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感触(1/5)

「で、話って何?」
会社の近くのドトールの狭い席。
僕の向かいに座る後藤さんは、ロイヤルミルクティーをすすりながら、億劫そうに聞いてくる。
「ちょっと相談があって・・・」
「へ~、どんな?」
「恋愛のことで・・・」
そう口にした瞬間、後藤さんの眉間に皺がよる。

後藤さんは、会社の先輩。
さばさばした姉御肌の人で、後輩たちはよく彼女を頼って相談相手にしている。
ただ、40近くで未だに独身であることを、心の底ではかなり気にしているらしく
恋愛関係の話をすると、あまり良い顔はしない。

「どうして皆、私に恋愛相談しようとするのかしらねぇ」
ため息をつくように、またミルクティーを飲む。
「何か、あてつけ?」
そう言って、意地悪そうに微笑む。
「いや、別に・・・」
こんな風に後輩をあしらうのも、彼女の特徴だ。
「とりあえず、話してみてよ」
ひとまず、聞いてくれる気になったらしい。

気になる人がいる。
その人は会社の人で、一緒に働くようになって数年経つ。
けれど、飲みに行ったり、遊びに言ったりという程、仲が良い訳でもなく
あくまで会社の中だけの関係だ。
それがあることがきっかけで、気になる存在になり
日を追うごとに、僕の心の多くの部分を占めるようになってきた。

「社内恋愛はお勧めしないけどね~」
それは痛いほど分かってる。
「上手く行かなかったら、ギスギスしたまま仕事続けるわけでしょ?」
「いや、まだ、どうこうって言う具体的なものは見えなくて・・・」
「何それ?」
「自分でもよく分からないんですが・・・」
「それって、本当に好きなの?」

憧れ、同情、気の迷い、勘違い。
感情の候補はいろいろあるけれど、どれとも違う。
「まぁ、私もよく分からないのよね」
ミルクティーのカップは空になってしまったので、水に手を伸ばす。
「付き合いたいとか、手を繋ぎたいとか、キスしたいとか、セックスしたいとか、結婚したいとか」
具体的事例を並べて、少し考える風に、後藤さんは続ける。
「何処からが恋愛って言うのか、明確な境界線ってないもんね」
そこが僕も困っているところだ。

「ところで、相手は誰なの?」
後藤さんは、興味津々な顔をして聞いてくる。
この人は、きっと会社で一番、人間関係を知っている人だろう。
名前を出すことはどうしても憚られた。
「言いたくないなら良いけどね」
でも、言っておかなきゃならないポイントが、一つだけあった。
「実は・・・」
「うん」
「相手は、男性でして」
口に含んでいた氷を、ガリ、と噛む音がする。
「はあ?」

後藤さんは、持っていたコップをテーブルに置くと、急に声のトーンを下げた。
「それって、こんなとこで話す話題?」
「いや、あんまり・・・」
「時間あるなら、場所変えようか」
そう言って、大きなカバンを持って立ち上がる。
女性のカバンは、どうして皆そんなに大きいのか。
一体、何が入っているんだろう。
って言うか、電車の中で凄くジャマなんですけど。
いつも感じている疑問が頭の中に浮かんできつつ、僕も続いて席を立つ。

□ 05_感触 □   
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□ 99_托生 □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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