Blog TOP


想望(1/5)

夜中の1時過ぎ。
赤い電飾が消えて、道路が一瞬にして暗闇に包まれた。
この光景を見る度、何か、全てが終わったような気がする薄気味悪さを感じて
それが、俺の心を何故だか落ち着かせてくれる。

「お疲れ様でした」
久しぶりに発した言葉と共に、バイト先を後にする。
道路工事の現場で誘導のバイトをするようになってから2週間。
元から昼夜逆転の生活を送っていたから、身体には何の問題も無かったけれど
同居する家族とは、更に顔を合わす機会が少なくなった。
家族とも、外界とも接点の無い毎日。
口のきき方さえ忘れてしまいそうで、孤独感はますます募って行く。

高校を出てから5年、定職にもつかず、フリーター生活。
就職に失敗したのだと言い訳するには、もう時間が経ち過ぎてしまった。
腫れ物に触る様な態度を取る両親。
申し訳ないと思う気持ちと、やり場のない焦燥感が、絶望になって頭の中を占拠する。
あの電飾のように、俺の人生もフッと消えてくれないか、そう、思う。


歩いて帰った自宅の玄関には、一つの包み。
背負っているリュックサックを置くことなく、それを拾い上げて、再び外に出る。
包みの中には、束になったマンションのチラシ。
立ちっ放しできつい身体を引き摺る様に、近くの団地に足を向けた。

静まり返った団地のポストに、一枚一枚チラシを放り込む。
点滅している街灯で出来た自分の影が、道路に浮かんだり消えたりするのを見ながら
慣れたルートを辿って行く。
一枚幾らになるのかなんてを考えると虚しくなるだけだから、考えないようにしている。
それでも、他に考えることも無く、結局はつまらないことを考えて無駄に神経を擦り減らす。

カラスの鳴き声が夜明けを告げる頃、手元のチラシは半分くらいに減って来た。
高齢者の多いこの団地では、そろそろ人影が現れてくる時間。
今日は終わりにしよう、そう思った時、道の向こうから歩いてくる人物が目に入る。
抱える荷物を見て、それが同業者であることは明らかだった。

ポスティングのバイトを夜中にやることは、珍しいことじゃない。
家人や管理人と顔を合わさない、人が少ないから移動が容易い。
ガラの悪い輩に絡まれそうになることもあるものの、この時間帯の方が捗るのも確かだった。

歩いて来たのは、俺よりも幾らか年上の男。
俺を認めた彼は、顔を緩ませて軽く頭を下げる。
そんな態度を取られたのは初めてで、どんな対応をしたら良いのか混乱する中
すれ違いざま、お疲れ、と一言だけ発する事は出来た。
男の足跡が離れて行くのを耳で感じていると、その足音がふと止まる。
「頑張って」
自分の発した言葉で妙に緊張していた背中に、柔らかい声が戻ってくる。
振り返る事は出来なかったけれど、この瞬間が嬉しくて、歩きながら大きく首を振った。


朝方ベッドに入ったにも拘らず、眼が冴えて眠れなかった日。
時間は、まだ昼前。
共働きをしている両親は既に家におらず、ガランとした室内に少し、ホッとする。
天気は悪くない。
無言の圧力に押されるよう、久しぶりに昼間の風景を見に、外へ出た。

『誰にでも出来るお仕事です』
画面に映し出された文言の下には、経験者優遇・パソコン使える人歓迎と言った相反する文字。
こんな時間でも、ハローワークには多くの人が詰めている。
それぞれが背負っているものも、それぞれの気負いも様々なのは分かっているけれど
同じ境遇の人間がこれだけいるんだと思うだけでも、気持ちが楽になる。

「若いから、パソコンくらい使えるでしょう?」
窓口で何回、そう言われただろうか。
インターネットを見たり、メールを出したり、パソコンで俺がやることと言ったらそれくらいで
一般的なビジネスソフトの名前を出されても、それが何をするものか知っていても、使ったことは無い。
「今はねぇ、こう言うの使えて当然だって認識があるから」
苦笑いする職員に、今日も溜め息を返して席を立つ。


駅の近くにあるスーパーの前を通りかかったのは、昼も過ぎた頃だった。
買い物客が一段落したのか、人影はまばら。
その中に、赤いジャンパーを着た男がチラシを配っている姿が目に入った。
パソコン教室の名前を背に掲げながら、行き過ぎる人たちに手を伸ばす。
受け取って貰えるチャンスを窺いながら、宜しくお願いしますとひたすら繰り返す男。
スーツを着ているところを見ると、サラリーマンのようだ。
折角就職しても、あんな仕事をやらされるなんて大変だな、そう思いながら通り過ぎようとした時
不意に、彼が振り向いた。

「あ・・・」
小さな声を上げたのは、相手の方だった。
見覚えのある顔に思わず立ち止まる。
何処と無く嬉しそうな笑顔を見せた彼は、手にした紙を俺の方へ差し出しつつ言った。
「ここの上にあるパソコン教室なんです。無料体験もやってるんで、宜しければ是非」
彼があの時配っていたのは、このチラシだったのだろう。
如何にも客引きと言ったトーンで話す彼に、どんな反応をして良いか分からず
軽く会釈をして、その紙を受け取った。
「お待ちしてます」
人当たりの良さそうな表情で、彼は再び仕事に戻る。
思わぬ再会に小さな喜びを感じながら、俺はその場を後にした。

□ 59_想望 □
■ 1 ■   ■ 2 ■   ■ 3 ■   ■ 4 ■   ■ 5 ■
>>> 小説一覧 <<<

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

コメント

非公開コメント

おめでとうございます

明けましておめでとうございます。

毎回更新を楽しみにしています。
どうか頑張って続けてください。

そしてたまに無責任ですが感想を書かせてくださいね。

お時間拝借。

あけましておめでとうございます。

ご感想の一つ一つが、モチベーションにも繋がっておりますので
どうぞ遠慮無くお寄せ下さい。

今年もお時間拝借できればと思います。

No title

あけましておめでとうございます。
今年も更新楽しみにさせていただきます。

今年一年まべちがわさんにとって良い一年になりますように。


追伸、近頃寒いので風邪にはお気をつけください・・・。 

今年も宜しくお願い致します。

新年のご挨拶を頂きまして、ありがとうございます。
今年もスローペースながら着実に、言葉を重ねていければと思っております。

変わらぬご愛顧を、何卒宜しくお願い致します。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

柔らかく穏やかに。

非公開コメントですが、お返事させて頂きます。

コメント頂きまして、ありがとうございます。
R18とNON-R18を交互に公開する形をとって随分と経ちますが
やはり、未だにR18の方がアクセスが多く
一部Pixivへ載せているものについても、過激なほど食いつきが良い傾向にある為
どうしても、そちらの方へ流れがちでした。
今後は、もう少し柔らかい話が書けるよう精進して参りますので
これからもご愛顧のほどよろしくお願い致します。
Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

*** Link Free ***



>> 避難所@livedoor
Novels List
※★が付く小説はR18となります。

>>更新履歴・小説一覧<<

New Entries
Ranking / Link
FC2 Blog Ranking

にほんブログ村[BL・GL・TL]

駄文同盟

Open Sesame![R18]

B-LOVERs★LINK

SindBad Bookmarks[R18]

GAY ART NAVIGATION[R18]

[Special Thanks]

使える写真ギャラリーSothei

仙臺写眞館

Comments
Search
QR Code
QR