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花火★(6/7)

踏み付けられた恋心を、今更拾い上げる気は無い。
美男美女でくっついてくれれば、嫉妬の中にも安堵するところに落ち着いたはずだ。
それなのに、俺は、漂っていた男の想いを掬い上げた。

こんなことになるとは思ってもいなかったから、部屋の中は日常のままだった。
ガサツで下世話な空間に置いておくのは申し訳なくて、先にシャワーを促した。
微かな水音が聞こえる中、こんがらがった現実を片づけるように、散らばった物を重ねていく。
青みがかった闇の中、薄い吐息を混ぜ合わせながら繰り返したキスを思い返す度に、背筋が寒くなる。
女とだって、あの夜の一回だけなのに。
多分俺は、この後も、彼と唇を重ねることになるはずだ。
背徳感と裏返しの多幸感が、身体を震わせながら湧き上がってくるようだった。

ユニットバスのドアを開ける音がする。
身体を拭き、着替える気配が続くまで、振り返ることなく手を動かす。
「もう、大丈夫?」
そんな声が聞こえてから、初めて彼の存在を確認した。
Tシャツにスラックスの姿で、ワイシャツを手にしたまま濡れた前髪を眼鏡にかける男の姿。
「ええ・・・すみません、散らかっていて」
「いや、良いよ。それに、すぐ・・・」
「今日は、泊まっていって、下さい」
このまま彼を帰したくない。
その一心で、言葉に言葉を被せた。
「・・・お願いします」


シャワーから上がると、先輩はベッドに寄りかかり身体を屈めていた。
俺の気配に彼は顔を上げる。
向けられたその表情が、頭の中に疑問符を生んだ。
「どうして、そんな顔・・・するんですか」
怯えた様な、寂しげな顔。
彼の想いを受け止めようとしている意図が見えていないのだろうか。
思い描いていた成就の場面と、何かが食い違っているのだろうか。
「何か、間違ってますか?こんなはずじゃ、なかった?」
「君と・・・こんなことになるって、考えてもいなかったから」

恋心は、ある程度の妄想をもって大きくなるものだと思っている。
突然の告白、物憂げなキス、声を押し殺したセックス。
想いを寄せる相手に対して猥雑な期待をすることで、自分自身の感情を盛り上げる。
俺が東郷さんに対してそうしていたように、彼が、俺に対して何かを期待していることは
内心複雑な部分はあるにしても、理解出来ない振る舞いじゃない。
シャワーを浴びる短い時間でも、俺は、彼の身体に手を滑らせることを想像してみた。
そうやって、唐突な気持ちに勢いを付けようと思った。

「ここまで来ても、何かの冗談じゃないかって、思ってる」
彼は夢を見ようとはしなかったらしい。
同性に秘めた想いを寄せ続ける辛さは、俺には分からない。
けれど、その不甲斐ない姿は、いつもの彼とは全くの別人だった。
「同情してくれなくて、良いんだ。ホントに」

男の肩を掴んで、床に押し倒す。
驚愕の眼差しを受け止めながら、息を飲んだ。
「別に、良いでしょう。きっかけが、同情だって、何だって」
馬乗りになった格好で、顔を近づける。
「・・・覚悟決めて下さい、真砂さん」
迷いの言葉を封じ込めるように、彼の唇に、唇を重ねた。


頬に手を添えながら、うなじに小さなキスを繰り返す。
身体の強張りに強調された鎖骨を下唇で刺激しながら、徐々に顔を下げていく。
滑らかな感触のTシャツの上から上半身に手を這わせると、押し殺したような息が一瞬止まる。
視線を彼の顔へ向けたけれど、床に臥せるように傾いでいて、表情を見ることは出来なかった。
シャツをたくし上げ、その場所を舌で軽く愛撫する。
僅かに身を捩るその仕草に、気分が昂ぶってくる。
何に於いても敵わない、彼に対する劣等感。
誰からも必要とされてこなかった自分の中に燻る飢餓感。
それらが覆されていく満足感に、囚われていく様だった。

指を、舌を、男の身体に這わせていく毎に終点が見えなくなる。
前戯から挿入、絶頂と言う通常のセックスの流れと、彼らの行為は、恐らく同じなのだと思う。
入れる場所が違う、だけだ。
タイミングはいつにしたら良いのだろう。
俺が勃ったら?彼がイってから?
それとも、各々が、そこで絶頂を迎えるものなんだろうか。
入れられるのは、流石に、怖い。
そもそも、俺はこんな状況で勃つのか?
今まで考えたことも無かった疑問が、頭の中でグルグル回る。

みぞおちの辺りに、彼の興奮が感じられるようになってくる。
服の上からでも、局部の膨らみは明らかだった。
そのことで、過程が間違っていないことを認識した。
スラックスのファスナーを下ろし、手を差し入れる。
指先に当たったのは、他の男のモノ。
完全とは言えないまでも相当に昂ぶった状態に、少しだけ気持ちが怯んだ。

深い吐息と共に、俺の肩を彼の手が滑る。
ずれた眼鏡の向こうの眼は、酷く切なげだった。
半開きの口が、何かを言おうとしている。
抗う言葉は聞きたくなかった。
唇で塞ぎ、モノに二本の指を這わせていく。
喉の奥から響いて来た振動が、俺の鼓膜の奥まで刺激した。

□ 76_花火★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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