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主従-実-★(5/6)

肩に置いた手を下に滑らせ、背もたれと背中の間に差し込む。
前屈みの姿勢で、彼の身体を椅子ごと引き寄せた。
「何するんだ」
抵抗されるよりも早く、もう片方の腕を前から上半身に回す。
胸元に頭を抱える様に抱き締めた。
「やめないか」
彼の手が、二人の身体の間に入り込み、剥がそうとする。
抗うように腕に力を籠めた。
「あの人じゃなきゃ、ダメなんですか」
「何を・・・」
「許せないんです・・・貴方が、誰かに、跪くことが」

フロア内の監視カメラの幾つかがダミーであることは、社員だったら大半が知っている。
そしてこの辺りが、正常な数台の死角になっていることも、把握していた。
「離してくれ」
身体を捩じらせることで無防備になった首筋に唇を寄せ、舌を伸ばす。
一瞬の引きつった息遣いと肩の強張りが、彼への執着心に火を点けた。
「俺は、もう、覚悟してきました」
上半身を弄る内に弱くなっていく防御に、彼も同じなのかも知れないと思い始める。
「俺の知らない、貴方を、受け入れることを」


背後から、一つずつシャツのボタンを外していく。
「こんな・・・」
力無く俺の手を掴む様は、上司としての矜持を保つ為のポーズなのだろう。
「大丈夫ですよ・・・こんな天気じゃ、もう、誰も来ませんから」
「そういう、ことじゃ」
程なく肌蹴られた服の中に手を挿し込むと、男の上半身が軽く揺らぐ。
熱を帯びたTシャツ越しの肌の感触が、徐々に新しい彼を形作る。
「俺には、あの人みたいなことは、出来ません」
目を伏せて小さく頷いた彼は、けれど声は出さなかった。
「だから、一緒に探して欲しいんです。どうすれば、互いに満足できるのか」

頬に唇を滑らせながら、ベルトに手をかける。
その動きを、上司は首を振りながら制した。
「僕は・・・今のままで、十分、満足してる。こんなこと、しなくても」
言葉とは裏腹の、数分の愛撫で紅潮した胸元。
前の飼い主に躾けられた身体が、恨めしかった。
「・・・俺は、してない」
無駄な抵抗を振り払い、ベルトを引き抜く。
背もたれの後ろに回させた両方の手首にベルトを巻き付け、固定した。
「こういう感じで、良いんですよね」
昂ぶりの混ざる吐息が、机の上の資料を捲れ上がらせる。
しかし、彼には分っていたはずだ。
自分に付けられた枷は、少し力を入れれば、簡単に抜けることを。


椅子に座ったままの彼の前に跪いた。
脅える視線は宙を泳ぎながら、時折俺の眼の中に飛び込んでくる。
ファスナーを下ろし、掻き分けた先には、硬さを帯び始めた男性器が収まっており
人差し指で下から擦り上げると、椅子の軋む音が雨音に混ざりあう。

不意に聞こえてきたのは、携帯のバイブ音。
上司の机上に置かれている端末だった。
ディスプレイに表示されている名前から、大した要件では無いことは俺にでも分かる。
彼も同じ考えだったのだろう。
一瞥し、そこからすぐに視線を外す。
すぐ側に置いてある通話用のヘッドセットの青いランプだけが、点滅を繰り返していた。

立ち上がり、ヘッドセットを上司の耳に着ける。
「・・・今、は」
「出て下さい。折角なんで」
慄くような視線を微笑みで返しながら、通話ボタンを押した。


「・・・曽我部です。ああ、どうも」
相手は、環境コンサルタントを生業としているNPO法人の代表。
何故か休日出勤の日の夕方に電話をかけてくることが多かった。
仕事2割、雑談8割だよ、と上司が呆れたように笑っていたことを覚えている。
「そうですね、酷い雨で・・・」
立ったまま彼を見ている俺を、何処か警戒するような目つきで彼が窺う。
煽られているように感じたのは、きっと、俺の中の彼が出来上がりつつあるからなのだろう。

背後に回り、片手で彼の目を覆う。
「えっ・・・ええ、程々、忙しく・・・してますよ」
狼狽を悟られまいと、その声が少し力んだ。
小さく揺れる身体に、一本の指を首筋から這わせる。
鎖骨から、たくし上げられたTシャツを超えて胸元へ。
片方の突起を捉えると、上司は小さく呻き、わざとらしく咳払いを続けた。
「すみません・・・ちょっと、熱っぽい、みたいで」
指の動きと共に、汗ばんだ首に僧帽筋が陰影を作る。
「ありがとう、ございます・・・そうです、ね」

どれだけ暇なんだろう。
風邪気味であるという上司の仮病を余所に、電話での会話は5分以上続いていた。
唾液で濡らされ、散々摘ままれた双方の乳首は、痛々しい程に隆起し
責めで荒くなった吐息は、抑えきれなくなってきている。
「・・・では、そろそろ」
会話を切り上げる為の言葉を彼が口にするのは、何回目のことか。
「ええ、また・・・来週も、多分」
どうやら試みは、やっと成功したようだった。

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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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