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籠絡★(7/10)

彼の身体を見るのは、初めてだった。
スーツの下に隠れていた上半身は思っていた以上に筋肉質で、無意識に目を奪われる。
「一緒に入る?」
その視線に気がついたのだろうか、彼はからかう様な笑みを浮かべ、そう聞いてきた。
うろたえる俺に、彼は次の一手を打っては来ない。
あくまでも、乞われる言葉を待っている。
意地悪な人だ。
そう思いながら、俺は自分のスーツに手をかける。

彼の顔が、シャワーの湯で濡れていくのを見ていた。
不意に振り向いた彼に、正面から抱き締められる。
あまりにも直接的な体温と鼓動が、身体を強張らせた。
「何か、不思議な感じ」
「え?」
「男同士で、裸になって、こうやって抱き合うのって」
「・・・嫌、ですか?」
「そうじゃないけど・・・現実なんだなって、思ってね」
途方に暮れるような彼の言葉。
本当に彼の手を引くべきなのか。
女とは違う身体を自らの腕に抱える彼は
やはり何も言わず、俺の動きを待っているかのようだった。

濡れた髪に手を伸ばす。
水の流れに押される様に、首元から肩へ滑らせた。
「嫌だったら・・・言って下さい」
その言葉が、彼の表情を曇らせる。
身体がユニットバスの壁に押し付けられ、真剣な目が、すぐそばまで迫った。
「この期に及んで、それは、ずるいよ?」
「そんな、つもりじゃ・・・」
「不安なのは、君だけじゃない」
「すみません・・・でも」
真っ直ぐな視線に引っ張られるよう、彼と目を合わせる。
咄嗟に言葉が出なかった。
「・・・嫌われたく、無い」

濡れた唇が、震える息を遮った。
程なく離れた彼の顔は、穏やかな表情に戻っていた。
「嫌われるより、諦める方が、良いんだ?」
居た堪れずに視線を逸らす俺の顎に手を添え、それをさせまいとする。
「ああ、何か、しつこいな。オレ」
口の端を僅かに上げ、彼は再び問いただす。
「オレのこと、好き?」
視線を投げても、態度で示しても、結局最後の決め手は言葉。
何処までも逃げ腰な俺に、そう示してくれているのかも知れない。
「・・・好きです」
震える声が、狭い空間に低く響く。
彼は一瞬目を閉じて、再び俺の顔を見る。
「じゃあ、もっと、強く引っ張って。オレの心も、一緒に」


手が、濡れた身体を滑る。
ずっと求めていたその感触が、心まで揺らす。
湿気の篭った狭い空間で、熱くなった互いの身体を触れ合わせた。
「改めて触ってみると・・・思ったよりも、柔らかいもんだね」
背中から尻の方へ手を伸ばしながら、彼はそう囁く。
俺の手に感じられる感覚は、イメージ通りの程よい硬さで
今まで女の身体しか触ることが無かった彼との、感度の違いを実感した。

不意に、彼のモノが俺の内腿に当たる。
彼が言った、現実。
それを思い知らされる。
俺は、自分が望んで来た関係を、これから彼と持つ。

太腿から前の方へ移動してくる手の気配に、緊張で、思わず息を飲んだ。
しかし、寸でのところで手が止まる。
「続きは、ベッドにしようか」
その声は、冷静さを欠いていた。
「顔が見えないと、もったいない、からさ」
この人は、きっと女にも同じような言葉を吐くんだろう。
冷静に思う反面、嬉しさが込み上げた。

□ 30_籠絡★ □   
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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