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治癒★(5/6)

「とりあえず、クリスマスは家で過ごせそうですよ」
この歳でクリスマスって言われてもね。
そんな気持ちは全く伝わらなかったらしい目の前の医者は、何やら楽しげに今後のスケジュールを話す。
「で、新年からリハビリに来て貰って、とりあえず仕事復帰は3月ってところですか」
「そうですか。思ったよりも、早いんですね」
「でも、寒いと怪我した場所が痛む場合もあるんで、乗り物は禁止で」
「えっ」
「ま、ライダー復帰は新年度までお預けですよ」
カルテの更新ボタンをクリックしながら、彼は俺の方へ振り向き、笑う。
どの道、彼が書く診断書が無ければ、俺は職場復帰出来ない。
「・・・分かりました」

入院している外科病棟には、子供も多い。
その為か、やたらとクリスマスの装飾が目立つようになって来た。
クリスマス会のお知らせと書かれたポスターを眺めていると、廊下の向こうから見知った顔がやって来る。
車椅子に乗った彼と、それを押す母親が、少しはにかみながら俺に頭を下げた。
「やっとベッドから解放されたんだ?」
「足の骨が何とかくっついたから、今日から車椅子で動いて良いって」
「乗り心地は、どう?」
「良くも無いけど・・・悪くも無い感じ」
「すぐに慣れるさ」
「だと、良いけど」
複雑な笑みを浮かべながら、母に押されて彼はその場を去っていく。


フラストレーションを抱えたままの彼氏は、昨日から2泊3日の出張に出ている。
次に顔を合わせるのは、もう退院の日だ。
概ね隔日で来てくれていた男の、顔と声と感触を思い返しながら、寂しさを紛らわせる。

多分、彼も同じなんだろう。
『今、東京駅。これから行って来る』
『新大阪に着いた。結構寒い』
『ホテルのベッドがダブルだ。すげー、広い』
それほど頻繁に来る方ではなかったメールが、引っ切り無しにやってくる。
一緒に住み始めて、もう3年近く経つ。
同郷と言うこともあり、帰省も同じタイミング。
これだけ離れて夜を過ごしたことは、無かったかも知れない。

やっぱり、俺は、彼無しじゃ生きていけない。
そんなことをふと思ったりして、一人、恥ずかしくなる。


「いってぇ・・・」
カーテンで囲まれた隣のベッドから、小さな呻き声が聞こえて来る。
苦しげな声がしばらく続き、思わず声をかけた。
「どうした?大丈夫か?」
「ちょっと・・・手伝って、欲しいんだけど」

上半身裸の状態でベッドに座る彼は、何処か疲れたような声で呟く。
「肩から後ろが、全然無理」
「そりゃ、そうだろうな」
自らの身体を拭こうとしたものの、あまりの不自由さに四苦八苦しているらしい。
「背中、拭いて貰えない?」
そう言って、手に持った濡れタオルを俺に差し出してくる。
俺だって、足、怪我してるんだけど。
とは言え、母親や看護士に頼むのは、恥ずかしさもあるんだろう。
「ああ、良いよ」

如何にも使い込まれている若い身体の筋肉は、見事だった。
仕事をしている内に勝手に付いた俺のとは、やっぱり何かが違う。
彼の後ろに回りこむようにベッドに座り、その背中を拭いていく。
「早く、風呂、入りてぇ」
「もうちょっとの辛抱だろ」
久方ぶりの優しい刺激に、彼の身体がゆっくりと揺らぐ。
俯いて目を閉じる彼の横顔は、当然ながら、まだ幼さが残っていて
この歳で人生の岐路に立たされた心境を思うと、少し、やるせない思いになった。

「こんなもんで良いか?」
「ありがと。すげぇ気持ち良かった」
ベッドから降りようとする俺に、彼は振り向いて視線を向ける。
「あ、とさ・・・一つ聞きたいんだけど」
「何?」
「どうやって、抜いてんの?」
「え?」
居た堪れないように視線を外す少年の下半身に、思わず目が行った。
身体の自由も利かないまま、何日もベッドに縛り付けられた状態。
溜まるのも当然だろう。

「俺は・・・3、4日で車椅子乗れたからなぁ」
「で?」
「で、って・・・いや、車椅子でトイレ行って・・・」
「トイレって、あそこ、ドア無いじゃん」
この病院に設置されている車椅子用のトイレは、全てカーテンで仕切られている。
介助する人が動きやすいようにとの配慮なのだろう。
確かに俺も戸惑ったけれど、性欲には勝てなかった。
「しかも、オレ、まだ一人で車椅子乗れないし。右手も、指折れてるし」
「左手があるだろ?」
恨めしそうな子供の目が、俺を見た。
「何だよ?」
「・・・抜いてくんない?」
「はぁ?」

□ 37_明鏡 □
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□ 46_治癒★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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