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主従-実-★(1/6)

スマートフォンの画面を流れていく幾つもの画像を、彼女は憤懣とした表情で見ている。
腕を組んでラブホテルに入る姿や、タクシー待ちの列で周りの目も憚らずキスをする姿。
「・・・何なの、これ」
「聞きたいのはこっちだろ。何なんだよ、これ」
「酷くない?こんな隠し撮りみたいなことして」
「何聞いても、茉実がはぐらかすからだよ」

彼女との付き合いは大学生の頃からだから、もう4年以上になる。
互いに社会人になってからも、慣れない生活なりに上手く関係を続けていると思っていたが
この半年ばかり、彼女の行動に不審な点が見え始めてきた。
必ず顔を合わせていた日曜日の約束も反故にされることが多くなり
服や化粧を含め、全体的な女としての雰囲気が、何か変わってきているように感じていた。


決定的な出来事が起こったのは、2ヶ月ほど前のこと。
その日は彼女の誕生日だった。
平日だからと前の週末に食事には出かけていたけれど、良いタイミングで仕事が早く終わったこともあり
サプライズも兼ねて、連絡を入れずに彼女の家へ赴いた。

彼女の家の最寄りのバス停が近づいてきた時
ふと窓の外を窺うと、見知った女が見知らぬ男と歩いているのが見えた。
向かっている先は、恐らく、彼女の家。
仲睦まじそうに手を繋ぐ姿は、本当に、普通のカップルそのもの。
小ぶりな花束を大事そうに抱える彼女は、しばらく俺には見せてくれていない明るい笑顔を浮かべていた。

彼らと擦れ違ったバスが、指定された位置で止まった。
数人の乗客がバラバラと降りた後、気配を窺いながら運転手がドアを閉め
背後にその音と衝撃を感じながら、遠目に男女を見やる。
コンビニへ立ち寄り、路地を曲り、彼女のマンションへ入っていく一連の行動を、写真に収めた。
ショックとは裏腹に、自分でも驚くくらいに冷静で、何処か妙な興奮状態が口元を緩ませる。

彼女の部屋の電気が点いて、数分後。
「・・・どうしたの?もう、仕事終わったの?珍しいね」
やや動揺した声が、電話の向こうから聞こえてきた。
「ああ、切りが良いところで終わったから、ちょっと会えないかなって思って」
「・・・ごめん、今日はお友達が誕生日お祝いしてくれるって言うから、飲みに来ちゃってるんだ」
白々しい言葉に、乾いた笑いしか出てこない。
「そっか。じゃ、また週末に」
「うん、ありがとね」
「誕生日おめでとう・・・いっぱい、楽しんで」


そこまで鈍感だと思われているのか、もしくは開き直っているのか。
どちらにせよ、彼女は隙があり過ぎた。
デートの後、俺と別れた彼女は、必ずと言って良いほど真っ直ぐ自宅に帰ることは無かった。
繁華街に繰り出しては、俺とは行かないような店に入り、しばらくすると男と出てくる。
飲み屋をはしごすることもあれば、タクシーで何処かへ向かうこともあれば、ホテルへ消えることもある。

俺の中では、既に彼女との恋は終わっていたのだと思う。
分かってはいたものの、執着を捨てることが出来なかった。
ストーキング行為はやがて好奇心から快感に変わっていく。
あの若い男と、どんなセックスをしているのか。
そんなことを考えながら彼女の身体を弄ぶのが、たまらなく、刺激的だった。


振り返れば、淡白な恋愛ばかりをしてきた。
だからこそ、異様な状況が新鮮で、気分を昂ぶらせていたのだろう。
突然訪れた熱病の終焉は、俺の心に虚しさだけを残した。
「だって、政文、なかなかメールも返してくれないし、会った時は仕事の愚痴ばっかりだし」
テンプレート通りの展開に、話をする気力も失せていく。
「もっと、まともな言い訳、考えらんないの?」
「言い訳って・・・私だけが悪い訳じゃ」
「浮気と、仕事が忙しいことを同列に考えてる時点で、どうかしてる」
俯き、唇を噛む女は、程なく鼻を啜り始める。
どうせ、この後もあいつと会うのだろう。
彼氏と別れたとか言って、身体を慰めて貰うのだろう。
「俺の連絡先、消しておいて」
そう言い残し、立ち上がる。
「ホントに・・・ごめん」
潤んだ瞳の奥に、彼女の真意を読み解くことは、俺にはもう出来なかった。
「良いよ。お互い様なんだろ」


金曜日の夜の人ごみに、鬱屈した想いがくすぐられて爆発しそうだった。
最悪な気分で行き着いた、自分のオフィス。
所々に電気が点いているビルを見て、僅かに心が落ち着く。
そういえば、まだ少しやり残した作業がある。
明日も休日出勤するつもりだったけれど
このまま家に戻っても、要らないことばかりを考えてしまうのが関の山だ。

エレベーターに乗り込み、IDパスをリーダーにかざす。
重力に逆らいながら静かに上昇していく籠の中で、大きな溜め息に憂いを溶かした。
頼りになる上司は、もう帰ってしまっただろうか。
いつも終電近くまで残業している彼は、金曜日だけは少し早めに退社してしまう。
彼に聞く質疑事項をまとめることを今夜のノルマに設定したところで、エレベーターは止まった。

□ 82_主従-虚-★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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