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交錯★(6/7)

室内を照らす小さな灯りが、壁に大きな影を映す。
ベッドに腰掛ける俺と、床に膝立ちになっている彼。
スーツ姿で甲斐甲斐しく自社の製品を説明している面影は、何処にも無い。
客と営業、そんな関係も、ここには無かった。
想いを寄せる男と、それを受け止めようと狼狽える男がいるだけ。
夢の様な、現実の夜。

彼の手によって解かれた帯が腰回りに纏わりつき、浴衣が肌蹴られていく。
目的は、明確だった。
交わり合うことではなく、奉仕すること。
唇を重ねることも、肌の感触を確かめることも無く、彼は俺の下着に手をかける。

知識に埋もれて埃を被ってしまった官能は、上手く機能するのだろうか。
若い頃、付き合いで連れて行かれた風俗で、当然のように勃起しなかったことを思い返す。
相手が女だったから、そう自分を慰めてはいたけれど、実際のところは分からない。
他人から与えられる快楽に心身を委ねることが、怖いのかも知れない。


躊躇いがあるのか、動きを止めた眼下の彼の頬に手を寄せる。
向けられた眼は、過分な憂いを秘めていた。
「無理、しなくて良い」
彼が望んだこと。
けれど、それは、悲壮な覚悟に押し出された行為。
この夜が過ぎれば、今生の別れが待っている。
首を振る彼の姿に、自分の卑屈さを思い知った。

立ち上がった拍子に、浴衣の帯が床に落ちる。
驚いた表情で俺を見上げる彼の手を引き、立ち上がらせた。
「・・・すまない」
震える身体を抱き寄せ、覚悟を決める。
一つ息を吐き、唇を重ねた。
背中に腕を回し、より身体を密着させていく。
甘い息を吐き出しながら、彼の手が浴衣の中に入り込む。
官能を掬い上げるように、幾度となく、唇を触れ合わせた。

浴衣の下に隠された痩せた身体と共に、ベッドに横になる。
互いの肌の感触を確かめるように、身体を寄せあう。
静かに滑り落ちていく舌が残す感覚に、息が震えた。
時折交わる眼差しを受け止めながら、心が融けていく。


ヘッドボードに寄り掛かる俺の股間に、彼の頭が沈む。
下着の上から擦られるモノには、ある程度の昂ぶりが籠められつつあった。
やがて取り出された部分に、彼の唇が触れる。
不意に湧き上がった背徳感と、得も言われぬ優越感が、快感と共に身体に沁みた。
そっと髪を撫でると、彼の頭はゆっくりと動き出す。
微かな吐息までもが、刺激に変わる。
心と身体が繋がっていることを、改めて思い知らされた。
彼の想いを受け止めたからこそ、俺は、この快楽を味わうことが出来ている。

歳を取ると、感覚は衰える。
自らを慰めることも、若い時に比べれば随分減ってきた。
種を残すこと機会を与えられなかった身体は、けれど、男としての尊厳を保っているようで
彼の舌がもたらす刺激が、徐々に性器を奮い立たせる。
声を忍ばせた深い息に、彼は顔を上げ
何処か満足そうに目を細めながら、モノの先端を唇で挟み込む。
「・・・う」
いかがわしい音と、その中で揺れる舌が、身体を強張らせた。

上下する頭の動きに合わせて、細い背中の筋肉が盛り上がる。
浮き沈みする肩甲骨が、妙に艶めいて見えた。
時折漏れ聞こえて来る息遣い以外、彼の心情を知る術が無い。
冷静さが失われていく自分の身体。
一人で浮かされることが、怖かった。
首に回した俺の手に導かれるよう、彼の頭が胸元まで戻ってくる。
更に引き寄せ、半開きの唇に口づける。
紅潮した、感情の溢れる顔が不安を掻き消す。
官能を途切れさせない気遣いから添えられた手が、モノを擦り始めた。

絡まり合う舌が引き摺る唾液の感触。
湧き上がる衝動が、激しく鼓動を鳴らす。
噴き出しそうになるのを抑えながら、彼の手淫に身を委ねた。
華奢な肩に縋るよう顔を埋める。
耳を滑る唇が絶頂へ誘う。
「・・・っは」
瞬間背筋に走った痙攣が、射精と共に身体から抜けると共に
彼の手から零れる精液の感触が満足感に変わっていく。
それでも、顔を上げた、すぐそこにある表情は、未だ寂しさを抱えていた。


余韻がティッシュで拭き取られても尚、冷静さを欠いた自分がいる。
横になる俺の側に腰かけた彼は、視線をほの暗い部屋に泳がせていた。
「本当に・・・すみません」
微かな声が、耳に届く。
ベッドに置かれた手に、自分の手を重ねた。
「良いんだ」
「本当に、どうか、してる・・・」
俯いたままで肩を震わせる彼を、これ以上見ていられない。
起き上がり、背後からその身体を抱き締める。
上半身に伝わってくる彼の震えが、俺の覚悟をゆっくりと固めていく。

□ 66_交錯★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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