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無上(5/6)

お姫様は、最愛の王子様と結ばれ、末永く幸せに暮らしましたとさ。
それが全ての恋の終着地点だとするならば
俺が抱いているこの想いも、不意に思い返される淡い感触も
求めれば求めるほど、フィナーレからは遠のいていくのだろう。
結ばれないからこそ、燃え上がる。
何て、破滅的な感情だ。


今にも泣き出しそうな空にそびえる高層ビル。
背後に走る首都高速。
幾分恥ずかしさを感じながら、人で賑わう六本木の交差点で目的地を探す。
「・・・で、メトロの入口は何処だ?」
「えっと・・・あれがヒルズですよね。だから・・・」
「お前、何年都民やってるんだよ?」
そうぼやく俺の隣で、片桐が地図の映った携帯をくるくると回す。
恐らく、こいつは地図を見るのが苦手なんだろう。
「25年ですけど・・・でも、生まれも育ちも現住所も江東区なんで」
「そんなの言い訳になんねぇよ」
「なりますよ。買い物は銀座で十分ですから」
「砂町銀座の間違いだろ?」
不満げな視線が刺さると同時に、俺の携帯に着信が入る。
後輩から少し離れ、電話に出ると、その声は何処か愉快そうなものだった。
「道に迷っちゃったの?」


打合せがあったのは、広尾と六本木の丁度中間辺り。
来る時は広尾から向かったが、帰りは六本木にしてみようと思い立ったまでは良かった。
「素直に、来た時と同じ道にすれば良かったのに」
「江藤さんが、折角だから六本木から帰ろうって言うから」
「言い出したのはお前だろ?」
不毛な言い争いを、美沙はテーブルの向こうから楽しそうに眺めている。
買い物に訪れていたと言う彼女は、道の片隅で右往左往している俺たちを偶然見かけたと言う。
夕食時ということもあり、誘われるがまま、一軒の店に入ることとなった。

「邪魔になるのも嫌なんで、オレは早々に帰りますよ?」
グラスに注がれた白ワインを口に運びながら、彼は無粋な一言を放つ。
「別に邪魔じゃないわよ?ね?」
後輩に視線を送りながら、彼女は俺に同意を求める。
居心地の悪い空気に包まれているのを感じながら、俺は何となく相槌を打った。

後輩の注目が、彼女の左手にあることは間違いなかった。
どんな関係なのか、互いに自己紹介をした後にも、彼はそれを聞くことをしなかった。
俺の口から話される事を待っているのか、小さな葛藤が、彼女の一言で吹き飛ばされる。
「駿、この後って何か用事ある?」
「いや・・・特に、無いよ」
「なら、ちょっと付き合って欲しいところがあるんだけど」
居た堪れなさが増していく。
彼女は、俺の立場を、気持ちを、分かっていながら、試しているんだろうか。

「ご主人は、帰り、遅いんですか」
突然割って入った、明らかに面白く無さそうなトーンの質問が、彼女の表情を変化させる。
それは、怒りや驚きではなく、挑戦的な女の顔。
「今日は出張で、帰って来ないの」
「江藤さんは、その穴埋め?」
「随分、失礼な言い方するのね」
「単純な疑問ですよ」
彼女の手が、片桐の襟を掴む。
急激に縮まる二人の距離。
程なく重なる唇。
その光景に唖然とする俺を尻目に、彼女は言った。
「じゃあ、今夜は君が穴埋めしてくれる?」
僅かな距離で彼女の顔を凝視する後輩は、一瞬眉間に皺を寄せ、答える。
「オレ、女性には興味ないんで」
「童貞じゃあるまいし、その歳でその発言は、恥ずかしいわよ?」
微かな溜め息が、彼女の睫毛を揺らす。
「・・・女じゃ勃たないって、言ってるんですよ」

離れた二人の間には、得も言われない空気が流れている。
怪訝な表情をしたまま、彼女は声を失っていた。
「その顔」
後輩が、如何にも不機嫌な口調で呟く。
「性には奔放なくせに、同性愛なんて信じられないって顔するんですね」
彼の手が、彼女の手を払い除ける。
寂しげな笑みを俺に向け、彼は席を立った。
「どうぞ、楽しい夜を」


一人分のグラスが残されたテーブルには、しばらく無言の時が流れる。
「初めて会った。同性愛者って」
寒い訳でも無いのに、二の腕辺りを擦りながら彼女は言った。
「知ってたの?」
「・・・いや、知らなかった」
「凄い、普通に見えるのに・・・何だろ、この感覚」
表情を強張らせたまま、嫌悪感を漂わせた目が俺を見る。
「おかしいよ。男が男を好きになって・・・なんて」
その言葉に、俺は何の反応も出来なかった。
彼女の視線に、後輩と、大切な思い出を否定されているようで、堪らなくなってくる。

携帯のバイブ音が低く響く。
ディスプレイには片桐の名前。
しばらく着信した後、留守電に切り替わる。
短いメッセージを残したらしい間を置いて、電話は切れた。
「誰?」
「・・・ごめん、会社からだ」
「こんな時間に?」
「ちょっと急ぎの案件があって」
「戻るの?」
「また、次の機会に」
テーブルの脇に置かれた伝票を手に、席を立つ。
寂しげな表情を浮かべる彼女の頬にそっとキスをして、その場を後にした。

□ 43_無上 □
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テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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