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支配★(1/5)

立ち並ぶビルの向こうから、潮風が吹いてくる。
そんなアンバランスな環境が、駅を降りてすぐに感じられる街。
毎日毎日、この歩道橋を通って会社へ向かっているが
憂鬱な時、その風に背中を押されることも多い。

会社に向かう途中で歩道橋を降りると、小さな公園がある。
どこもかしこも禁煙になってしまっている昨今。
灰皿が据え付けてあるこの場所は、まさに一息つくのにはもってこいの場所だ。
会社からは少し歩くが、会社のビルの喫煙室は非常に狭く、居心地が悪いので
気分転換にここまで来ることもある。
公園には、何匹か野良猫が住み着いているらしく
隅に建っている石碑の台座の上で、のんびりと寝ている光景をよく目にする。

「係長、ここのヘッドの位置なんですけど」
部下の望月が、図面を手に質問にやって来る。
転職組である彼は、現在研修中。
前職は住宅メーカーの営業だったらしい。
ほぼ畑違いとも言える防災機器メーカーへの転職だが、なかなか勉強熱心で、飲み込みも早い。
「この建物は、耐火?」
「そうです。だから、包含円は2.3でいいんですよね?」
「大丈夫だね。ああ、ここって、天井下がってるんだっけ?」
「あ、そうか。それだと・・・」

うちの会社は、防災機器全般を取り扱っているが、部署は取り扱う機器によって異なっている。
オレのいる部署は主としてスプリンクラーとそれに付随する機器を扱っていて
望月は、その基本を勉強中。
毎年、ころころ変わる消防法とのにらめっこになる仕事ではあるが
やりがいのある仕事だと、思っている。

ちなみに、今のオレは係長ということになってはいるが
歴史も長く、大きな会社だけあって、役職は完全に年功序列。
課長までは誰でもなれると揶揄されているほどだ。
特に、就職氷河期と呼ばれたオレの代は、極端に採用人数が少なかった為
全員部長にまでなれるんじゃないかと、笑い話になっている。


「急に建築図が変更になっちゃって・・・」
金曜日の夕方。
本当なら、やって来る週末に思いを馳せる時間なのだろうが
電話の向こうの設備屋さんは、それどころではなさそうだった。
「来週明けに消防協議があるんで、それまでに何とかなりませんか」
この時間じゃ、もうCADの手を確保できない。
しかし、聞いてみると、どうやらそれほど大きな変更ではないらしい。
図面修正は先方でやってくれると言うことだし
どうせ、明日も出るつもりだったので、引き受けることにした。
「では、今晩中に差し替えた図面をお送りしておきますので」
「ええ、お願いします」
「こちらこそ、本当にすみません。宜しくお願いいたします」

休日出勤の朝。
いつもと同じ時間に出ても、あの窒息しそうなラッシュは無く
街の雰囲気も、全く変わる。
本来なら、憂鬱なものなのかも知れないが、休日の方が気が楽なことも多い。
客先からの電話も来ないし、オフィスには殆ど人もいないから
自分のペースで作業を進めることが出来る。

途中、秋葉原で京浜東北線に乗り換える。
電車を降りて、ふと向かいのホームを見ると、見知った顔がいた。
望月だった。
オールでもしたのだろうか、スーツを着たままだ。
普段の彼からはちょっと想像できなかったが、プライベートなことは殆ど話さないから
そういうこともあるんだろう、と勝手に納得した。

その時、不意に彼と目が合った。
一瞬驚いたような目をした後、小さく会釈をする。
隣を歩いていた、やはりスーツを着た男が、彼の仕草に気がついて、こちらを見る。
ずいぶんと若い男だった。
まだ大学を出てまもないんじゃないかと思うくらいだ。
程なく、望月は若い男の腰に手を回すように先を促し、去っていった。

□ 06_支配★ □   
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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