Blog TOP


命綱★(3/9)

だいじょうぶ だいじょうぶ
これは きっと ただの あくむ
あさ めがさめたら ぜんぶ わすれてる
あいつも いなくなってる
そうじゃなきゃ おれは こわれるまで このままだ

***********************************

身体に加えられる苦痛よりも、心に刺さる屈辱が、絶望をより深くする。
歳の割に体格の良い男は、躊躇なく俺の口の中を犯し続けた。
種々の穴から出てくる液体が、顎を伝い鎖骨の方まで流れていく。
酸欠で朦朧とし始める意識を、喉奥まで入り込む物体が無理矢理起こす。
それが繰り返される内に、全てが、どうでもよく感じられるようになってきた。

官能の絶頂を迎える声が頭上から降ってくる。
同時に頭が押さえつけられ、口の中に生温かい液体が放出された。
声にならない声が、自分の耳に響く。
「全部、飲むんだぞ」
得も言われない味覚が全身を侵し、鳥肌が立つ。
助けを乞える相手では無い。
喉を通るはずも無い他人の精液を、諦めと共に飲み込んだ。


社長からの仕事は、毎週金曜日の夕方と決まっていた。
定時を過ぎ、タイムカードを押した後で、誰にも気づかれないように2階へ上がる。
服を脱ぎ、トイレ掃除をし、男に口淫を施す。
行為後、汚れた場所をまた掃除することもある。
会社を出る頃、1階の事務所から人影は消えていることが常だった。

「随分痩せてきたんじゃないのか?大した仕事もしてない癖に、ストレスとか言うんじゃないだろうな」
入社して2回目の夏の走り。
奉仕を強要され始めてから半年以上が経ち、俺の身体は明らかにやつれを見せている。
週末に近づくほどに不定愁訴も多くなっていて、色々な意味で、限界を感じ始めていた。
「・・・いえ、大丈夫です」
上っ面の言葉を、醜態を曝しながら口にする。
近頃は性欲も湧かなくなり、ぶら下げているだけの性器が上を向くことも無い。
何もかも、目の前にいる男の所為。
それだけは、確かだった。


社長室に来客があったのは、掃除を始めてしばらく経ってからのこと。
「社長、ちょっと宜しいですか」
「何だ?今忙しいから、また後にしろ」
相手は、社長の娘婿である崎浜専務だった。
俺は掃除の手を止めて、いつものようにドアを背に息を潜める。

「でしたら、単刀直入にお話します」
どんなに無茶なことを要求されても、上司の命令は絶対と穏やかに笑う。
ワンマン社長の大いなるイエスマンと揶揄される専務の声は、幾分冷たく聞こえた。
「社長に収賄の嫌疑が掛けられていると」
「・・・何のことだ」
「工事発注の見返りに金を寄越せと、仰られたとのことですが」
扉の向こうでなされる話に、耳を疑う。
大事になれば、会社のイメージダウンどころか経営までも怪しくなってくる。
けれど会社の行く末を憂う内、ふと、気持ちが落ち着いた。
奴がいなくなれば、俺はこの闇から抜け出せるかも知れない。

「覚えがない」
棘のある声が、その苛立ちを如実に表す。
「空発注に加担した工務店が、警察に届け出ると言っているようです」
「馬鹿な連中だ。自分の首を絞めるようなことを・・・」
「金を受け取ったのは、事実なんですね?」
「だったら何なんだ?!良いから黙らせろ!」
机を叩くような大きな音。
激昂しているであろう上司を前に、専務の様子は声で知る限り、まだ冷静だった。
「これ以上不正計上を積み上げるのは、得策ではないと思いますが」
「じゃあ、どうしろと?金を返せとでも?」
「既に、私ではフォローできない状態になっております」

元々、専務は建築業界の人間ではない。
社長の娘と結婚する前までは、地方銀行で経理を担当していたのだという。
「それを何とかするのがお前の仕事だ。何の為に置いてやっていると思ってるんだ?」
今までも、同じようなことが何度もあったのだろう。
そして、何度も隠蔽してきたのだろう。
「独断で進められたことは、引責されるべきでは」
「・・・そういうことか。下請けと組んで、社長の椅子でも狙いにきたのか」
「このままでは会社の経営が危うくなると、申し上げているのです」
専務の声は徐々に感情的になっている。
目の前の男への憤りと、直近に迫った破綻への危機。
「明日一日で関連書類を揃えます。週明けにでも、ご確認ください」
そう言って、一方の男は部屋を出ていった。


聞こえなかったと言い訳することは出来なかった。
勢いよくトイレのドアを開けた男は、床掃除をしていた俺の身体を蹴り上げる。
「・・・っが」
みぞおち辺りに食い込んだ革靴の固い感触が、背中にまで突き抜けた。
「どいつもこいつも、ろくでなしばかりだ!」
自らが招いた事態への憤懣を、足元の下僕に容赦なくぶつける。
一思いに、殺してくれればいいのに。
そんな考えだけが、頭の中を巡っていた。

□ 80_命綱★ □
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   ■ 5 ■   ■ 6 ■   ■ 7 ■
■ 8 ■   ■ 9 ■
>>> 小説一覧 <<<

コメント

非公開コメント

Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

*** Link Free ***



>> 避難所@livedoor
Novels List
※★が付く小説はR18となります。

>>更新履歴・小説一覧<<

New Entries
Ranking / Link
FC2 Blog Ranking

にほんブログ村[BL・GL・TL]

駄文同盟

Open Sesame![R18]

B-LOVERs★LINK

SindBad Bookmarks[R18]

GAY ART NAVIGATION[R18]

[Special Thanks]

使える写真ギャラリーSothei

仙臺写眞館

Comments
Search
QR Code
QR