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信頼(2/5)

肩に食い込むエコバッグを提げて会社に戻ったのは、もう夜だった。
「お疲れ。展示会どうだった?」
そう声をかけてきたのは、同僚の河野だった。
「ああ、なかなか面白かったよ。これ、お土産」
CMで一躍有名になったキャラクターのストラップを渡す。
「悪趣味すぎるだろ。こんなのつけてるの、メーカーの営業だけだって」
全くだ、と思いつつ、山のようなノベルティを取り出す。
オークションに出したら、どこぞのマニアが買ってくれるだろうか。

「そう言えば、事前審査出したマンションなんだけど」
俺と河野が担当していた物件のことだ。
2週間ほど前、確認申請の事前審査に出していた。
「審査が終わったから、来いってさ」
「あれって役所に出してるんだっけ?」
「そ、区役所」
確認申請は役所に出す場合と、民間の会社に出す場合があり
民間の方が金はかかるが、融通が利きやすく、役所はその逆だ。

「俺、役所の雰囲気って好きじゃないんだよな」
「仕方ないだろ、役所の許可が無いと、何にもならないんだから」
「まぁ、そうなんだけどさ」
そう言いながら、河野はメモを差し出す。
「その日、別件が入ってるんだよ。だから、小笠原、頼むな」
メモには、役所の担当の名前と、日時が書いてあった。
俺だって、あの雰囲気は好きじゃない。

何か腑に落ちないまま、役所の場所をネットで検索する。
ホームページを見て、思わず声を上げた。
河野が怪訝そうに、視線を向ける。
「どうした?」
「いや、何でもない」
ページの一番上に描かれたマークは、ビッグサイトの彼の名刺にあったものだった。
どうりで見たことがある気がした訳だ。


久しぶりにスーツを着る。
事務所で仕事をする時は大抵ラフな格好だから、たまに着ると落ち着かないが
社会人として、役所に出向く時くらいは着ないとまずいだろう。
約束の時間ぴったりに、窓口へ赴く。
「カミヤ建築設計の小笠原と申します。森様と10時にお約束しているのですが」
受け付けてくれた女性は、とても愛想が良いとは言えない態度で、席に座るよう促す。
だから、役所は苦手だ。
別にサービスを求めている訳では無いけれど。

5分ほど待たされ、担当の森さんがやって来る。
「ご苦労様です。カミヤさんですね」
そう言って座った彼の後ろから、もう一人ついて来た。
一瞬、ハッとする。
ビッグサイトで会った、彼だった。
眼鏡をかけ、前髪を下ろしているので雰囲気は全く違うが、確かだ。
彼も、俺に気がついたようで、一瞬驚いたような表情を見せる。
顔色は、相変わらず、良いものではなかった。

「こちらは、物件の審査を担当している宮本です。彼から内容を説明させますので」
そう言って、森さんは腕を組んで押し黙ってしまった。
宮本、と呼ばれた彼は、緊張の面持ちで審査内容を説明し始める。
大した指摘事項も無く、説明はそれほど時間がかからなかった。
設備や電気に関する指摘事項を、念の為再確認しながら、場はつつがなく収まる。

「修正次第、本申請の手続きをお願いします」
宮本さんは、申請に必要な書類を説明する文書を手渡してくれる。
「その際は、事前にご連絡ください」
「宮本様宛で宜しいですか」
「ええ、結構です」
説明が終わっても、彼は何処か萎縮した感じだった。
公務員って楽なもんかと思ってたけど、案外激務なんだろうか、と少し同情してしまう。

役所を出て、一息つく。
重苦しい雰囲気が、一気に晴れた感じがする。
審査の結果が思ったほど悪くなかったことも、影響しているんだろう。
「小笠原さん」
帰ろう、そう思った時、不意に声をかけられた。

□ 07_信頼 □   
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テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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