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無上(2/6)

恋愛は、男女間に成立するもの。
誰もがそう思ってる。
俺も、そうだった。
けれど、きっと、あれは恋だったんだと思う。
好きになった人間が、たまたま男だった。
そんな言い訳が現実に存在するなんて、思いも寄らなかった。


地元の工業大学に入学した俺は、典型的なインドア人間だった。
女と付き合うことも無いまま、男ばかりの大学生活。
高校までとは違う、自由気ままな日常を、何となくやり過ごしていた。

「新旧いろんなハードが揃ってるよ?どう?」
さほど興味は無かったけれど、勧誘文句に釣られて入ったサークル。
電脳技術研究会と名前を冠した、何をしているのかよく分からないその集まりは
一応、パソコンの改造や自作などの技術を研鑽する目的で作られたそうなのだが
その実、部室に並べられた幾多のゲーム機で遊ぶという、無料ゲーセン状態になっていた。
趣味らしい趣味といえば、ゲームをすることくらいだった俺には、まさにもってこいの場所。
授業の合間に立ち寄っては、暇を潰すことが多かった。


夏休みも近づいてくると、大学生活も本番と言った風情を見せてくる。
建築学科に在籍しているにも拘らず、どうしても苦手な製図の授業。
せっかちなせいか、腰を据えてじっくり線を引くことが出来ない。
その性格を見透かされているのだろう、教授の指導は殊更厳しかった。
「こんなの、図面って言えないだろ?」
自分で見ても酷い出来映えのパースを見ながら、渋い顔で言い放つ。
「その建物がどんなものなのか、見も知らない人に伝える為に画くって意識が必要なんだよ」
「はい・・・」
「下手と雑とは違う。君の図面は、雑なんだ。時間がかかっても良いから、丁寧に画く事を心がけて」
「・・・分かりました」
結局、前期の製図の単位は保留となり、その場で夏休み中の補講が決定する。
何となく進んでしまった、建築の道。
将来が見えていなかった俺は、気概よりも面倒くささが先に立ち、かなり憂鬱な気分になっていた。

「製図かぁ。オレも、機械製図ならやったな」
冴えない気分で訪れた部室には、数人の部員。
その中で声をかけてきたのは、4年生の平さんだった。
後輩にも気さくに話しかけてくれる彼は、先輩方の中でも接しやすい方で
サークルに入ったばかりの時分から、何かと相談に乗って貰うことも多かった。
珍しいと言っては語弊があるが、彼はゲームよりもパソコンの自作や改造が好みのようで
一応、部の主旨に則った活動をしている数少ない部員だ。
「電気科でも、やるんですか」
「半期だけだから、ホンの触りって感じだけど」
「俺は・・・どうしても苦手で」
「早く終わらせたいって、思い過ぎてるんじゃね?」
「そうかも知れません、けど」
「時間なんて、幾らでもあるんだし。意識して、ゆっくり画いてみたらいいじゃん」
そう言って微笑むと、彼はゲームに興じる後輩たちに視線を向ける。
「嫌んなったら、ここで気晴らしすりゃ、良いんだし」

ガランとした明るい製図室には、数人の学生。
同じ憂き目にあった同志たちと、黙々とドラフターに向かう。
CADで画かれた建物のパースを書き写すと言う課題。
教授と先輩に言われたことを心がけながら、ゆっくり丁寧に線を引く。
平さんから受けたもう一つのアドバイスは、線を消す時は字消し板を使うと言うこと。
あまり使ったことが無かったものの、その効果は抜群で
消しゴムの跡が汚らしく残ることも無く、スッキリした図面が出来上がっていく。

単純な性格なんだと、自分でも思う。
夜も更けて来た頃に紙上に現れて来た建物は、休み前に酷評を受けた物とは随分変わって見えた。
こうなると、苦手意識も少しずつ和らいでくる。
製図室から見える風景に、電気が点いた部室棟が映る。
今日は家に帰れそうも無いし、明日も朝から製図の補講。
目処がついたら部室で仮眠だな、そう思いながら、ペンを手に取った。


日付も変わった夜更け。
建築学科が入る校舎から部室棟へ行くには、駐輪場を大きく迂回する必要がある。
人気の無くなった道は何となく不気味で、行く先にある部室の灯りが嬉しかった。
「お疲れ。こんな時間まで、製図?」
珍しくパソコンに向かっていない平さんは、机の上に何冊もの本を積み上げている。
「平さんも、まだ残ってるんですか?」
「オレ、明後日院試なんだよ」
「そう言えば、そんな話してましたね」
「明日の午後には飛行機に乗んなきゃなんないから、今夜が最後の詰め込み」
「飛行機?」
彼が大学院に進学すると言う話は前から聞いていたけれど
当然のように、ウチの大学の院に進むものと思っていた。
「院は、北海道の大学に行こうと思っててさ」
「そう、なんですか」
不意に、得も言われぬ寂しさに襲われる。
曇った俺の表情に、彼は若干困ったような顔をしながら首を傾げた。
「ここを離れるのは、名残惜しいけどね」

朝になったら起こしてやるよ。
そんな彼の言葉に甘えて、部室の片隅に横になる。
頭の上には化石と化したPC-6001、足元には現役で動いているのが信じられないセガマークIII。
何とか確保したスペースにも拘らず、一日中製図に精根を使い果たしたからなのか
俺はあっという間に、眠りに落ちた。

□ 43_無上 □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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