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奪取★(1/6)

同じ地下鉄の路線で繋がっているとは思えない、高級住宅街。
その一角にあるマンションが、目的の改装物件だ。
中に入る許可は得ていないので、今日は外回りの現地調査。
敷地に入っているであろう給排水・ガス配管や電気・電話などの引き込み線を確認する。

建ってから、そう年数は経っていないように思えたが
意匠的な流行が過ぎてしまい、借り手がつかなくなっているのだそうだ。
仕方なく、改装して分譲物件として生まれ変わることになった。
1フロア1住戸という贅沢な間取りを考えれば、軽く億は越える値段になるはずだ。
設計をするオレには一生縁が無いな、そんなことを考える。

1時間もかからない内に、調査は概ね終了した。
撮った写真を念の為確認しておこうと、デジカメを取り出す。
見ると、オレが撮った写真の前に、何かの写真が入っていた。
会社のデジカメは社員全員で使っているので、各々使い終わったらメモリを消去するのがルール。
誰かがそれを忘れたんだろうと、興味本位で写真を見てみる。

画面を見て、動きが止まった。
映っていたのは、オレだった。
4、5枚ほどだったが、どれもカメラの方は向いていない。
悪戯にしては、悪趣味すぎる。
写真を撮った人間にも、心当たりは全く無かった。
薄気味悪さで顔が引きつった。
見なかったことにしよう、そう思い、自分の写真を消去する。


調査を終えたその足で、水道局・下水道局を回り、会社へ戻ったのは夕方過ぎだった。
「お疲れ様です。物件はどうでした?」
定時を過ぎていたせいか、社内には殆ど人が残っていない。
その中で声をかけてきたのは、後輩の渋谷だった。
「立派だったよ。まだ全然使えそうだけどな」
「躯体は再利用なんですよね」
「そう。手をつけるのは内装と設備・電気だけ」
資料をカバンから取り出しながら、そう話す。
今回の物件も、オレと渋谷の二人で受け持つことになっている。

「そういや、渋谷、デジカメ最近使った?」
「いいえ。壊れてました?」
「いや、そうじゃないんだけど。・・・まぁいいや」
小さな猜疑心を抱きながら、パソコンにデータを移し、デジカメを棚に戻す。
社員に対して疑いを持つことにも罪悪感があったが、何よりも気味の悪さが晴れない。
こんな気分は、初めてではなかったからだ。

数ヶ月前から、オレの携帯電話に無言電話がかかってくるようになった。
会社用と兼用しているので、非通知や公衆電話も拒否できないことを知ってか知らずか
必ず非通知でかかってくる。
しかも、オレが帰宅したのを見計らったように。
1回は番号を変更したのだが、それでも同じようにかかってくる。
変更通知は社内の人間や取引先にも連絡しているから、番号を知っている人間は少なくない。

デジカメの件は、その恐怖心から来るストレスに拍車をかけた。
誰が、何の為に?
心当たりが無い分、性質が悪い。
帰宅し、いつものようにかかってくる非通知の着信を見ながら
精神が少しずつ削られていくような感覚に陥っていた。


高級マンションの設計は、概ね順調に進んでいた。
どんなに高級でも、所詮はマンション。
複雑な空調設備も無いし、給水・排水とも既存に接続することが出来るので
新築物件に比べ、設計は格段に楽だった。
ただ、未だ中を見ていないので、実際の現況図と合っているのかどうかが分からない。
調査の許可を依頼していた元請けから返事が来たのは、あれから随分経ってからだった。

元請けからの電話を切り、渋谷に問いかける。
「明日、中見られるらしいんだけど、予定はどう?」
「僕は大丈夫ですよ」
共用のデジカメを手に取り、念の為メモリを確認する。
空である事に一安心した時、パソコンにメールが届いた。
見覚えの無いaolドメインのアドレスからで、件名は『代々木の物件について』。
SPAMやウイルスメールは、ルーターのファイアウォールで自動的に弾くようになっている。
代々木の物件と言われて、思い当たる過去の物件もあった。

メールと開くと、本文には何も無く、添付ファイルのjpgが画面に映し出される。
背筋が凍る思いだった。
恐らく、携帯で撮ったオレの写真。
しかも、場所は自宅近く。
どうなってるんだ。
マウスを握ったまま、動けなかった。

□ 12_奪取★ □   
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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