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自浄★(3/7)

苦い液体が、喉や鼻に満ちた。
何かを成し遂げたよう、俺の身体は頂点から一気に雪崩落ちていく。
彼の足にしな垂れつくよう、床に身を伏せた。
咽るほど、全身を襲う刺激が大きくなるようだった。
肌を切るような痛み、腰の奥を叩く断続的な振動。
彼の手が胸に下がる鎖に伸び、引っ張り上げる。
「いつまで、寝てんだよ」
閉じられない口から垂れる唾液と精液が、糸になって床に落ちていった。
殆ど力の入らない腕で、何とか身体を起こす。

挟まれ、引っ張られる乳首が痛々しく充血しているのが目に入る。
白い液体を放出したモノは、うな垂れているのにも関わらず、ピクピクと細かい震えを見せていた。
彼の腕が、背中を滑り、尻の方へ下りていく。
その顔がゆっくりと近づいてきて、耳元で止まった。
「このまま放置してやろうか?」
そう言いながら、彼はアナルプラグを押し込めるように手に力を入れる。
「う・・・あ」
「おかしくして欲しいんだろ?」
収まったはずの衝動が、沸き上がる。
失くした理性を探すことは、もうとっくに諦めている。
もっと、狂いたい。
「お願い・・・します。メチャクチャに、して、下さい」


享楽の夜から一週間。
身体の痛みは、隠しきれるまでに回復していた。
「そうですね、今回の製品は、より効率の良いモーターを搭載しておりますので」
「省エネってこと?」
「ええ、それにランニングコストも従来品に比べて、2割程度減らすことが可能です」
横浜の展示場で開かれている産業機械展。
俺は、昨日からそこに駆り出されている。
ウチの会社は、ポンプや送風機を扱うメーカー。
今回の展示会は業界向けと言うこともあり、会社の力の入れ具合も違う。
新製品となる高効率型のモーターを搭載したポンプのラインナップで、他社との差別化を図る。

「志賀、取引先の方がいらっしゃってるぞ」
ブースの裏でカタログを整理していた時、同期の白鳥がそう声を掛けて来る。
表に出ると、ダークグレーのスーツを纏った男が立っていた。
温和な表情は、見事に目の奥の狂気を消し去っている。
大手ゼネコンの社名が入った名刺を首から提げた彼は、俺を認めると目を細めた。
「わざわざご足労頂いて、ありがとうございます」


彼との出会いは、俺がまだ新人の頃。
先輩と共に赴いた営業での場だった。
不自然な視線を不思議に思うことも無く、やがて彼の部署の担当になり
何度も足を運ぶ内、彼は徐々に欲求を行動に移し始めた。
取り扱う機器全般を積極的に採用してくれる、お得意様。
接待と言う名の誘いを断ることは出来なかった。

俺の何処に、彼を惹きつける要素があったのだろう。
直前まで年頃の娘の話をしていた彼は、突然俺の顎を掴み、唇を奪った。
あまりのことに言葉が出ない俺に、微笑みを湛えながら言い捨てる。
「君、良い眼してるね。オレの言うこと、何でも聞いてくれそうだ」
何を言っているのか、分からなかった。
戸惑いと言うには、大きすぎる混乱。
逃げ道を見出せないまま、接待の質が異常な方向へ変化していく。

唯一つの幸運は、気がつくことの無かった自らの欲望が、彼の欲望と合致したこと。
身体が刺激を素直に吸収することで、心の抵抗感を和らげているのかも知れない。
俺と彼の関係は、虐待し、虐待されることを悦び合うだけ。
それだけだと、思っていた。


目の前に立つ彼の視線が、ふと俺の背後に移る。
僅かに身体を傾けて窺った先には、白鳥がいた。
その視線に呼ばれるよう、同僚は彼の前に立ち、挨拶をしながら名刺を差し出した。
「白鳥と申します。志賀とは同じ部署で、営業を担当しております」
彼はしばらく名刺を眺めた後、白鳥に視線を向ける。
「有村です。・・・君は、ウチには来たこと無いよね」
「そうですね、お伺いしたことは、まだ」
「他のゼネコン担当?」
意地悪な視線を向けられた同僚は、一瞬動揺を見せた後、取り繕うように言った。
「いえ・・・お呼び付け頂ければ、いつでもお伺い致しますよ」

休憩時間、俺は白鳥と共に飲食ブースでコーヒーを啜っていた。
「あの人・・・一癖も二癖もありそうだなぁ」
人もまばらになってきた会場を眺めながら、同僚はそんなことを呟く。
彼が絶対に知ることの無い側面を、身を持って感じている俺は、すぐに言葉が出なかった。
「お前、もう随分付き合いあるんだろ?」
「ああ・・・どれくらいだろう。4年以上、かな」
口に出してみて、その時間の長さを改めて実感する。
歪んだ関係を持ってからは、3年くらいだろうか。
既に俺の身体には、危ういリズムのようなものが刻まれていて
女と付き合うことも無く、痛む身体を抱いて自分を慰めるだけの人間になって来ている。

会場を歩く人の中から、視線を感じた。
遠くからでも分かる、彼の眼差し。
その目は柔和なものでも、狂気を秘めたものでもなく
初めて見るその表情に、俺は何とも言えない薄ら寒さに包まれた。

□ 32_自浄★ □   
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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