せ太りだな」
「そりゃ、何より」
やんちゃな笑い声を上げた男に続き、いつもの店に入る。

互いにソフトドリンクを注文し、晩飯になりそうなメニューを選ぶ。
「飯は、食ったの?」
「一応。でも、ちょっと腹減ったな」
ページを繰りながら、食い合わせ等は気にしないかの如く、彼はあれこれと候補を上げる。
「夜食にしては、食い過ぎじゃないか?」
「お前も食うだろ?」
「いや・・・まぁ、良いけど」

コーラとウーロン茶で軽く乾杯をし、再会をささやかに祝う。
「帰ってきたんなら、連絡くらいくれても良いんじゃねぇの?」
「・・・ごめん」
煙草に火を点けようとしたタイミングで、彼は指を一本立てて、ねだるジェスチャーを見せた。
箱とライターを渡すと、取り出した煙草のフィルターを数回叩いて火を点ける。
「あいつ、今日から出向なんだろ?」
「そう、常駐で」
向かいに座る男の吐き出した煙が、天井へと霧散していく。
「新しい仕事は、上手くやってんの?」
「それなりに」
彼が、兄のいない機会を見計らっていたのは、明白だった。
会話にぎこちない間が生まれ、その度に視線を下に落とす旧友の顔を、まともに見ることはできなかった。

「偶然、見かけてさ。あいつと一緒にいるとこ」
この辺りに、目立った施設はそう多くない。
数年前に出来たというショッピングモールは、若者や子供がいる家族にとって絶好のスポットとなっており
直政も、よく家族でここに訪れているのだという。
「お前のこと、信用してない訳じゃねぇけど・・・全部話した。あん時のこと」
彼にしてみれば、警告のつもりだったのだろう。
それなのに兄は、彼の言葉で進むべき方向を見誤っている。
そして弟は、そのことに気が付いていない。
「何にも・・・ねぇんだよな、あいつと」

直政に連絡を取らなかったという事実は、自分があの頃から変わっていないことの証明に他ならない。
期せずして燃え上ってしまった想いに抗おうとしている自分は、確かにいる。
しかし、振りきれずに縋ろうとしている自分も、いる。
返す言葉を見つけられない俺に、旧友は事態を悟ったようだった。
「オレがお前に会いに来た意味、分かるだろ?」
「・・・ああ」
"あいつには、幸せに、なって欲しいと思ってる"
あの時の彼の想いは、変わらず彼の中に残っている。
もちろん、その相手は、俺ではない。
「仲良くすんのは構わねぇ。けど、そっから先は、踏み込まないでやってくれ」
静かにそう言った彼は、目を伏せて、小さく頭を下げた。


週末の夕方。
10年近く会っていなかった旧友たちは、皆それぞれに歳を取り、大人になっていた。
「久しぶりだなぁ。戻ってきてんなら声かけろって」
「ごめん。バタバタしてて、なかなか時間取れなかったんだよ」
こうやって直政の家に集まることは珍しい事ではないらしいが
ほぼ全員が顔を合わせたのは半年ぶりなのだという。

「菅くんは何飲む?」
懐かしい顔を眺めているところに声を掛けてきたのは、ヒトミだった。
中学の頃は仲間内の紅一点。
男たちはそれなりに彼女に対して想いを寄せていたようだが、結局は、直政が攫っていった。
「ああ、俺、車だから・・・」
守兄弟の家の近所に住んでいたこともあり、彼らとは小さな頃からの幼馴染で
そうなることは、ある意味必然だったのかも知れない。

ウーロン茶を注いでくれた彼女は、ふと時計を見やり、問い掛けてくる。
「そう言えば、テルから何か連絡ってあった?」
「え?」
「菅くんも来るから、テルもおいでよって声かけたんだけど、何も反応無くて」

結局、この一週間、彼と連絡を取ることは無かった。
輝政からも、連絡は来なかった。
距離を置けばおのずと気持ちも落ち着いてくるだろうと期待していたはずなのに
声が聞きたいと思う衝動を、友達との新たな約束を言い訳にして堪えていた毎日。
俺が直政との関係を修復したと知った彼は、一体、どう思っているだろう。

「お前、こねぇんなら連絡くらいしろよ」
矢庭に電話で話し始めた男は、立ち上がり部屋から出ていく。
相手は恐らく、兄か。
酒が入り始めて雰囲気が盛り上がり始めた空間には、あちらこちらで笑い声が響いている。
「仕事、忙しいのかな。今日は来られないって、テル」
夫の様子を見に行き、すぐに戻ってきたヒトミは
子供を隣に座らせてジュースを飲んだ後、一つ溜め息を吐く。
「新しい現場が始まったばっかりだし、疲れてるのかもね」
「なかなか顔出してくれなくて・・・元気なら、それでいいんだけど」
寂しげに微笑む表情に、あの男が引き摺る負い目の原因が、何となく分かった気がした。


「菅、ちょっと」
随分と長いこと話し込んでいたであろう直政が、声を掛けてくる。
立ち上り、廊下に出ると、彼は自らのスマートフォンをこちらに差し出した。
「相当、酔ってる」
やや不機嫌な顔をして耳打ちし、男は壁に背中を預ける。
その空気に懸念を感じながら、電話に出た。

「・・・テル?」
「ちょっとさぁ、飲み過ぎちゃって・・・今日は、行けねーや」
初めて聞く、泥酔した声。
彼の心がまともな状態ではないことは、明らかだった。
「何やってんだよ」
スピーカーから聞こえてくる吐息が、徐々に揺らぐ。
無言の時に心を締め付けられるようだった。
「本気なんだ、オレ・・・」
遣る瀬無い呟きが耳に沁みるほどに、身体が震えた。
「会いてぇよ・・・菅」

隣に立つ弟に視線を送ると、彼は諦めを含んだ眼差しを返してくる。
一人、先を行った男を追いかける決心がついた。
「今・・・何処にいる?」
「家」
「30分で行くから、待ってろ」
「・・・分かった」

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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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