感謝★(3/8)
本来降りるべき駅に近づいてくる。
「本当に、良いのか?」
「良いよ。俺が顔出したところで、誰も喜ばないから」
帰省、と言っても、実家に顔を出すことはしない。
高校卒業と共に上京し、離れた家族。
帰ったのは、母が入院した時と、妹が結婚した時だけ。
今更合わせる顔も無い、そう思うほど、足は遠のいていく一方だ。
「ここで弁当貰うんだろ?」
「ああ、そうだった」
この路線では、各駅で様々な駅弁を販売している。
それぞれに地元の食材が使われており、懐かしい味のオンパレード。
電車が止まると、隣に座る旧友が席を立つ。
「・・・ま、お前がそう言うなら、無理は言わないけど」
そう言いながら俺の肩を叩き、彼はホームへ下りていった。
家族が嫌いな訳じゃない。
ただ、母の微笑みが怖い、それだけだ。
***********************************
あれは、小学5年生の冬。
吹雪が窓を揺らす音で、なかなか寝付けなかった夜だった。
母を真ん中に、俺と妹がその両隣に横になる。
父が出張で家を空ける時は、決まってそんな風に布団を敷いていた。
母に背を向けるよう寝返りを打ったタイミングで、布団の中に何かが入ってくる気配を感じた。
その手が、後ろから抱き付くように伸びてくる。
「おかあ、さん・・・?」
「眠れないの?恭一」
パジャマの上から身体を優しく撫でながら、彼女はその顔を俺の頭に擦り付ける。
「な、に?」
言い知れない雰囲気が、恐怖を生んだ。
あんなに聞き慣れた声が、いつもと違って聞こえる。
背中に纏わりつく、温かく、柔らかな感触。
大好きだけれど、でも、恥ずかしさをもたらして来る心地良さ。
腹を撫でていた手が、下半身へ下りていく。
何処に向かっているのか気がついた頭が、身体よりも早く口を反応させる。
「やめてよっ」
「あんまり大きな声出しちゃ、ダメ。麻衣が起きるでしょ」
落ち着いた口調で言う母の腕が、俺の身体を押さえつける。
「そんなとこ・・・やだ」
「大丈夫よ。この間、ちゃんと、大人になったじゃない」
1ヶ月くらい前。
朝起きると、下着が濡れ、見たことも無い白い液体が付いていた。
恥ずかしくて何も言えなかった俺を、母は優しい眼差しで風呂へ連れて行く。
下着を脱がされ、自身の身体の変化の証が、お湯で洗い流される。
「心配しなくて良いのよ。これは、恭一が大きくなった証拠なの」
柔らかく撫でられている内に、経験の無い感覚で身体が震えた。
怖くなって、母から身体を離す。
それでも彼女は、変らない視線を俺に向けたまま、何処か満足そうな表情をしていた。
片腕で強く抱き締められたまま、母の手は変化を遂げた部分を弄り始める。
あの時の感覚が、心を不安で覆っていく。
首を振っても、動きは止まない。
身体を縮ませて堪えようと脚を折り曲げようとすると、脚が絡み、阻まれる。
腰の周りが緊張で動かなくなる頃、母の声が耳元で響いた。
「気持ち良い?」
分からなかった。
こんな気分が、気持ち良い?
