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感謝★(4/8)

ダシが染みたご飯の上に乗る大量のアワビ。
駅弁なんてそれほど興味は無かったけれど、これはなかなかいける。
「うん、美味い」
「地元のくせに、食ったこと無いの?」
「この電車に乗るのも、初めてだからな」
俺の言葉に苦笑する旧友は、僅かに陽が傾きかけた広い車窓に目を移す。
「別に、無理して帰って来なくて、良いんだぞ?」

加賀谷は、高校以来付き合いのある友達だ。
上京してからしばらくは連絡も取っていなかったけれど
妹の結婚式で新郎の会社の先輩として列席していた偶然が、縁を呼び戻してくれた。
荒んだ生活の中で、小さなスピーカーから聞こえて来る懐かしい声。
それが、どれだけ俺を救ってくれたか、分からない。

彼は、俺を気遣って、その言葉を口にしたのだろう。
分かっていても、辛かった。
「そんなこと、言うなよ」
再び俺に顔を向けた彼の目が、少し細くなる。
「お前に会う為に、帰って来てるんだから」

***********************************

今から思えば、母は寂しかったのかも知れない。
相変わらず家を空けがちな父。
中学生になった俺と妹は、自室を持ち、あまり家族との時間を取らなくなる年頃。
家族全員が揃って食事をすることも、滅多に無くなっていった。

高校受験を控えた俺は、夜中まで勉強をする日が続いていた。
希望していた学校には、受かるか受からないかの瀬戸際。
そんな俺を気遣ってくれる母は、毎晩夜食を作っては差し入れてくれた。

あの時と同じ、雪の夜。
積もっていく程に、静けさが覆い被さってくる。
眠気を抑えつける様に音楽を聴きながら机に向かう背中に、気配を感じる。
振り向くと、戸口に母が立っていた。
「調子はどう?」
微笑む彼女は、俺の顔の綻びを合図にしたように、部屋に入って来た。

温かいお茶とおにぎりが、長い夜への気力を満たしてくれるようだった。
ベッドに座り、その様子を伺っていた母が、ふと口を開いた。
「恭一、彼女はいるの?」
「別に・・・そんなの、いないよ」
奥手、という訳では無かったと思う。
女の子に興味が無かった訳でも無い。
ただ、小さな頃の体験を未だに引き摺っていることが関係しているかどうかは、分からなかった。


その微笑みを怖いと思ったのは、初めてだった。
不意に立ち上がった母は、椅子に座った俺の手を取る。
「どうしたの?」
「じゃあ、まだセックスもしたこと無いのね」
親から発せられる、あまりに直接的な言葉。
自分でも口にすることの無いその一言に、動揺で声が出なかった。

女の身体を、淫らな行為を想像することは、男の本能。
それでも、近づいてくるその身体に欲情することが、どんなに忌まわしいことなのか。
「何・・・やめろって」
振り払う手が震えた。
初めての曖昧な快楽の味が、拒絶を阻む。
親子なのに。
混乱する頭は、背徳感すら奪い去る。
「かあ、さん・・・こんな」
「大丈夫、怖くないわ。恭一」
母の胸に抱えられた顔に、その感触が絡みつく。

記憶は断片的だ。
奥底に刻み付けられているのだろうが、きっと、全てを思い出したら、俺は狂う。
ただ、射精した時の絶望感だけは、はっきりと覚えていて
それ以来、俺は女の身体に欲情できなくなった。
未だに、母以外の女とセックスをしたことは、無い。


結局、俺は希望していた高校には進まず、青森にある全寮制の高校へ入った。
母と同じ屋根の下にいることが、耐えられなかった。
年末に帰省しても、日帰りで寮へ戻る。
上京してからは、地元を思い出すことすらしなかった。
忘れたい過去。
忘れられない、悪夢。
逃げる以外に道は無かった。

母が入院したと連絡を受けたのは、俺が成人するかしないか、そのくらいだったと思う。
精神を病んでしまった彼女は、記憶の中にある姿とは別人だった。
何が原因なのか分からない、父はそう言っていたが、母の虚ろな目は、明らかにそれを物語っていた。
全ての原因は、俺にある、と。

□ 50_感謝★ □
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早々と親離れ子離れ

息子の小学校入学式を終えて、初登校の日。帰宅した息子に言われました。
「今はお母さんが一番好きだけど、僕に好きな人ができたら二番に下がるから。」
マザコンどころか、早々と子離れさせられました(笑)。

息子も娘も中学生になったら夫に似ないで、私が高校生の時に、バンドでギターを弾いているのを見て一目惚れしたハーフっぽいA君にソックリになってビックリです。
種明かしすると、そのA君は私に似ていたんですね(笑)。
昨日、娘に、「お母さんって(ハリウッドスターで、髭の無い時の)ジョニー/・/ディップにちょっと似てるわ~。」と言われました!…男に似てるって…(汗)。

でも、息子からキツイ一言をくらっていたおかげで、危ない『よろめき』が無くて、助かったわ(笑)。

気楽さ故の躊躇い。

私には子供がおりません。
それ故に、あまりしがらみ無く話を作ることが出来るのだと思います。
ただ、それ故に、小さな躊躇いで展開が進まなくなることもあり
妄想だけでの限界も感じさせられます。

ところで、今の今まで、誰かに似ていると言われたことがありません。
特徴の無い顔なんでしょうかね…。
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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