覚醒★(4/6)
「オレ、キスするの・・・今日が、初めてで」
ベッドに浅く腰掛けた後輩は、俯いたまま呟いた。
部署の中でも目を引く顔立ち。
女の影を見せないことを、逆に相当なやり手と噂されていたことは彼自身も知っていただろう。
俄かに信じられない言葉は、彼が同性に惹かれる人間なのだと言うことを裏付けるようだった。
「男が好きなのは、確かなんです。でも、こんなの間違ってるって、打ち消して来た」
「じゃあ、あれは・・・」
距離を置いて椅子に座る俺に、彼は微かな視線を送る。
「間違ってるなんて、もう、思いたくなかったんです」
前髪に半分隠れた眼鏡の向こうに、揺らぐ瞳が見えた。
その口から出て来るであろう言葉に、身構える。
「浅井さんが・・・好きだって、気持ちを、否定したくなかった」
俺が抱いている気持ちは、どうなのか。
キスをして、身体を重ねて・・・その程度の朧げなイメージだけが頭に浮かんでいる。
恋愛感情を含んでいるのかは、分からない。
ただ、身体に手を伸ばすことへの抵抗は、無い。
身体の関係から入ることは、そんなに間違っているのだろうか。
立ち上がり、後輩の前に立つ。
俺の顔を見上げるその額に手を寄せ、前髪を掻き上げるように、更に上向かせた。
小さく開いた唇に、自分の唇を寄せる。
少し苦しげな息が鼻から抜けて行った。
離れた唇に軽く舌を滑らせる。
顔を出した舌が触れ合った瞬間、彼の眉間が歪む。
しばらく縺れ合わせる内に、彼の口は大きく開き、吐息を漏らす。
仄かに紅く染まる顔に、引き摺られていく自分がいた。
顔を離し、腹の辺りに頭を抱え込む。
片腕を力なく腰に回した彼の体温が、ワイシャツを通して沁みてくる。
彼の髪を撫でることで、自分を落ち着かせていく。
未だ興味本位のままの、俺の気持ち。
寄せられる想いを真っ直ぐに受け止められないもどかしさ。
彼の息遣いを、身体の感触を、自分の肌に吸収できれば、この霧は晴れるのか。
当然のことながら、ホテルのユニットバスは狭い。
それでも、後輩を一人にするのが何となく心細くて、彼の手を引いた。
服の上から想像した通りの、痩せた身体を晒す後輩。
普段とは違う状況に塗り替えられた感情が、妙な恥ずかしさを誘う。
シャワーの栓を捻ると、バスタブに立つ二人の身体に湯が降り注いで来る。
肩から下を濡らした後輩を壁に押し付け、唇を重ねた。
微かな震えが、密着した上半身を通して感じられる。
頭から肩口へ手を下ろしながら、唇を首筋に滑らせた。
掠れた息が、シャワーの水音に混ざって消えて行く。
うなじから耳の方へ舌を伸ばすと、肩が小さく揺れる。
不意に、自分の腰に彼の手が触れた。
引き寄せられた拍子に、脚の付け根辺りに感じられる物体。
僅かに反応しているかのような緊張具合で、気分が高揚するのを抑えられない。
「・・・敦志」
すぐそばで、固唾を飲む音が聞こえる。
静かに俺の身体を擦っていた手が止まる。
名前を呼び、呼ばれることが、こんなに互いの心を強張らせるのか。
耳たぶを唇で挟み込み、軽く引っ張る。
手を脇腹から腰の方へ下ろしていくと、小さな吐息が肩を滑って行く。
腰骨をなぞる手に、彼の手が添えられた。
躊躇いがちな視線を、間近で受け止める。
音を伴わない声が唇を震わせていた。
「待たねぇよ」
彼の不安を振り切るように、そのモノに手を伸ばす。
背中にシャワーの湯を浴びながら、膝を折る後輩の身体を舐って行く。
手の中にあるモノが舌の動きに合わせて手応えを残す。
前屈みになった身体を肩で受け止めながら、期待を隠しきれない突起を舌で弄る。
聞こえてくる息遣いの中に感じられる、快感の欠片。
ゆっくりと扱く度、絡みつく毛の感触が気にならなくなる程、彼の怒張は進む。
ふと見上げると、眉間に切なげな皺を寄せた眼が俺を見ていた。
水栓を閉め、バスタブの中に膝立ちになる。
縁に腰を預けるような姿勢を取る後輩の顔を引き寄せ、額を触れ合わせた。
「・・・舌」
そう言って小さく口を突き出すと、唇の間から舌が覗く。
舌先を擦り合わせる内に、徐々に絡み合う面積が大きくなる。
口端から垂れた唾液が、汗と共に流れ落ちて行く。
喉の奥から漏れて来るえずく様な喘ぎが、吐息に混ざって耳を刺激した。
「あさ、い、さん」
「ん?」
「オレ・・・彼女の、代わり・・・ですか?」
豊嶋が発した問が、自分の気持ちを確信させる。
性欲を発散する為だけに、男に対してここまで踏み込めるのか。
自分の快感が先走る女とのセックスとは、何かが違う。
しかも、今の俺が求めているのは、夢の中で見失ってしまった彼の悦び。
相手が彼だからこそ、この行為も成立する。
答を求める視線を外し、彼の股間に顔を近づける。