声も出ない中、身体を捩って質問に答える。
「その内、何回もしたくなるくらい、好きになるわよ」
手の動きが俄かに早くなる。
痛さでもない、痒さでもない、経験の無い刺激が身体を襲う。
「ん、う・・・っ」
妹を起こさないように、極力我慢した声が布団の中に篭る。
小さなモノから流れ出したものが、気持ちの悪い感触を下半身に残した。
自慰行為をするようになったのは、それからどれくらい経ってからだろう。
正体不明の刺激を、快感として受け止められるようになるまで、時間はかからなかった。
その度、母から受けた行為を思い出す。
この快楽の蓋を開けたのは、自分の肉親。
例えようの無い恥ずかしさと、誰にも言えない秘密を抱えてしまった恐ろしさ。
けれど、彼女の残酷な仕打ちは、それだけでは終わらなかった。
それは、俺と、彼女の人生を大きく狂わせたのだろうと、思う。
□ 50_感謝★ □
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「本当に、良いのか?」
「良いよ。俺が顔出したところで、誰も喜ばないから」
帰省、と言っても、実家に顔を出すことはしない。
高校卒業と共に上京し、離れた家族。
帰ったのは、母が入院した時と、妹が結婚した時だけ。
今更合わせる顔も無い、そう思うほど、足は遠のいていく一方だ。
「ここで弁当貰うんだろ?」
「ああ、そうだった」
この路線では、各駅で様々な駅弁を販売している。
それぞれに地元の食材が使われており、懐かしい味のオンパレード。
電車が止まると、隣に座る旧友が席を立つ。
「・・・ま、お前がそう言うなら、無理は言わないけど」
そう言いながら俺の肩を叩き、彼はホームへ下りていった。
家族が嫌いな訳じゃない。
ただ、母の微笑みが怖い、それだけだ。
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あれは、小学5年生の冬。
吹雪が窓を揺らす音で、なかなか寝付けなかった夜だった。
母を真ん中に、俺と妹がその両隣に横になる。
父が出張で家を空ける時は、決まってそんな風に布団を敷いていた。
母に背を向けるよう寝返りを打ったタイミングで、布団の中に何かが入ってくる気配を感じた。
その手が、後ろから抱き付くように伸びてくる。
「おかあ、さん・・・?」
「眠れないの?恭一」
パジャマの上から身体を優しく撫でながら、彼女はその顔を俺の頭に擦り付ける。
「な、に?」
言い知れない雰囲気が、恐怖を生んだ。
あんなに聞き慣れた声が、いつもと違って聞こえる。
背中に纏わりつく、温かく、柔らかな感触。
大好きだけれど、でも、恥ずかしさをもたらして来る心地良さ。
腹を撫でていた手が、下半身へ下りていく。
何処に向かっているのか気がついた頭が、身体よりも早く口を反応させる。
「やめてよっ」
「あんまり大きな声出しちゃ、ダメ。麻衣が起きるでしょ」
落ち着いた口調で言う母の腕が、俺の身体を押さえつける。
「そんなとこ・・・やだ」
「大丈夫よ。この間、ちゃんと、大人になったじゃない」
1ヶ月くらい前。
朝起きると、下着が濡れ、見たことも無い白い液体が付いていた。
恥ずかしくて何も言えなかった俺を、母は優しい眼差しで風呂へ連れて行く。
下着を脱がされ、自身の身体の変化の証が、お湯で洗い流される。
「心配しなくて良いのよ。これは、恭一が大きくなった証拠なの」
柔らかく撫でられている内に、経験の無い感覚で身体が震えた。
怖くなって、母から身体を離す。
それでも彼女は、変らない視線を俺に向けたまま、何処か満足そうな表情をしていた。
片腕で強く抱き締められたまま、母の手は変化を遂げた部分を弄り始める。
あの時の感覚が、心を不安で覆っていく。
首を振っても、動きは止まない。
身体を縮ませて堪えようと脚を折り曲げようとすると、脚が絡み、阻まれる。
腰の周りが緊張で動かなくなる頃、母の声が耳元で響いた。
「気持ち良い?」
分からなかった。
こんな気分が、気持ち良い?
声も出ない中、身体を捩って質問に答える。
「その内、何回もしたくなるくらい、好きになるわよ」
手の動きが俄かに早くなる。
痛さでもない、痒さでもない、経験の無い刺激が身体を襲う。
「ん、う・・・っ」
妹を起こさないように、極力我慢した声が布団の中に篭る。
小さなモノから流れ出したものが、気持ちの悪い感触を下半身に残した。
自慰行為をするようになったのは、それからどれくらい経ってからだろう。
正体不明の刺激を、快感として受け止められるようになるまで、時間はかからなかった。
その度、母から受けた行為を思い出す。
この快楽の蓋を開けたのは、自分の肉親。
例えようの無い恥ずかしさと、誰にも言えない秘密を抱えてしまった恐ろしさ。
けれど、彼女の残酷な仕打ちは、それだけでは終わらなかった。
それは、俺と、彼女の人生を大きく狂わせたのだろうと、思う。
□ 50_感謝★ □
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