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邂逅(3/5)

何で、そんな、もの欲しそうな目で俺を見るのかね。
そもそも、俺はあんたから何も貰ってないんだけど。
「ほら、茂、あれ美味しそうじゃない?」
「ああ、そうね」
「何よ、日頃の感謝の気持ちとか、無い訳?」
「それとこれとは別だろ?欲しいなら、先にくれよ」
荷物持ちとして姉の買い物に付き合わされた休日。
職場の女の子たちへのお返しを買って来いと仰せ付かっていたこともあり
青と白の装飾で彩られたデパートの地下を巡っていた。

当然の如く、俺も彼からの入れ知恵済み。
教えて貰っていた店を認め、その前でカラフルにディスプレイされたマカロンを眺める。
「ここ、美味しいの?」
「って、職場の同僚に聞いたんだよ」
「へぇ・・・にしても、たっか・・・」
確かに、これが1個400円。
頑張れば一口で無くなる大きさだ。
予算は、彼女たちが配ったチョコレートと同額の1万円。
「24個セットで、ギリってとこだな」
「ね、6個セットで良いから、買ってよ」
「まだ言うか」
「お母さんも喜ぶって」
「しょうがねぇな・・・」

俺たちのやり取りが視界に入ったのか、店員のお姉ちゃんが近寄ってくる。
きっと、彼女は何かを勘違いしたのだろう。
「どちらのセットが宜しいですか?」
そんな言葉を、姉に向かって言った。
「えっと、24個入りと、6個入りを1つずつ」
俺との距離を少し詰めながら、もうすぐアラフォーに差し掛かる姉はにこやかに笑う。
かしこまりました、と営業スマイルを振りまきながら背中を向けようとする店員に、俺はもう一声かけた。
「あ、あと、この10個入りも、1つ下さい」

どうして不機嫌になるのか、女の気持ちはよく分からない。
「何なの、あんた、彼女いる訳?」
「だから、そうじゃないって言ってるだろ」
「彼女でもない女に、こんな高いお返し?」
「ほんの気持ちだって」
「正直に言いなさい?怒らないから」
なだめる程に激昂していく姉。
何か、凄く、面倒くさい。
「・・・実は、片思いの子がいるんだ。その子に、渡すんだよ」
急激に表情を和らげる彼女。
こんな適当なでまかせで心証が一変するんだから、やっぱり、女の気持ちは分からない。


俺から包みを受け取った花岡さんは、明るい笑顔でお礼を言ってくれた。
そもそも、マカロンなんて殆ど食べたことが無いのだから、俺に分かるはずも無いが
このブランド、マカロン界では相当有名なのだそうだ。
もちろん、高価さもよく知られているようで、きっと彼女の表情にはその要素も含まれていたのだろう。
机の周りに集まり、楽しげな声を上げる彼女たちを見て、こう言うのも悪くないかも、と思ったりする。

「あれ、例のお店のやつですか?」
女性陣の盛り上がりを横目で見ながら、浜中君が声をかけてくる。
「そう。かなり好評みたいで、良かったよ」
「女性は味と値段に敏感ですからね」
高くて美味しい物を少しずつ、そんな巧みな戦略に、まんまと嵌っている訳か。
「あ、そうだ・・・」
「はい?」
「いや・・・後でで良いや」
流石に、ここで渡すのは気がひける。
カバンの中の、もう一つの包みの存在を気にかけながら、業務に戻った。


「Bセットと、コーヒーで」
「僕はカツカレーと・・・」
「あ、パフェは無しね」
「え?」
珍しいね、と笑いながら去っていくマスターを横目に見ながら、彼は幾分怪訝な顔をする。
「一応、前のお返しをさ、持ってきたから」
火を点けた煙草を灰皿に置き、役目をとっくに終えてしまった保冷バッグをカバンから取り出す。
「ま、この時期だから大丈夫だとは思うんだけど・・・」
「そんな・・・わざわざ、ありがとうございます」
包みを受け取り、中身を認めた彼の表情が晴れる。
「これ、食べました?」
「自宅用に買ったんだけど、母親と姉ちゃんに全部食われたよ」
「安斎さんも、大概、弱いですね」


喫茶店の外に吹く風は、少し暖かさを帯びているような気もする。
駅のロータリーに設けられたベンチの前で、浜中君は一つの提案をしてきた。
「これ、開けちゃっても良いですか?」
「え?ここで?」
「ええ、一つ、食べてみません?」
「でも、俺があげたやつだし」
「そうですけど、なかなか食べる機会も無いと思うんで」
街灯に照らされた、少し色彩を失ったマカロンのケースが差し出される。
「全部、味違うのかな?」
「多分、そうですね」
とりあえず、見た目から味が容易に想像できそうな黄緑色のものを手に取り、口に運ぶ。
歯ざわりは、まるで厚みのある柔らかいモナカのような、そんな感じだった。
「ん?」
これはきっと抹茶だろうと思っていた俺の頭は、その味で一転混乱する。
「どうしました?」
「いや、これ、何の味?」
差し出した食べかけのマカロンに、彼はほんの少しだけ口をつける。
「ああ、これはピスタチオですよ」
「ピスタチオ・・・」
「あんまり、馴染みが無いですもんね」
暗がりで笑う彼の顔を見ながら、疎遠だった行事との距離が縮まったような、そんな気がした。

□ 47_邂逅 □
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テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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