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光明★(1/8)

「何かスポーツ、やってた?」
関係の薄い人からは、必ずと言っていいほど聞かれる質問。
会話の糸口を掴もうとしてのことなんだろうが
ご期待に沿えず、何の運動もやってきていない俺には苦痛でしか無い。
「そうなんだ。それだけ背が高いと、何やっても様になりそうだけどね」
「運動神経が備わってれば良いんですけど、残念ながら」
「でも、羨ましいな。少しくらい分けて貰いたいくらいだよ」
隣の座席に座る本間さんがそう笑う。
確かに彼はかなり小柄で、190cm弱の俺と比べると、25cm程度は身長差がある。
「ま、何事も中の下くらいが丁度良いんじゃないかと・・・」
「阿久津君、意外に保守的だね」
思わぬ指摘が図星を見事に突く。
気が小さいからだろうか、何事においても、あと一歩が踏み込めない。

愛想笑いを浮かべる俺に、彼は途切れた会話を修復する言葉を発した。
「僕ね、中学の頃はバスケやってたんだ」
「えっ」
「皆、そんな顔で、そんな驚いた声出すけど。ホントに」
きっと、彼が繰り出す会話の糸口の一つなんだろう。
食いつかない人間はいないはずだ。
「すみません・・・でも、意外ですね」
「怪我して辞めちゃったけど、あの頃はレギュラーやれるくらい上手かったんだよ」
「今でもやったりするんですか?」
「流石にやらないけど、試合観に行ったりはするかな」
少しずつ垣間見えてくる、彼の側面。
はにかみつつコーヒーを飲む彼の横顔を見ながら、小さな幸せを噛み締める。

新潟にある美術館の新築現場への出張。
今日は、新潟営業所の社員と施工業者との打合せ。
明日は、施主打合せと竣工検査の立会い。
2泊3日の行程を、それほど付き合いの無い営業の先輩と共にする。
普段なら絶対に気乗りしないであろうスケジュール。
けれど、同行者が彼だと言うだけで、俺の気分は180度変わっていた。

残雪に飾られた行き過ぎる車窓を眺めながら、穏やかな顔で彼は呟く。
「まだこの辺は、雪が残ってるんだ」
「もう・・・4月ですよ」
「スーツだけじゃ、寒いかも知れないなぁ」


本間さんと初めて言葉を交わしたのは、会社にある図面庫の中。
天井まで作りつけられている棚の中には
過去に設計・施工を行った物件の竣工図や施工図がびっしりと収められている。
データ化されているとは言えども、紙ベースで残しておくというのが会社の方針。
新人だった俺は、参考資料にと図面を取ってくるよう先輩に仰せつかっていた。

多少カビ臭い室内に入ると、脚立に乗って上の方にある図面に手を伸ばしている人影があった。
背の低い彼には、それでもどうやら届かないらしく、不安定なつま先立ち。
あまりの危なっかしさに、思わず声を掛ける。
「あの・・・取りますよ」
驚いたように振り向いた彼は、瞬間、照れ隠しのような笑みを見せた。
「ああ、じゃ、お願いしようかな」
俺が脚立に乗って何とか届く場所に、彼が探していた図面はあった。

「悪いね、ありがとう」
A1サイズの製本された図面を抱え、軽く頭を下げる。
小さな身体に、幅広のフレームの眼鏡をかけた小さな顔。
明るめの色の髪も相まって、見た目は大分若く感じられた。
「君は、工事部の新人さん?」
「はい。一課の阿久津と言います」
「デカい新入社員が入ってきたって聞いてたけど、君の事かな」
「多分・・・そうかと」
バツの悪い雰囲気に強張った顔が、彼の笑い声で少し緩む。
「ああ、僕は営業の本間。その内、一緒に仕事をすることもあるだろうから、宜しくね」
そう言いながら、彼は部屋から出て行く。
背中を見送りながら、俺は久しぶりに沸き上がる感情を必死に抑え込もうとしていた。


初恋、と言うのだろうか。
人を好きになると言うことを初めて実感したのは、小学生の頃だった。
相手は、幼馴染の男の子。
一緒に遊んでいる内に、もっと近づきたい、そう思うようになっていったのだろう。
ふとした瞬間、彼と手を繋ぎたくなった俺は、彼に向かって手を伸ばす。
男としての自我が目覚めてくる時期。
彼は、その手を思いっきり拒絶した。
「男同士なのに、気持ち悪いよ」

自分が抱いている幼い気持ちを打ち砕くには、十分すぎる言葉だった。
男が男を好きになることは、気持ち悪いこと、いけないこと。
その経験は、自発的な恋愛感情を心の奥に押し込むことを強要させた。
こんな俺を好きになってくれた女の子と付き合ったこともある。
互いに気持ちを通じ合わせていたと思うけれど
奥底に眠る同性への想いが徐々に後ろめたさを大きくさせて、結局長くは続かなかった。

□ 40_光明★ □
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暑中御見舞い

連日、猛暑が続いています。健康にご注意下さいませ。
東北六魂祭では熱中症で搬送された方も…。仙台も暑いんですね、びっくりしました。
さて、関西では昨日は京都市内の午後には36.7度の猛暑!昨夜の祇園祭の宵山に45万人の人手!
今日は山鉾巡行。
そして、25日は大阪の天神祭の本宮。夜の船渡御は浪花の夏を彩ります。
ところで、暑い時はゾッとする怪談!
という事で、大阪/松竹座で歌舞伎の怪談・『播州/皿屋敷』を観ました。
幽霊のお菊さんがお皿を「一枚、二枚…。」と数えるアレですね。
今年はお菊伝説500年の記念の年だそうで、姫路の観光パンフレットとお煎餅を入口で貰えて得をしました(笑)。

さて、今回の『光明』というお話、続きが気になりますね。怪談とは違った意味でドキドキします。

工夫の夏。

今年は梅雨明けも早く、夏も殊更暑く感じます。
節電が叫ばれている昨今ですが、体調にはくれぐれもお気をつけ下さい。
知恵と工夫が試される季節となりそうです。

そろそろ夏祭りの季節なんですね。
東北六魂祭を皮切りに、8月には東北の夏祭りも始まります。
機会があれば、復興と鎮魂の想いを込めた祭に足を運んでいただければと思います。
私も上京してから初めて、仙台七夕を見に行く予定です。

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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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