目の前には、頭をもたげ始めた彼のモノがあった。
一つ息を吐き、呼吸を整える。
「俺のこと、嫌いになんなよ?」
□ 58_覚醒★ □
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ベッドに浅く腰掛けた後輩は、俯いたまま呟いた。
部署の中でも目を引く顔立ち。
女の影を見せないことを、逆に相当なやり手と噂されていたことは彼自身も知っていただろう。
俄かに信じられない言葉は、彼が同性に惹かれる人間なのだと言うことを裏付けるようだった。
「男が好きなのは、確かなんです。でも、こんなの間違ってるって、打ち消して来た」
「じゃあ、あれは・・・」
距離を置いて椅子に座る俺に、彼は微かな視線を送る。
「間違ってるなんて、もう、思いたくなかったんです」
前髪に半分隠れた眼鏡の向こうに、揺らぐ瞳が見えた。
その口から出て来るであろう言葉に、身構える。
「浅井さんが・・・好きだって、気持ちを、否定したくなかった」
俺が抱いている気持ちは、どうなのか。
キスをして、身体を重ねて・・・その程度の朧げなイメージだけが頭に浮かんでいる。
恋愛感情を含んでいるのかは、分からない。
ただ、身体に手を伸ばすことへの抵抗は、無い。
身体の関係から入ることは、そんなに間違っているのだろうか。
立ち上がり、後輩の前に立つ。
俺の顔を見上げるその額に手を寄せ、前髪を掻き上げるように、更に上向かせた。
小さく開いた唇に、自分の唇を寄せる。
少し苦しげな息が鼻から抜けて行った。
離れた唇に軽く舌を滑らせる。
顔を出した舌が触れ合った瞬間、彼の眉間が歪む。
しばらく縺れ合わせる内に、彼の口は大きく開き、吐息を漏らす。
仄かに紅く染まる顔に、引き摺られていく自分がいた。
顔を離し、腹の辺りに頭を抱え込む。
片腕を力なく腰に回した彼の体温が、ワイシャツを通して沁みてくる。
彼の髪を撫でることで、自分を落ち着かせていく。
未だ興味本位のままの、俺の気持ち。
寄せられる想いを真っ直ぐに受け止められないもどかしさ。
彼の息遣いを、身体の感触を、自分の肌に吸収できれば、この霧は晴れるのか。
当然のことながら、ホテルのユニットバスは狭い。
それでも、後輩を一人にするのが何となく心細くて、彼の手を引いた。
服の上から想像した通りの、痩せた身体を晒す後輩。
普段とは違う状況に塗り替えられた感情が、妙な恥ずかしさを誘う。
シャワーの栓を捻ると、バスタブに立つ二人の身体に湯が降り注いで来る。
肩から下を濡らした後輩を壁に押し付け、唇を重ねた。
微かな震えが、密着した上半身を通して感じられる。
頭から肩口へ手を下ろしながら、唇を首筋に滑らせた。
掠れた息が、シャワーの水音に混ざって消えて行く。
うなじから耳の方へ舌を伸ばすと、肩が小さく揺れる。
不意に、自分の腰に彼の手が触れた。
引き寄せられた拍子に、脚の付け根辺りに感じられる物体。
僅かに反応しているかのような緊張具合で、気分が高揚するのを抑えられない。
「・・・敦志」
すぐそばで、固唾を飲む音が聞こえる。
静かに俺の身体を擦っていた手が止まる。
名前を呼び、呼ばれることが、こんなに互いの心を強張らせるのか。
耳たぶを唇で挟み込み、軽く引っ張る。
手を脇腹から腰の方へ下ろしていくと、小さな吐息が肩を滑って行く。
腰骨をなぞる手に、彼の手が添えられた。
躊躇いがちな視線を、間近で受け止める。
音を伴わない声が唇を震わせていた。
「待たねぇよ」
彼の不安を振り切るように、そのモノに手を伸ばす。
背中にシャワーの湯を浴びながら、膝を折る後輩の身体を舐って行く。
手の中にあるモノが舌の動きに合わせて手応えを残す。
前屈みになった身体を肩で受け止めながら、期待を隠しきれない突起を舌で弄る。
聞こえてくる息遣いの中に感じられる、快感の欠片。
ゆっくりと扱く度、絡みつく毛の感触が気にならなくなる程、彼の怒張は進む。
ふと見上げると、眉間に切なげな皺を寄せた眼が俺を見ていた。
水栓を閉め、バスタブの中に膝立ちになる。
縁に腰を預けるような姿勢を取る後輩の顔を引き寄せ、額を触れ合わせた。
「・・・舌」
そう言って小さく口を突き出すと、唇の間から舌が覗く。
舌先を擦り合わせる内に、徐々に絡み合う面積が大きくなる。
口端から垂れた唾液が、汗と共に流れ落ちて行く。
喉の奥から漏れて来るえずく様な喘ぎが、吐息に混ざって耳を刺激した。
「あさ、い、さん」
「ん?」
「オレ・・・彼女の、代わり・・・ですか?」
豊嶋が発した問が、自分の気持ちを確信させる。
性欲を発散する為だけに、男に対してここまで踏み込めるのか。
自分の快感が先走る女とのセックスとは、何かが違う。
