自浄★(4/7)
愛知県にある工場への日帰り出張から帰ってきた週末の夜。
会社へ戻ると、机の上には一枚のメモが置いてあった。
『有村課長から至急の呼び出し。代わりに行って来る。PM4:20』
急いで書き殴った様な白鳥の文字。
書かれた時間から考えれば、もうとっくに戻って来ていても良いはず。
けれど、部署の人間は、彼の帰社を見てはいなかった。
途中で、別件が入ったのかも知れない。
試しに社用の携帯に電話を入れてみる。
数回のコール音の後、電話は留守電に切り替わる。
「志賀だけど。今、会社に戻ったから、一段落着いたら電話くれ」
電話を持つ手が、僅かに震えた。
嫌な予感が、頭から剥がれなかった。
胸ポケットに入れていた携帯にコールバックがあったのは、それから10分ほど経ってからだった。
「お疲れさん」
その声に、身体が凍りついた。
「ど、どうして・・・」
瞬間、電話を耳から離してディスプレイを確認する。
間違いなく、白鳥の携帯からだ。
「彼は、なかなか頑なだね」
耳元に聞こえてくる、不気味な風切音。
気が遠くなりそうだった。
「君も、来ると良い」
ドアノブに手をかける頃には、悪夢のような光景を想像し尽くしていた。
罪悪感で、酷く吐き気がした。
微かに漏れ聞こえてくる尖った音と、圧迫されたような声。
どうして、こんなことになっているのか。
助けたい、そう思っても、そんなことは不可能だと分かっている。
それでも、俺は、進むしかない。
目の前で行われている行為を、一秒さえも見ていることは出来なかった。
「遅かったじゃないか。待ちかねたぞ」
視線を逸らす俺に、彼は近づいてきて言った。
「同僚のこんな姿・・・興奮するだろ?」
前髪を掴まれ、床に伏す同僚に目を向けさせられる。
頭上で手を縛られ、足を金属の棒に括り付けられた身体は、波打つように痙攣していた。
ワイシャツが肩までたくし上げられて露わになった、真っ赤に腫れた背中が痛々しい。
大きな目隠しと口枷を嵌められた顔からは、彼の表情は全く窺えない。
「抵抗する気力も失せたみたいだからな」
俺から離れた権力者は、同僚の身体を力任せに蹴り上げる。
呻き声を上げながら、無様に転がる身体。
「こいつを落とすのは、お前がやるんだ」
下衆な笑みを浮かべた彼は、俺にそう宣告する。
自分が異常な性癖を持っていることは、嫌と言うほど知らしめられている。
きっと、何の関係も無い人間の姿であれば、羨望で昂りを抑えられなくなっているだろう。
しかし、目の前で悶えているのは、会社の同僚。
その顔に馬乗りになった主人は、枷で閉じられない口の中にモノを無理矢理捻じ込み、腰を振る。
異物を突き立てられている喉元が、激しく鳴動しているのが見えた。
その手に掲げられた物からは、胸や腹へと赤い蝋が雫となって落ちていく。
染みが小さく広がる度に、同僚の身体が小さく跳ねる。
「同僚のチンポは、咥えられないのか?志賀、くん?」
その言葉は、立ち尽くす俺への命令。
降伏するように、俺は同僚の身体の側にひざまづく。
同僚への言い訳は、何も思いつかなかった。
詫びる気持ちすら、浮かんで来なかった。
この時間をとにかく早く終わらせる。
それだけを考え、俺は同僚のモノを口に含んだ。
痩せた胸板が赤く染め上げられる頃、手を添えた太腿辺りが痙攣し始める。
視界を潤ませたのは、悔しさか。
目を閉じ、強引に頭を振った。
軽く仰け反るように腰を上げ、同僚は絶頂を迎える。
何の意味も無い、贖罪。
彼が噴き出した液体を、俺は全て飲み込んだ。
それを追いかけるよう、彼に強引な奉仕を求めていた主人が小さく顔を歪める。
喉の奥から出る悲鳴が、粘液で蓋をされたようだった。
地獄から解放された身体が横に傾き、全てを振り払おうと嗚咽を漏らす。
彼を見下ろす男は、満ち足りた表情を見せながら、俺に視線を移した。
「こんな男に、なびくんじゃないぞ?・・・お前は、オレのものだ」
支配されていたはずの身体と心が、俄かに離れていく。
俺は初めて、逃げたい、と、心の底から感じていた。
□ 32_自浄★ □
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会社へ戻ると、机の上には一枚のメモが置いてあった。
『有村課長から至急の呼び出し。代わりに行って来る。PM4:20』
急いで書き殴った様な白鳥の文字。
書かれた時間から考えれば、もうとっくに戻って来ていても良いはず。
けれど、部署の人間は、彼の帰社を見てはいなかった。
途中で、別件が入ったのかも知れない。
試しに社用の携帯に電話を入れてみる。
数回のコール音の後、電話は留守電に切り替わる。
「志賀だけど。今、会社に戻ったから、一段落着いたら電話くれ」
電話を持つ手が、僅かに震えた。
嫌な予感が、頭から剥がれなかった。
胸ポケットに入れていた携帯にコールバックがあったのは、それから10分ほど経ってからだった。
「お疲れさん」
