Blog TOP


依拠★(2/9)

どれだけの時間が経ったのか。
激しい痛みに慣れる訳でも無く、ひたすらに悲鳴を上げ続けた身体。
やがてそれは、妙な感覚に包まれる。
生温かい粘液状の物が上半身に垂らされ、それを複数の手が塗り広げていく。
痛みとは真逆の感覚に、心が落ち着きかけて、また沈む。
せめてもの抵抗は頭を揺することくらいで
滅多打ちにされた心身は、自分の物では無いような感覚に陥るくらい乖離していた。

脇の下から這い上がる誰かの手が、頭の上で拘束されている腕に伸びていく。
ゆっくりと滑っていた手が止まり、他とは違う柔らかな感触が、ある部分に纏う。
多分、そこを擦っているのは唇。
子供の頃に出来た大きな傷跡を、癒すかのような動きだった。
「随分、酷い怪我したんだね」
囁かれる声が、ぼやけて響く。
熱く湿った、舌であろう物が古傷をなぞる。
思わぬ刺激を受け入れきれない腕が、手首に巻きついた拘束具から甲高い金属音を引き起こした。
「・・・落ち着いて。怖がらなくて良いよ」
得も言われない音と、下品な声と、全身を包む粘ついた感覚に支配されていく中
左腕のその場所だけが、全ての拠り所になっているような、気がした。


優しい時間に縋った分、その後の責苦は冷酷さを増す。
不穏な機械音が、場を占拠するように低く鳴り始める。
幾つもの微細な振動が、身体中を突き抜けた。
「う、あっ・・・」
身体を傾ければ傾けた場所に、縮こませれば押し広げるように、物体が攻めてくる。
「良いねぇ。もっと、よがれよ」
上ずった声と嘲笑が、振動音の向こうに聞こえる。
反応すればする程、奴らを喜ばせるだけ。
それが分かっていても、既に身体が言うことを聞く状態に無いことも、分かっている。
激痛とは違うものが、屈辱となって心を崩していく。

一瞬の快感が、恐怖となって全身を硬直させる。
窄まろうとする身体は、枷に抗えないままだった。
最も守らなくてはならない弱点。
今までと違う反応に、彼らも気が付いているはずだ。
何とか制御しようとする意志は、急所をしつこく攻め立てる複数の玩弄物に、あっけなく砕かれる。
「もう気持ち良くなっちゃいましたって?」
「早過ぎねぇか?おい」
降り注ぐ言葉が、黒い世界に響く。
「感じてんのか?ん?」
モノの先端を潰すように押し付けられる物体に、荒い息が押し出された。
「は・・・っあ」
「まだまだ、これからだぞ?」
閉じられた目から流れていく液体が、闇を歪める。
足掻くことを止めてしまえば、楽になるのだろうか。
流されてしまったら、俺は、何処に辿り着くのだろう。


身の毛がよだつ様な寒気と、無理矢理湧き起こされる官能がもたらす熱気。
何故混ざり合わないのかが不思議なくらい、明確な二つの感覚が身体を蝕む。
無機質な電動物と、有機的な人の手が、何もかもを翻弄する。
首筋、脇腹、脚の付け根、宙に持ち上げられ露わになった膝の裏。
自分でも知らなかった未知の性感が、突き付けられるようだった。

胸の辺りを弄る、恐らく、二人の手。
ヌルヌルとした感触を引き摺りながら、剥き出しになっている突起に指がかかる。
細かく弾くような指の動きで、肩の周りに緊張が走った。
「良い感じで固くなってるな」
声が聞こえると同時に、片方の乳首が摘み上げられる。
無意識の内に捩れてしまう腰回り。
背中まで突き抜けるような痛みの中に混ざる、極々僅かな快感を認めたくない。
喉奥から出ていく唸り声で、それを押し流そうと試みる。
けれど、緩急のある刺激が小さな膨らみを襲う度、気概が削られていく。
「何だ?ほら、もっと抵抗しろよ」
「乳首弄られんの好きなのか?あ?」
否定しきれない震える吐息を霧散させるように、必死で首を振った。

「あ・・・が」
微かな金属音の後にやって来た激痛で、呼吸が歪な音に変わる。
強い力で挟み込まれた双方の乳首が、更に引っ張り上げられる。
「おら、もっと啼け」
愉快そうな男の声。
「当たり引いたんじゃねぇか、今日は」
「分かってんだろ?チンポおっ勃ってんの」
モノの先端が指で弾かれ、鋭い痛みと酷い快感が背筋を駆ける。
こんな状況なのに、俺は。
状況を鑑みる程に、無力感が心を覆い尽す。

耳に誰かの吐息がかかり、唇が耳たぶを滑る。
「痛め付けられるの、好きなのかな」
種々聞こえる声の中で、唯一穏やかな口調。
それがむしろ、不気味だった。
常軌を逸した場の中で、どうしてこいつは、平常心でいられるのか。
「・・・ごめんね」

男の言葉の意図を解する間もなく、口の中に何かが突っ込まれる。
顎が外れそうなくらい押し広げられた咥内で、瞬間行き場を見失った舌が水分を奪われる。
冷たい金属の感触が、頭の中を凍りつかせるようだった。

□ 62_依拠★ □
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   ■ 5 ■   ■ 6 ■   ■ 7 ■
■ 8 ■   ■ 9 ■
>>> 小説一覧 <<<

コメント

非公開コメント

前人未到の境地

歌舞伎の『女殺油地獄』では、零れた油でヌルヌルした中での陰惨な殺しの場面が見せ場になっています。
怖いもの観たさ…恐怖さえ快感にする人間の隠された一面を、如何にアブリ出して描くかが作者の腕の見せ処!
あなたの筆力は、他の誰もが到達し得なかった未踏峰の頂上まで到達しつつあるのでは!?と、思います。

大きな傷痕。
穏やかな物言いの男。
住吉主任。

幾つかのキーワードが心の波紋を拡げる謎を呼び寄せ、続きを知りたいと渇望させます。
ただ続きを読みたいな~と言う軽い気持ちでは無くて、真相を知りたい!!というモドカシイ程の渇望を読者に抱かせますね!

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

夜の真相。

前半は、全てが闇の中で翻弄される展開でした。
視覚が遮られた時に、人間の身体がどう反応するのか。
不安と恐怖と諦めが限界を超えた時、どんな心境になるのか。
頭を悩ませた割には、この状況が上手く伝わっているのかどうか
少し心配でもあります。

今回の話は少し長めになっておりますので、1ヶ月程続きます。
少しずつ繰り出されていく夜の真相を楽しんで頂ければと思います。
Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

*** Link Free ***



>> 避難所@livedoor
Novels List
※★が付く小説はR18となります。

>>更新履歴・小説一覧<<

New Entries
Ranking / Link
FC2 Blog Ranking

にほんブログ村[BL・GL・TL]

駄文同盟

Open Sesame![R18]

B-LOVERs★LINK

SindBad Bookmarks[R18]

GAY ART NAVIGATION[R18]

[Special Thanks]

使える写真ギャラリーSothei

仙臺写眞館

Comments
Search
QR Code
QR