Blog TOP


慙愧★(4/6)

担当エリアの店舗を何店か回り、適当に時間を潰して会社に戻る。
つまらない仕事だと思っていたのは最初の内だけだった。
ぬるま湯にどっぷり浸かった日常。
いろんなものが詰め込まれていた頭の中に隙間が出来て行く感覚が、妙に気持ち良い。


営業途中、時間潰しに入った鄙びた映画館。
効き過ぎた冷房に震えながら向かったトイレで、異様な光景を目にした。
ブースから出て来た二人の男。
一方の男がワイシャツにスラックスと言う姿で首輪に繋がれ、後ろに立つ大柄な男に頭を掴まれている。
気味の悪さと恐怖が先に立ち、見て見ぬ振りをしたまま急ぎ用を済ます俺に
品の無い野太い声が掛けられた。
「ちょっと頼みがあるんだけどな」
顔を背けたまま、身なりを整える。
「ほら、お前からもちゃんとお願いしろよ」
「俺、そう言うの興味無いから」
自動水栓の反応の遅さにイライラしながら、鏡に向かって言葉を吐いた。
震える息が狭い空間に響き、耳に届く。
「・・・殴って、下さい」
喪失感の滲む声に、思わず歩みを止めた。

「こんな時間に、こんなとこで油売ってるぐらいだから、ロクな仕事してねぇんだろ?」
嘲り笑うような表情で、ガタイの良い男は手元の身体を俺の方へ突き放す。
「こいつ殴って、ストレス発散して行きなよ」
よろけながら俺に近づいて来る、痩せた中年の男。
不意に鎖を引っ張られて仰け反る上半身が、眼前に映った。
怯えた眼が俺を真っ直ぐに見ている。
俺より、どのくらい年上だろう。
家族はいるんだろうか。
絡みつくような訴えを振り払うように思案を巡らせてみたけれど、徒労だった。
少しネクタイを緩め、右側の袖を一回だけ折り返す。
軽く息を吐き、彼を視界に収めた。

拳に残る彼の顔の熱と感触、そして骨に響く痛み。
短い呻き声を上げて左に倒れるその身体に、再び拳をめり込ませる。
膝が折れ、崩れ落ちそうになっても尚、彼の目は執拗に俺の気分を煽って来た。
両手で肩を掴み、腹を膝で蹴り上げると、その拍子に口から噴き出た血がワイシャツに染みを残す。
そのまま胸の辺りを足で突き、床に押し倒した。
荒い息を吐きながら唇を震わせる男の姿に、薄っぺらな優越感が顔を出してくる。
自分より惨めな人間を蔑んで溜飲を下げる。
今の俺には、これが、ふさわしいのかも知れない。

背後で愉快そうに眺めていた男が、しゃがみこみ、震える身体の股間を弄る。
「おら、もっと殴って貰えよ」
スラックスの中に僅かに窺える怒張の気配。
「ボコボコにされて、おっ勃てる変態でね。そうだろ?」
そんなものの片棒担ぐなんて、冗談じゃない。
男が小さく頷きながら起き上ろうとする光景に、直前浮かんだ理性が蹴散らされる。
上半身を靴で踏みつけ、その顔を見下ろした。
「・・・勝手に起き上ってんじゃねぇ」

薄汚れた塩ビシートの床に、赤黒い筋が無数に付けられて行く。
躊躇いを感じなくなるまで、それほどの時間はかからなかったと思う。
殺してしまったら、そんな杞憂も、屈折した自尊心がくすぐられる快感に流される。
抵抗を見せない身体を、ひたすらに殴り、蹴り上げ続けた。


いわゆるハッテン場であると言う噂を知らなかった訳じゃ無い。
もちろん、男との性交渉を目的に来る人間もいたが
一方で、自分の異質な性癖を解消する為にやって来る者もいる。
殴られることで勃起する男、拘束された状態で罵られることに恍惚とする男。
加虐心が満たされたところで、性欲発散には繋がらなかったけれど
ロクでもない毎日が、誰かを嘲り笑うことで何となく様になって行く。
その異常な時の流れに、すっかり迷い込んでしまっていたのだと思う。


