自浄★(6/7)
「彼は、取り込み中だよ。悪いけど」
霞む視界、遠くなる音。
彼は、俺の携帯を手にしながら、更に俺の身体を虐げる。
太腿の裏に当たった鞭は膝を砕き、繋がれた手枷の鎖を張らせた。
全身の重さを受けた手首は、今にも千切れそうだった。
「君も、何か言っておくか?」
うな垂れた顔に社用の携帯が近づいてくる。
電話の向こうの声は明らかに動揺していた。
「お前・・・何」
彼の言葉を全て聞かないまま、俺は口を開く。
「しら、とり・・・」
それが、全てだった。
「た、す、けて・・・」
瞬間、携帯は床に叩きつけられ、嫌な音を伴いながら転がっていった。
彼の手が首元から下がるネクタイを掴み上げ、歪んだ顔が近づいてくる。
「随分、往生際が悪いな」
苦しさで上半身が痺れていく。
「諦めろ。何もかも。お前は、オレにだけ跪いてれば良いんだよ」
そう言って、彼は鞭を振り下ろす。
自分の意思とは関係なく、身体が跳ねる。
もう、それは、ただの拷問だった。
彼の手が、何の昂りも見せない股間へ伸びる。
「同僚の姿がトラウマか?せっかく鞭打たれてるのに、勃たないのはもどかしいだろう」
ベルトが外され、僅かに空いた腰周りから手が入ってくる。
苦痛に支配された脳に、快感が走ることは無い。
「役に立たない物ぶら下げてても、しょうがねぇよな」
柔らかいモノを弄りながら、彼は鼻で笑う。
これがきっと、まともなんだ。
おかしくなっていた俺の身体は、元に戻っただけ。
絶望の中に、そんな思いが過ぎって、硬直した顔の筋肉が少しだけ緩んだ。
それが、彼の心に火を点けたのかも知れない。
俺から離れた彼は、力任せに腕を振る。
無用の長物と言われた物が、強烈な刺激の洗礼を浴びる。
頭の中に火花が散り、激痛の中で意識が遠くなっていった。
何の反応も示さない身体を痛めつけるのは、楽しくないんだろうか。
気がついた時、俺はベッドの上に寝かされていた。
起き上がれないほどの全身の痛み。
霞む視界を、煙草の匂いが少しずつ洗っていく。
誰かがベッドサイドに座っている気配があった。
確かめるのが怖い。
再び狂気に晒される勇気は、もう残っていなかった。
ふぅ、と煙を吐く声に続いて、煙草を揉み消す音が聞こえた。
立ち上がる物音に、思わず目を閉じる。
額に、手の体温が沁みた。
しばらく前髪を掻き揚げるように撫でた後、その感触が離れて行く。
薄く開いた視界の先にいたのは、助けを求めた同僚だった。
「やっと、気がついたか」
安堵する気持ちが、視界を揺らがせた。
「殴り倒してやったけど、良いよな?」
ベッドに腰掛けた白鳥は、そう言って笑った。
「・・・どう、し、て」
軋む痛みを堪えながら、声を絞り出す。
その声を聞いた彼は、不思議そうな視線を俺に向ける。
「オレ、そんなに人でなしじゃないつもりなんだけどな」
俺の頬を手の甲で撫でながら、言葉を続けた。
「あんな風に言われて、来ない奴がいるのかね」
感謝の言葉を口にしようとした時、苦しさで咽る。
背中と腹の辺りが強烈に痛み、それが即座に全身へ周った。
呻きながらのたうつ身体を、同僚が軽く抑えてくれる。
「部屋に入った時、寒気がしたよ。手遅れだったかと思って」
彼の手が、腕を滑り、手首を撫でる。
追いかけるように視線を移すと、酷く鬱血し青くなっているのが見えた。
「・・・同じ目に、遭わせてやれば良かった」
□ 32_自浄★ □
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霞む視界、遠くなる音。
彼は、俺の携帯を手にしながら、更に俺の身体を虐げる。
太腿の裏に当たった鞭は膝を砕き、繋がれた手枷の鎖を張らせた。
全身の重さを受けた手首は、今にも千切れそうだった。
「君も、何か言っておくか?」
うな垂れた顔に社用の携帯が近づいてくる。
電話の向こうの声は明らかに動揺していた。
「お前・・・何」
彼の言葉を全て聞かないまま、俺は口を開く。
「しら、とり・・・」
それが、全てだった。
「た、す、けて・・・」
瞬間、携帯は床に叩きつけられ、嫌な音を伴いながら転がっていった。
彼の手が首元から下がるネクタイを掴み上げ、歪んだ顔が近づいてくる。
「随分、往生際が悪いな」
苦しさで上半身が痺れていく。
「諦めろ。何もかも。お前は、オレにだけ跪いてれば良いんだよ」
そう言って、彼は鞭を振り下ろす。
自分の意思とは関係なく、身体が跳ねる。
もう、それは、ただの拷問だった。
彼の手が、何の昂りも見せない股間へ伸びる。
「同僚の姿がトラウマか?せっかく鞭打たれてるのに、勃たないのはもどかしいだろう」
ベルトが外され、僅かに空いた腰周りから手が入ってくる。
苦痛に支配された脳に、快感が走ることは無い。
「役に立たない物ぶら下げてても、しょうがねぇよな」
柔らかいモノを弄りながら、彼は鼻で笑う。
これがきっと、まともなんだ。
おかしくなっていた俺の身体は、元に戻っただけ。
絶望の中に、そんな思いが過ぎって、硬直した顔の筋肉が少しだけ緩んだ。
それが、彼の心に火を点けたのかも知れない。
俺から離れた彼は、力任せに腕を振る。
無用の長物と言われた物が、強烈な刺激の洗礼を浴びる。
頭の中に火花が散り、激痛の中で意識が遠くなっていった。
何の反応も示さない身体を痛めつけるのは、楽しくないんだろうか。
気がついた時、俺はベッドの上に寝かされていた。
起き上がれないほどの全身の痛み。
霞む視界を、煙草の匂いが少しずつ洗っていく。
誰かがベッドサイドに座っている気配があった。
確かめるのが怖い。
再び狂気に晒される勇気は、もう残っていなかった。
ふぅ、と煙を吐く声に続いて、煙草を揉み消す音が聞こえた。
立ち上がる物音に、思わず目を閉じる。
額に、手の体温が沁みた。
しばらく前髪を掻き揚げるように撫でた後、その感触が離れて行く。
薄く開いた視界の先にいたのは、助けを求めた同僚だった。
「やっと、気がついたか」
安堵する気持ちが、視界を揺らがせた。
「殴り倒してやったけど、良いよな?」
ベッドに腰掛けた白鳥は、そう言って笑った。
「・・・どう、し、て」
軋む痛みを堪えながら、声を絞り出す。
その声を聞いた彼は、不思議そうな視線を俺に向ける。
「オレ、そんなに人でなしじゃないつもりなんだけどな」
俺の頬を手の甲で撫でながら、言葉を続けた。
「あんな風に言われて、来ない奴がいるのかね」
感謝の言葉を口にしようとした時、苦しさで咽る。
背中と腹の辺りが強烈に痛み、それが即座に全身へ周った。
呻きながらのたうつ身体を、同僚が軽く抑えてくれる。
「部屋に入った時、寒気がしたよ。手遅れだったかと思って」
彼の手が、腕を滑り、手首を撫でる。
追いかけるように視線を移すと、酷く鬱血し青くなっているのが見えた。
「・・・同じ目に、遭わせてやれば良かった」
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