Blog TOP


主従-実-★(6/6)

耳からヘッドセットを外すと、上司は大きな溜め息をつく。
「冗談じゃ・・・すまない、だろう」
虚ろな声で、そう呟いた。
「でも・・・興奮したんじゃ、無いですか?」
「そんなこと・・・」
目には見えなくても、自分の如実な身体の変化が分からないはずがない。
ローライズボクサーの縁から顔を出したモノの先端を、指で弾いた。
「こんなに、なってても?」

視界を開き、再び彼の前に屈み込む。
下着を捲り、いきり立ったモノを軽く握って取り出す。
「大きいですね。曽我部さんの」
僅かに染み出たカウパーが、その興奮具合を示していた。

赤黒いカリの部分に唾液を垂らし、指で塗り広げる。
顔を歪めて呻く上司の眼は、切なげに潤んでいた。
ゆっくりと扱きながら、先端を掌で舐る。
「たの、む・・・これ、以上」
震える声があまりにも官能的で、俺の身体までを堪らなくさせていく。
細い視界の中に滲む男の姿を、体内にも刻んでおきたいと思った。


少し前まで抱いていた幻想のままの彼だったら、こんなことは思いも寄らなかったはずだ。
けれど、何もかもが初めての姿を目にしているからこそ、先入観に囚われず、選択肢が無限に広がる。
更なる刺激を待ちわびる、男のモノ。
抵抗が無い訳じゃない、でも、何処かで確信していた。
これで俺は、彼を取り戻せると。

得も言われぬ感触が、舌先から全身を駆けた。
咥え込み、カリ首に唇をひっかけるように捻ると、男の身体が大きくのけぞり、椅子を激しく軋ませる。
舌を揺らしながら快感を与え、竿の部分を扱く手を徐々に早めていく。
「はた、の・・・く、ん」
もう、感じていることを隠そうとはしていないようだった。
満足げな喘ぎが聴覚を刺激する度に、俺の中の彼が満たされる。

喉奥の深いところまで、彼のモノが突き刺さる。
苦しさで、視界が白くぼやけていく。
彼の限界よりも早く、自分の限界がやってくるかも知れない。
そんな思いが過った時、床に何かが落ちる音と共に、頭に手が添えられた。
「無理、しない、で、良い」
彼は俺の口からモノを抜き取り、自らで慰め始める。
「あと・・・は、僕が」
肩を震わせながら言葉を発する上司の眼からは、涙が溢れかけていた。

他の男の絶頂を目にする機会は、そう、無いだろう。
乾いた声が、フロアに響く。
吹出す瞬間に押えた指の間から、彼の身体に白い液体が散る。
荒い息遣いのまま項垂れる彼の顔を引き寄せた。
零れ落ちていく涙を掬い取るよう、頬に唇を滑らせる。
「・・・どうしたんですか」
「僕は・・・こんなこと」
「望んで、ない?」
「望んじゃ、いけないと、心の奥底に押し込めてきた」
見つめ合った眼の中には、互いの姿だけが、写っていた。
「僕は、尊敬も、信頼も、いらない。・・・ただ君が、傍にいてくれるだけで、満足だった」


上司と部下。
絶対的な主従関係、俺の拠り所だったもの。
彼の中では、既に破綻していたもの。
「永遠に叶えられない想いを追い続けることが、辛かった。だから、ひたすら快楽を求めた」
目尻の皺が歪み、再び涙が筋を作る。
寄せられていた想いを感じ取ることは出来なかった。
そんな情愛があることも、知らなかった。
「心は、ずっと・・・君に、支配された、まま」

泣き濡れた唇が、小さく震えていた。
覆い被さる様に抱き締め、耳に吐息を纏わせる。
肩口を彼の溜め息が滑っていく。
「でも、君とは、逆だ」
「・・・何が」
「邪な希望も欲求も、何もかもを、蹴散らして、踏みつけてくれる存在」
囁く彼の瞳が揺らぎ、切なげな光が衝動を呼ぶ。
「愛してはいけない人間を、愛してしまった。せめてもの罰なんだよ、僕の中の・・・君は」

愛する者であり、罰する者。
抱擁を求めることでさえ、罪になるというのだろうか。
部下だから?
同性だから?
「そんなの・・・おかしい」
ほぼ組み立て上がった彼の虚像の、最後の一欠片が見つかった気がした。
「そんな、俺、壊して下さい」

重ね合わせた唇の間から、熱い息が漏れる。
嵌り合う場所を探して、幾度となく鼻先を擦り合わせた。
本能のままに交わす口づけが、苦しげな男の喘ぎを引きずり出す。
一方的な貪りは、やがて互いの欲求になり、雷鳴が終わりの刻を告げるまで続いた。


金曜日の夜。
上司の自宅の寝室で彼の背中を撫でながら、心が弛むのを感じていた。
背中から腰を辿り、腹の辺りに腕を寄せて抱き締める。
互いの肌が密着する感覚が心地良い。
「もう、殆ど見えなくなりましたね」
あの男が残していった傷は、大分目立たなくなってきた。
「ああいうこと・・・また、されたいと、思ってますか」
目の前の、僅かに汗ばむ熟した肌を目で触りながら、問うてみる。

小さな溜め息の後に発せられた言葉は、少し、震えているようにも感じた。
「・・・分からない」
俺の手に重ねられた男の手は、あり得ないほどに熱を帯びている。
「でも・・・僕の中の君は、まだ、未完成だ」
心の中の彼が、ゆっくりと背を向ける。
今までよりも大きく、脆く、光も闇も併せ持つ、確かな幻影。
そこには、彼の歪んだ欲求が、永遠に消えることの無い傷跡として残されていた。
「じゃあ、近い内に完成させましょう。・・・期待に応えられるよう、勉強しておきます」

□ 82_主従-虚-★ □
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   ■ 5 ■
□ 84_主従-実-★ □
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   ■ 5 ■   ■ 6 ■
>>> 小説一覧 <<<

コメント

非公開コメント

Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

*** Link Free ***



>> 避難所@livedoor
Novels List
※★が付く小説はR18となります。

>>更新履歴・小説一覧<<

New Entries
Ranking / Link
FC2 Blog Ranking

にほんブログ村[BL・GL・TL]

駄文同盟

Open Sesame![R18]

B-LOVERs★LINK

SindBad Bookmarks[R18]

GAY ART NAVIGATION[R18]

[Special Thanks]

使える写真ギャラリーSothei

仙臺写眞館

Comments
Search
QR Code
QR