梅雨明け宣言を待つだけとなった7月のある日。
一番後ろの座席でスクリーンを眺めていた俺の視界に、一人のサラリーマンの姿が映った。
ほの暗い光に照らされた顔は、つまらなさそうな覇気の無いもの。
外回り中の営業マンか何かだろう、そう思っていた時、背後から声を掛けられる。
「あのリーマン、ちょっと良い感じなんだけど」
相変わらず下品な声が、興奮気味の息遣いで更に不快に聞こえた。
「だから?」
「一緒に可愛がってやんね?」
「興味無いから」
「拳で打ちのめすのと、変わんねぇよ」
鼻で笑う声が、耳を掠る。
「屈辱に塗れた男の顔を踏みつけんのが好きなんだろ?あんたは」

かつて屈辱の中で感じた身体の昂ぶり。
そして、同じ屈辱を味わわせることで満足する感情。
紙一重なのかも知れない。
どっちにしたって、異常なことには変わりないけれど。


警戒心の欠片も無く座席に身を任せる彼の後ろに、わざと音を立てて座る。
その身体が、僅かに強張ったように見えた。
首に腕を回し、口を塞ぎながら、仰け反らせるように自分の方へ引き寄せる。
「お兄さん、こう言うの、興味ある?」
耳元でそう囁くと、息を飲む音が聞こえた。
降って湧いた不幸に、彼の身体は小刻みに震えだす。
表情に若さを滲ませるサラリーマンは、怯えた眼を俺に向け、意味の無い抵抗を見せた。

座席の周囲に、俄かに人が集まりだす。
哀れな生贄となった男は、身を捩りながら仕打ちに喘ぐ。
「真面目にお仕事しないとダメだな」
うなじに舌を這わせると、震える唇から漏れる吐息が掌を湿らせた。

□ 38_夢路★ □ ※露出・凌辱表現を含みます。苦手な方はご注意下さい。
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   ■ 5 ■   ■ 6 ■
□ 60_慙愧★ □
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   ■ 5 ■   ■ 6 ■
>>> 小説一覧 <<<

コメント

非公開コメント

人間の宿命?

人間というのは、他の生物と比べて大脳がデカイ生物だから、色んな事を考えずにいられない生物なんですよね。
其れが人間の宿命です。考える事が!
だから、性的な事もバリエーションが豊か。
呆れ返る程にね(笑)。
私も痛いのは嫌です、実生活じゃ!つまり、読む事は大脳の餌です(笑)。

並んで寝る時に、私の様に右側が居心地が良い人っていうのは、悪戯っ子ですね。右利きの場合、隣に寝ている相手に色々と触っちゃえますからね(笑)。
それに対して、あなたの様に左側が居心地が良い人は、穏やかな大人なタイプだと思います。
爆睡してたら、右隣の人に弄られていても、気付かないと思いますよ?(笑)。

妄想の源泉。

私小説ではない最大の理由は、全ての事項が空想であること。
未体験のことを頭の中だけで組み立てて行く作業は不得意ではありませんが
思考の限界が文章の限界になってしまうことがもどかしく、悔しく思います。
つたない種々の経験が、何処まで妄想の源泉になってくれるのでしょうか。

俄かに露骨な話題になって来ました。
少し、自重しますね…。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

*** Link Free ***



>> 避難所@livedoor
Novels List
※★が付く小説はR18となります。

>>更新履歴・小説一覧<<

New Entries
Ranking / Link
FC2 Blog Ranking

にほんブログ村[BL・GL・TL]

駄文同盟

Open Sesame![R18]

B-LOVERs★LINK

SindBad Bookmarks[R18]

GAY ART NAVIGATION[R18]

[Special Thanks]

使える写真ギャラリーSothei

仙臺写眞館

Comments
Search
QR Code
QR