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感謝★(6/8)

夏の夜を過ごす民宿は、海からすぐそこの場所にあった。
木造の建物は、歩く度に床板が軋む音が響くほど、年季が入っている。
「どうやって、こんなとこ見つけてくるんだ?」
「お客さんが勧めてくれたんだよ」
秋田で保険の外交員をしている加賀谷は
俺が帰省する度、客から勧められたポイントを盛り込んだ旅行日程を考えてくれる。
今日、日本海沿いを走ってきた五能線に乗ろうと提案してきたのも、彼だ。
「如何にも田舎って感じで、良いだろ?」
夕日が沈み行く海を背に、彼はそう笑う。

夕食までの短い時間、俺たちは海岸で海を眺めていた。
耳から入る波音が、水平線の向こうに連れ去ってくれるような感覚を引き起こす。
悪い気分じゃない。
少しの現実逃避くらい、許されるはずだ。

***********************************

男の手が、ベルトにかかる。
次に来るであろう行為を想像して、思わず息を飲んだ。
自分のモノが、彼の手に包まれる。
ゆっくりと上下する手の動きに、鼓動は引っ張られるように早くなっていく。
彷徨う視界の中に彼の顔が入って来た。
「キス、して」
半開きの唇が能動的な行為を誘う。
顎を突き出すように、彼の唇に自分の唇を重ねた。
より一層の快楽を求め、互いの舌を絡ませ合う。

卑猥な水音と、喉の奥から漏れる呻き声と、荒い息遣い。
商売道具でもある車の中には、非現実的な音が充満していた。
徐々に動きが激しくなる彼の頭を見下ろす。
耳につけたピアスが朝日を反射して、点滅を繰り返している。
見上げる視線を受け止める度に、誤った快感に囚われていくようだった。

絶頂が近づくと、つい首を振ってしまう。
昔からの癖だ。
達することで、あの時の絶望感を思い出してしまうからだろうか。
その仕草を、彼は違うように受け留めたらしい。
動きを止め、尋ねる。
「まだ・・・?」
「いや、もう・・・たの、む」
もどかしさで、声が震えた。
「そのまま出して、良いから」
そう言った彼は、先端にそっとキスをして、再びモノを口に含む。
すぐにやってきた快楽の終点が、頭の中を白くさせた。


通勤客でごった返す南浦和駅に彼を送り届けて、自宅へ戻る途中。
不意に笑いが込み上げてきた。
俺の欲求を満たしたのは、母の身体と、若い男の口。
それでも、心は空虚なまま。
満たしてくれる存在は、見当たらない。
異常すぎる。
自虐的な思考が突き抜けて、笑いが止まらない。
何なんだ、これ。
俺は、一生、このままか。

それから、あの若い男に会うことは無かった。
たまたまなのか、足を洗ったのか、何処か遠くへ行ったのか。
「何で、オレ、こんな風になったんだろう」
寂しげに前を見る助手席の男の顔が浮かぶ。
「男しか、好きになれないなんて」
俺からすれば、彼はまだ、まともだ。
例え同性でも、誰かを好きになることが出来る。


冬の初めの、ある朝。
仕事終わりに向かった渋谷のマンションは、もぬけの殻だった。
「ガサが入るかも知れない」
元締めの男がそう話していたのは、2、3日前だった気がする。
実際に摘発されたのか、その前にトンズラをかましたのか、俺が知る術はない。
「タダ働きかよ」
独り言が、虚しく空き部屋に響く。
手元に残る、仕事用の携帯電話。
中には、数多くの番号が登録されている。
コンクリート剥き出しの柱に打ち付けると、あっけ無い程簡単に、携帯は折れた。

突然食い扶持を失っても、気分は何処となく落ち着いていた。
これからどうするかと言う不安と、やっとこの仕事から解放されたという喜びが、平衡したのかも知れない。
幸い、車のローンの支払いは終わったばかり。
偶然目にした自動車学校の看板を見上げながら、自分の行く末を、探した。

□ 50_感謝★ □
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ジェントル・ヴォイス

恭一は『道標』に登場するタクシーのドライバーですね!
重い題材の中にサラリと入るサプライズ。
まべちがわさんは、遊び心のわかる大人な方ですね!?
ジェントル・ヴォイスの素敵な方と想像します(笑)。

行く末。

実は、先にアイディアを思いついていたのは、こちらの話でした。

ホテヘルのドライバーの行く末は何処なのか→タクシーの運転手くらいかな
夜間工事から帰る時にはタクシー必須だな→被るのなら、いっそのこと同一人物にしよう

と言うことで、このような繋がりになりました。
話に直接的な関係が無いので、特にアナウンスをすることはありませんでしたが
相互でちょっとずつ話を合わせたり、と言う作業はなかなか面白かったです。
Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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