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花火★(2/7)

「ねぇ、宗像君。ちょっと飲みに行かない?」
真砂さんが出張で不在だった夕方。
彼から頼まれていた作業に取り掛かろうとしていた矢先、憧れの女に声をかけられた。
「すみません、真砂さんから頼まれてる作業が、まだ・・・」
ふと表情を曇らせた彼女が、手元のスケッチを手に取り、眺める。
「明日じゃダメなの?」
「一応、今日中にって話を・・・」
なるべく下心を見せないように目を逸らす俺の顔に、彼女の気配が近づいてくる。
「今日が、良いんだけどな」
仄かな甘い香りに、気持ちがほだされる。
馬鹿な期待に、言い訳を組み立てる思考回路が冴える。
「・・・分かりました」


大きく開いた胸元まで紅潮の気配が見える。
「やっぱり、宗像君と来て、良かった」
酔いの回った表情で、東郷さんは微笑みながらワインを更に口にした。
「人を笑わせるって、やっぱり才能の一つよね」
「そう、ですか」
仕事を残してきた罪悪感を押し込めながら、滑稽な自分を客観的に思い返す。
無様だと分かっていても、自分の言葉で笑ってくれる彼女の顔を見られるだけで幸せだと
何度も、言い聞かせた。
「一緒にいて楽しいって、大事だもん」
呟きと共に伏せられた眼に、彼女の想いが映る。
こんなに近くにいても、幾ら笑わせても、結局、心には手が届かない。
どうして俺は、この惨めな恋心を手放すことが出来ないんだろう。

俺を窺う潤む目が、やけに色っぽく見えた。
邪な気分を撫でるように、彼女は口を開く。
「実はね、このお店、前にも来ようとしたことがあるの」
思い出したくない顔が、否が応にも思い出された。
「・・・真砂さん、とですか」
「ん~・・・そう。そしたら、彼、何て言ったと思う?」
「・・・さぁ」
「禁煙の店なんて、有り得ないって。そっちの方が有り得ないと思わない?」
彼はいつもそうだ。
女に対して、とりわけ東郷さんに対しては冷たい程にそっけない態度を取ることが多い。
好意の裏返しだと女たちは囃し立て、何てもったいないことをするのかと男たちは憤る。
後輩として、先輩を悪く言うのは憚られる。
とは言え、男として、強大なライバルを庇い立てすることは釈然としない。
「そういうところ、気が利かない部分、ありますから。真砂さん」
「そうなの。だからね、今日、宗像君が付き合ってくれて、凄く嬉しかった」
前屈みになった彼女の胸元に、視線が試される。
目の前の女は知っている。
男が如何に、単純な生き物であるかを。
俺の心の奥底にある、想いを。
「もうちょっと、付き合ってくれる?」


女にモテた記憶は、今までに一度も無い。
子供の頃から小太りで、大学生になってやっと人並みの体型を手に入れても
陰気な性格までもが変わる訳も無く、オタクなサークルで暇を潰す不毛な毎日を過ごす。
同士だと思っていた奴に彼女なんかが出来たりすると
どうしようもない遣り切れなさを抱えながら、笑いで昇華しようと躍起になっていた。
思えばあの頃から、俺は何にも変わってない。

部屋に入る前までに、淡い想いは捨てておくべきだった。
俺が特別な存在ではないことは、店を出てホテルに入るまでの間に気が付いた。
「初めてなの?・・・そっか」
薄手のカーディガンを脱ぎながら、彼女はベッドに座る俺の腕を引く。
外では逆転していた身長が、靴を脱いで、何となく俺の方が高くなっていた。
「じゃあ、ゆっくり、しようね」
滑らかな腕が首に絡みつき、急激に顔が近くなる。
躊躇う間も、戸惑う間も無いまま、唇が重なり合う。
俺には初めての行為でも、彼女にとっては、ごく当たり前の余興。
優しい感触が身体に沁み渡る度に、彼女の心が更に離れていく様で、堪らなかった。


寒いくらい空調が効いた部屋の中で抱きしめた彼女の身体は、溶けそうなくらい柔らかく、温かい。
背中から腰に向かって手を下ろしていくと、見た目では分からない凹凸が掌に残る。
向かい合うように横になった身体を引き寄せると、適度に豊満な胸が上半身を刺激した。
ベッドサイドの照明が、誘惑の眼を照らす。
気を急く衝動を抑えながら、彼女のうなじに舌を這わせた。

女の身体は、皆、こんなに敏感なものなのだろうか。
胸に顔を埋めるような体勢で存在を主張する突起に舌を伸ばすと、身体が小さく跳ねる。
片方を唇で擦りながら、もう片方を指で撫でると、甘い声が耳を刺激する。
俺の頭に手を添えたのは、ぎこちない動きが物足りないからなのか、それとも。
「んっ・・・やぁ」
硬くなっている乳首を指で摘むと、彼女は耐えきれず声を上げた。
鼓動が急に早くなる。
こうやって、男は、女に囚われていくのだと、初めて知った。

腰から太腿に手を伸ばし、秘部へと指を這わせていく。
僅かに開いた隙間の中で、纏わりついてくる濡れた感触が背筋を寒くした。
目の前でキスをせがまれ、それに応える。
襞に隠れた突起を軽く撫でるだけで、彼女は愛おしい吐息を俺に投げつける。
誘われるがままに滑り込ませた先には、得も言われぬ触感の狭苦しい空間が待っていた。

俺の腕と交差するように、彼女の手が下腹部へ延びてくる。
性的興奮を覚えれば、時としてそうでは無くても、そこは反応するはずの器官だった。
「緊張、してる?」
女の指が触れた時、気づかされる。
心は間違いなく彼女を求めているはずなのに、身体は、全く何の反応も見せていなかった。

□ 76_花火★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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