しかも、今の俺が求めているのは、夢の中で見失ってしまった彼の悦び。
相手が彼だからこそ、この行為も成立する。
答を求める視線を外し、彼の股間に顔を近づける。
目の前には、頭をもたげ始めた彼のモノがあった。
一つ息を吐き、呼吸を整える。
「俺のこと、嫌いになんなよ?」
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コメント
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個性的という事
ゴッホの絵は、見ればゴッホの絵だと分かります。ルノワールもそう。モディリアーニはかなり特徴的なので、誰でも直ぐに作者が分かります。
このように、有名な画家はそれぞれ個性的な画風を持っています。
そして、あなたも最初から個性的な文体を持ち、独特の魅力に満ち溢れた作品で驚かされました。
構想を練ったり、取材旅行されたり、又、リフレッシュされたりする時間も必要だと思いますので、ご自分が思われるようになさって下さいね。
「親孝行、したい時には親は無し。」と、昔から言われます。
お正月に帰省されるようで、自分の事でもないのに、良かったと思いました。
道中のご無事をお祈りいたします。お元気で東京へお戻り下さいませ。
このように、有名な画家はそれぞれ個性的な画風を持っています。
そして、あなたも最初から個性的な文体を持ち、独特の魅力に満ち溢れた作品で驚かされました。
構想を練ったり、取材旅行されたり、又、リフレッシュされたりする時間も必要だと思いますので、ご自分が思われるようになさって下さいね。
「親孝行、したい時には親は無し。」と、昔から言われます。
お正月に帰省されるようで、自分の事でもないのに、良かったと思いました。
道中のご無事をお祈りいたします。お元気で東京へお戻り下さいませ。
今年の後悔を来年の糧に。
昨晩コメントを頂いた閲覧者様へ
寒くなって参りましたが、如何お過ごしでしょうか。
まだ仕事が残っておりますので、あまり年末感が出ていないのですが
今年やり残してしまったことは、さっさと来年の目標に置いておくことにしました。
ジャンルにこだわる事無く、思いついたことを書き連ねて来ておりますので
的が定まらずに、閲覧者の方を揺さぶってしまっているのではないかとも思っているのですが
それぞれにお楽しみ頂いているようで、ホッと致しました。
来年は少しスローペースで歩いて行くことにはなりましたが
何卒変わらぬお付き合いを頂ければと思います。
寒くなって参りましたが、如何お過ごしでしょうか。
まだ仕事が残っておりますので、あまり年末感が出ていないのですが
今年やり残してしまったことは、さっさと来年の目標に置いておくことにしました。
ジャンルにこだわる事無く、思いついたことを書き連ねて来ておりますので
的が定まらずに、閲覧者の方を揺さぶってしまっているのではないかとも思っているのですが
それぞれにお楽しみ頂いているようで、ホッと致しました。
来年は少しスローペースで歩いて行くことにはなりましたが
何卒変わらぬお付き合いを頂ければと思います。
変わらない物をお届けする為に。
自分の文章が個性的なのかどうか。
他の方と比べる機会が無い為に、ピンと来ないのですが
一先ず、私にはこう言った文章しか書けないようなので
しばらくはこの流れにお付き合い頂ければと思います。
このblogの売りは、正直なところ "毎日更新" と言うところにあると思っています。
それ故に足を運んで頂いている方も少ないのでしょう。
そんなこともあり、更新を週2回に減らすと言うことに不安が無い訳ではありません。
楽しみにして頂いている方に、変わらず文章をお届けできるよう
今以上に頑張って行きたいと思います。
年末は30日に仙台へ帰り、大晦日には東京へ戻ります。
何ともとんぼ返りですが、故郷の風に凍えて、気分転換して参ります。
他の方と比べる機会が無い為に、ピンと来ないのですが
一先ず、私にはこう言った文章しか書けないようなので
しばらくはこの流れにお付き合い頂ければと思います。
このblogの売りは、正直なところ "毎日更新" と言うところにあると思っています。
それ故に足を運んで頂いている方も少ないのでしょう。
そんなこともあり、更新を週2回に減らすと言うことに不安が無い訳ではありません。
楽しみにして頂いている方に、変わらず文章をお届けできるよう
今以上に頑張って行きたいと思います。
年末は30日に仙台へ帰り、大晦日には東京へ戻ります。
何ともとんぼ返りですが、故郷の風に凍えて、気分転換して参ります。