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花火★(1/7)

面白い人。
それが褒め言葉になったのは、いつからなんだろう。
ルックスでも、知性でも勝負出来ない。
だから、自分が明るい性格ではないと分かっていても、そうせざるを得なかった。
思った以上に、無理をしているのかも知れない。
ひとしきり盛り上がった時間の後で襲ってくる虚無感が、毎度、心を穿っていく。

「宗像くんって、いっつも面白いこと言うよね」
「ムードメーカー、みたいな?」
「合コンでもモテるでしょう?」
梅雨の走りのある夜。
大きな物件が一段落したタイミングと言うこともあり、部署の有志で飲みに出た。
女性陣にこうやって弄られるのは、毎度のこと。
けれど、彼女たちにとって俺の存在はあくまで付け合わせ。
メインは、俺の隣で煙草を咥えている男だ。

「真砂くん、この後何か、予定ある?」
やや艶を加えた声で先輩に話しかけたのは、部署の中でも一目置かれている東郷さん。
恐らく、惹かれない男はいないであろう魅力を、彼女自身も弁えているのだろう。
僅かに垂れた大きな瞳と、厚めの唇、程よい大きさの胸。
単純だと分かっていても、他の面々と相違わず、俺も彼女に淡い想いを抱いていた。
「特に、無いけど。ちょっと、疲れたから」
つまらなさそうに煙を吹き出す先輩は、そう言って彼女の誘いをあしらう。

端正な顔立ちにナロースクエアの眼鏡、高身長、気さくな性格。
如何にもデキるサラリーマン風情の彼もまた、女性の目を集めてやまない。
身長も低く、愛嬌があるとしか言われないアンバランスな顔をコンプレックスとして抱えてきた俺には
5つ上の先輩に対し、つまらない嫉妬心と、卑屈な想いばかりが募っていた。
「何か飲む?」
空になりかけた俺のグラスを見て、彼はそう声をかけてくる。
俺の気持ちを知ってか知らずか、いつも優しく接してくれることが、却ってプライドを傷つける。
「俺は・・・そろそろ、烏龍茶で良いです」
「そう。じゃ、オレも烏龍茶で」


情けない警笛の音が、夜空に響く。
「一回?」
「ですね」
「じゃ、まだ良いか」
駅の程近くにある喫煙所で、真砂さんはそう言ってもう一本煙草を取り出す。
「5分くらいで、最終が来ますよ」
「まぁね」
コンペで競われる化粧品会社の研究所新築工事。
真砂さんを頭に、今、そのデザイン設計を進めている。
住宅・マンションを手掛けることが殆どだった会社が、初めて挑む大規模設計だけあって
上司の気合の入れ方は半端ではない。
お陰で、一番下っ端の俺まで、終電までの残業が毎日のことになっている。

「あ、二回鳴りました」
「じゃ、帰るか」
会社の近くにある私鉄の駅では、終電近くになると警笛を鳴らして報せてくれる。
終電一本前では一回、終電になると二回。
警笛から発車までは少し余裕があるから、最悪、会社の玄関からでも走れば間に合う寸法だ。

吊り輪を掴む腕が大きく曲がり、手の脇についた色とりどりのインクが見えた。
「いつも悪いね。こんな時間まで」
「いえ、大丈夫です」
一人が受け持つ物件は、当然一つではない。
日中は他物件の設計をやり、夜になってから研究所設計のエスキスを描く。
真砂さんのこのところのスケジュールは、そんな調子になっている。
カラーペンで描かれたラフスケッチを、CAD化していくのが俺の作業。
その図面に色を載せ、ディテールを書き加え、徐々に建物の形を作り上げていく。
彼の頭の中にあるイメージが具現化していく行程は、経験の少ない俺にとって興味深く
残業とは言え、貴重な勉強をさせて貰っているような、そんな気分だった。

「どうなんですか、ああいう、研究所って」
ぼんやりと車窓を眺める彼に、聞いてみた。
「そうだな・・・マンションってさ、普通、如何にコストを抑えるかを重点に設計するけど」
建築設計において、最も重要なのはコスト意識。
入社当時の研修でも、それは耳が痛くなる程教えられてきた。
「今回のはさ、企業イメージをどう表現するかが一番重要なんだよね」
「イメージ?」
「そう、会社が持ってる理念とか方向性とかを、形にするって感じかな」
「・・・難しくないですか?」
「難しいさ、そりゃ。ダメ出しも半端無いしね」
そう笑う彼は、ふと挑戦的な目を見せる。
「でも、遣り甲斐も大きいよ。先が見えない分、やってやろうって気になるから」

降りる駅のアナウンスが流れる。
後輩の労をねぎらうように、彼は俺の肩を一つ叩いた。
「お疲れ様。明日も、宜しく」
尊敬すべき先輩であるはずだ。
にも拘らず、窓に映る二人の残酷な相違が、劣等感を蘇らせる。
「・・・お疲れ様でした」
本当に、情けない。

□ 76_花火★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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