その声に、身体が凍りついた。
「ど、どうして・・・」
瞬間、電話を耳から離してディスプレイを確認する。
間違いなく、白鳥の携帯からだ。
「彼は、なかなか頑なだね」
耳元に聞こえてくる、不気味な風切音。
気が遠くなりそうだった。
「君も、来ると良い」
ドアノブに手をかける頃には、悪夢のような光景を想像し尽くしていた。
罪悪感で、酷く吐き気がした。
微かに漏れ聞こえてくる尖った音と、圧迫されたような声。
どうして、こんなことになっているのか。
助けたい、そう思っても、そんなことは不可能だと分かっている。
それでも、俺は、進むしかない。
目の前で行われている行為を、一秒さえも見ていることは出来なかった。
「遅かったじゃないか。待ちかねたぞ」
視線を逸らす俺に、彼は近づいてきて言った。
「同僚のこんな姿・・・興奮するだろ?」
前髪を掴まれ、床に伏す同僚に目を向けさせられる。
頭上で手を縛られ、足を金属の棒に括り付けられた身体は、波打つように痙攣していた。
ワイシャツが肩までたくし上げられて露わになった、真っ赤に腫れた背中が痛々しい。
大きな目隠しと口枷を嵌められた顔からは、彼の表情は全く窺えない。
「抵抗する気力も失せたみたいだからな」
俺から離れた権力者は、同僚の身体を力任せに蹴り上げる。
呻き声を上げながら、無様に転がる身体。
「こいつを落とすのは、お前がやるんだ」
下衆な笑みを浮かべた彼は、俺にそう宣告する。
自分が異常な性癖を持っていることは、嫌と言うほど知らしめられている。
きっと、何の関係も無い人間の姿であれば、羨望で昂りを抑えられなくなっているだろう。
しかし、目の前で悶えているのは、会社の同僚。
その顔に馬乗りになった主人は、枷で閉じられない口の中にモノを無理矢理捻じ込み、腰を振る。
異物を突き立てられている喉元が、激しく鳴動しているのが見えた。
その手に掲げられた物からは、胸や腹へと赤い蝋が雫となって落ちていく。
染みが小さく広がる度に、同僚の身体が小さく跳ねる。
「同僚のチンポは、咥えられないのか?志賀、くん?」
その言葉は、立ち尽くす俺への命令。
降伏するように、俺は同僚の身体の側にひざまづく。
同僚への言い訳は、何も思いつかなかった。
詫びる気持ちすら、浮かんで来なかった。
この時間をとにかく早く終わらせる。
それだけを考え、俺は同僚のモノを口に含んだ。
痩せた胸板が赤く染め上げられる頃、手を添えた太腿辺りが痙攣し始める。
視界を潤ませたのは、悔しさか。
目を閉じ、強引に頭を振った。
軽く仰け反るように腰を上げ、同僚は絶頂を迎える。
何の意味も無い、贖罪。
彼が噴き出した液体を、俺は全て飲み込んだ。
それを追いかけるよう、彼に強引な奉仕を求めていた主人が小さく顔を歪める。
喉の奥から出る悲鳴が、粘液で蓋をされたようだった。
地獄から解放された身体が横に傾き、全てを振り払おうと嗚咽を漏らす。
彼を見下ろす男は、満ち足りた表情を見せながら、俺に視線を移した。
「こんな男に、なびくんじゃないぞ?・・・お前は、オレのものだ」
支配されていたはずの身体と心が、俄かに離れていく。
俺は初めて、逃げたい、と、心の底から感じていた。
□ 32_自浄★ □
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コメント
お化けより怖い人
復縁を迫っての刃傷沙汰事件って時々ありますが、決まって犯人は男性。なんででしょう?独占欲が強いんでしょうかね!?
そもそも話し合いに最初から刃物を持ち込む時点で、変ですよね。
さて、この有村という人。
思った通り独占欲が強いです。
志賀は心が急速にさめたみたいですが、それを知った時の有村の豹変が怖い!
サスペンスが好きな私なので、続きが気になってドキドキします。
そもそも話し合いに最初から刃物を持ち込む時点で、変ですよね。
さて、この有村という人。
思った通り独占欲が強いです。
志賀は心が急速にさめたみたいですが、それを知った時の有村の豹変が怖い!
サスペンスが好きな私なので、続きが気になってドキドキします。
感情の暴発。
感情を表に出すことが多い女性に比べ、男性はあまり感情を剥き出しにすることはありません。
けれど、どちらも同じ人間で、同じように感情を持っている。
小出しにしない男性は、負の感情が溜まりに溜まって暴発してしまう率が高いのかも知れません。
あるきっかけで愛が憎悪に変わることもある。
そんな不測の狂気に晒されたときの恐怖。
やはり、何よりも怖いのは、人間の心なんだろうと思います。
けれど、どちらも同じ人間で、同じように感情を持っている。
小出しにしない男性は、負の感情が溜まりに溜まって暴発してしまう率が高いのかも知れません。
あるきっかけで愛が憎悪に変わることもある。
そんな不測の狂気に晒されたときの恐怖。
やはり、何よりも怖いのは、人間の心なんだろうと思います。