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感謝★(5/8)

窓の外を流れるのは、リンゴの木。
青い実をたわわにつけた背の低い林が、一面広がっている。
「そう言えば、リンゴ」
「ん?今年も行くぞ?」
「そうじゃなくて。食いきれねぇって、あんな量」
お歳暮代わりだと言って、年末に加賀谷が送ってくる大量のリンゴ。
一人暮らしの俺に、到底食べ切れる量では無かった。
毎年同じことを言っているような気がするのに、やっぱり毎年送られてくる。

「しょうがねぇよ。オレんとこには、3箱来るんだぞ?」
彼の祖父は、津軽でリンゴ農家をやっている。
そこで出荷できないハネ物が孫の所に送られてくるということも、毎度聞く話だ。
「客に配ったりしたらどうだ?」
「もう、やってる」
「・・・断ったりしたら、爺様に悪いだろ」
小さな頃から親しんできたであろう光景に、愛おしげに視線を流す旧友。
「あの人が、オレの唯一の、味方なんだよ」

***********************************

彼の唇は、震えていた。
突然のことに声も出ない俺に、男は耳元で囁く。
「こっち、向いてよ」
振り向けば、何をされるかという想像をするのは簡単だった。
掴まれたままの手にある煙草から、細い煙が立ち上る。
「・・・灰、落ちる、から」
誤魔化す様にそう言いながら、煙草を灰皿に入れる。
何かを諦めるような表情をした彼は、後部座席のシートに身を任せた。
「良いよな。あんたにとっちゃ、他人事だもんな」
そう言いながら、彼はポケットから札を取出し、助手席に放り投げる。
「オッサンとヤった金で飯食うなんて・・・最低だ」

エンジンをかけることも、新しい煙草に火を点けることもできず
薄い色が付いてきた空を泳ぐカモメを眺めていた。
「それ、持ってって良いよ。今日の、お礼」
静寂を破る呟きに、どう言葉を返していいのか分からないまま
助手席のシートの下にまで散らばった万札を、一枚一枚拾い上げ、彼に差し出した。
「金は、金だろ。これは、君のだ」
「まともな男には、分かんねぇんだろうな」
女と恋愛して、セックスして、結婚して、子供作って・・・それが彼の言うまともな男なら
俺はもう、端からまともじゃない。
向けられた手を、彼はそのまま自分の方へ引っ張る。
俺の身体は後部座席側に引き摺られるように傾き、再び、彼の顔が眼前に迫った。
「じゃあ、その金で、オレを買ってよ」
躊躇うことなく、唇が重ねられる。
懐かしい柔らかな感触が、遠い過去の背徳感を呼び起こさせた。


男に欲情したことは、一度も無い。
女に欲情した記憶は、一人の身体だけ。
それなのに、抗う気持ちは、自分でも驚くほど僅かだった。
歪んだ性欲を更に歪めることで、何処かに落ち着けるのかも知れない、そう、思っていた。

助手席に場所を移した彼の手が、俺の頬を包む。
傾げた顔が近づいてきて、再び唇が触れ合った。
「男は、初めて?」
薄い視界の中に浮かぶ男に、微かな頷きで答えを返す。
「・・・そ」
少しだけ口角を上げた彼は、その唇を開き、舌で俺の唇を撫でる。
湿った感触に誘われるよう、口を開き、彼を受け入れる。
舌が触れ合う、ザラついた感覚。
口の隙間から漏れる吐息が、徐々に身体の昂りを煽っていく。
目を閉じることは出来なかった。
若い男と向き合っているという事実を認識出来ないと、不徳な記憶が顔を出す。
それが、ただひたすらに、怖かったからだ。

窓の外は、もう大分明るい。
中途半端に倒されたシートに横たわる俺の身体。
パーカーの下のTシャツの中に熱を帯びた手が入ってきて、静かに身体を弄る。
唇が首筋を這い、やがて肩口へと降りていく。
うなじを甘噛みする彼の明るい髪が視界の端にチラつく度、迷いが薄くなる。
シートに投げ出していた手を、彼の身体に添えた。
顔を上げた彼は、何となく満足そうな表情をしながら、その頭を胸元に沈み込ませる。

彼の舌に初めて気が付かされる、直接的な刺激とは違う類の快感。
唾液を纏った舌が、乳首をじっくりと愛撫する。
こんな所、感じるもんなのか。
深い呼吸が、止まらない。
指で軽く弾かれ、つい声が出る。
蠢く頭を抱えるように手を回すと、唇が突起を引っ張り上げる。
諦めていた性的な悦び。
屈折した快楽が、身体を包んでいく。

□ 50_感謝★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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