籠絡★(5/10)
疼きから解放された身体を、水栓から流れ出る水で冷まして行く。
鏡に映る背後の彼の表情は、やっぱり穏やかで
その笑みを見る度に、未だに把握しきれない彼の心の内を知りたい気持ちが大きくなる。
不意に、後ろから抱き締められる。
「稲葉さん、ちょっと・・・」
トイレの狭いブース以外の場所で、彼が積極的なアプローチをしてくることは無い。
彼にとって、俺は性欲を解消する為だけのパートナー。
歪んだ時間の中で、やっと、それで満足出来る様になってきた。
だからこそ、些細な感情の揺さぶりが、俺には残酷な仕打ちにしか感じられなかった。
「まずいですよ・・・誰か、来たら」
「じゃあ、今晩、ウチに来ない?」
うろたえる俺とは対照的に、彼は俺の胸の辺りで組んだ手をそのままに、誘う。
彼の家に行くのは、あの夜以来、初めてだった。
「・・・大丈夫、今日は、何もしないから」
鏡越しに向けられる視線。
それを受け止める程、彼への好意と畏怖の狭間で、心が揺れて行く。
***********************************
「男のフェラって、初めて見たかも」
いきり立ったモノを手で扱きながら、物珍しそうに女は言った。
居た堪れなくなる気分が、口への圧迫感と、下半身にもたらされる快楽に溶かされる。
胸の上から腰まで露わにされた格好で、俺は本能のままに、彼のモノにしゃぶりついていた。
「気持ち良い訳?」
自分を差し置いて何なの、そんな気分なのだろうか。
俺の髪を撫でながら行為を受け入れる彼に、女は若干不機嫌なトーンで問いかける。
「ああ・・・結構、良いよ?」
「ふ~ん・・・」
「男に、妬くな、って」
「そうだけど」
女の顔が、徐々に上半身へ上がってくるのを感じる。
その舌が、腹や胸の辺りを柔らかく刺激していく。
「ねぇ」
誰にとも付かない呼びかけが、耳に触る。
「入れちゃ、ダメ?」
声にならない声が、喉の奥から出る。
嫌悪感が、一気に押し寄せた。
俺の動揺を察知したのか、彼は俺の頭を軽く押さえつけながら、言った。
「ダメ」
「何で?アンタたちだけ気持ち良くなって、ずるいよ」
「言っただろ?今日は、フェラするだけで、良いって」
「口より、ナカの方が絶対気持ち良いよ」
「オレが、嫌なの。だから、ダメ」
「何それ。訳わかんない」
「そこで、オナってても、良いよ?オレ、見てて、あげる」
彼の腰の動きが、段々と早くなっていく。
荒い息遣いが水音に混ざり、増長される。
視線を上げると、歪む表情が目に入った。
その顔が身体の昂りを一層強くして、自らの身体を震わせる。
モノに与えられる刺激は、ぎこちない強弱を繰り返しながら、俺を絶頂へ追い詰める。
くぐもった喘ぎが各々の身体から発せられている、奇妙な空間。
狭苦しい空間から解放されたモノが、女の手によって扱かれる。
思わず、腰が浮いた。
それを見た彼は、自らのモノを俺の口から抜き、俺の腹の辺りで弄り始める。
「一緒に、イく?」
心を支配するかのような笑みで、そう問いかけられる。
乾いた叫びと共に、視界が白くなった。
腹の上に撒かれた二人分の精液が脇腹を落ちていく感触が、意識をはっきりさせていく。
女は、俺の足にしがみつく様にソファに身を任せていた。
「や、やだっ」
「こんなに濡らして、何言ってんの?」
「は・・・あ、っん」
背後から覆い被さるように、彼は女の身体を抱えて、指での愛撫を続ける。
官能に溶かされているのが、俺の足を掴む彼女の手の力で、嫌と言うほど感じられた。
淫らな音が、衣服の中から僅かに聞こえてくる。
「そこ、だめ・・・」
「そう?凄い、指、締め付けてるよ?」
「やっ・・・あ」
彼の肩に力が入り、女は更に嬌声を上げる。
その姿を見ながら、俺の心は冷静さを失っていく。
彼にとっての当たり前の行為が、俺には嫉妬の対象でしか無かった。
女がシャワーを浴びている間、彼は俺の腹の上で混ざり合った精液を拭き取り
皺になったワイシャツを脱がし、着替えを渡してくれた。
「彼女が出たら、君も浴びてくると良いよ」
乱れたワイシャツ姿で、彼は言った。
身体のだるさは、殆ど抜けている。
ソファに身を預けるよう、上半身を起こす。
どうしてこんなことになったのか、よく分からない。
それを彼に聞くべきなのかも、分からなかった。
突然、彼の顔が視界に入ってくる。
その手が俺の顔を包み、彼は静かに訊ねた。
「加納君、オレのこと、好き?」
□ 30_籠絡★ □
■ 1 ■ ■ 2 ■ ■ 3 ■ ■ 4 ■ ■ 5 ■ ■ 6 ■ ■ 7 ■
■ 8 ■ ■ 9 ■ ■ 10 ■
>>> 小説一覧 <<<
鏡に映る背後の彼の表情は、やっぱり穏やかで
その笑みを見る度に、未だに把握しきれない彼の心の内を知りたい気持ちが大きくなる。
不意に、後ろから抱き締められる。
「稲葉さん、ちょっと・・・」
トイレの狭いブース以外の場所で、彼が積極的なアプローチをしてくることは無い。
彼にとって、俺は性欲を解消する為だけのパートナー。
歪んだ時間の中で、やっと、それで満足出来る様になってきた。
だからこそ、些細な感情の揺さぶりが、俺には残酷な仕打ちにしか感じられなかった。
「まずいですよ・・・誰か、来たら」
「じゃあ、今晩、ウチに来ない?」
うろたえる俺とは対照的に、彼は俺の胸の辺りで組んだ手をそのままに、誘う。
彼の家に行くのは、あの夜以来、初めてだった。
「・・・大丈夫、今日は、何もしないから」
鏡越しに向けられる視線。
それを受け止める程、彼への好意と畏怖の狭間で、心が揺れて行く。
***********************************
「男のフェラって、初めて見たかも」
いきり立ったモノを手で扱きながら、物珍しそうに女は言った。
居た堪れなくなる気分が、口への圧迫感と、下半身にもたらされる快楽に溶かされる。
胸の上から腰まで露わにされた格好で、俺は本能のままに、彼のモノにしゃぶりついていた。
「気持ち良い訳?」
自分を差し置いて何なの、そんな気分なのだろうか。
俺の髪を撫でながら行為を受け入れる彼に、女は若干不機嫌なトーンで問いかける。
「ああ・・・結構、良いよ?」
「ふ~ん・・・」
「男に、妬くな、って」
「そうだけど」
女の顔が、徐々に上半身へ上がってくるのを感じる。
その舌が、腹や胸の辺りを柔らかく刺激していく。
「ねぇ」
誰にとも付かない呼びかけが、耳に触る。
「入れちゃ、ダメ?」
声にならない声が、喉の奥から出る。
嫌悪感が、一気に押し寄せた。
俺の動揺を察知したのか、彼は俺の頭を軽く押さえつけながら、言った。
「ダメ」
「何で?アンタたちだけ気持ち良くなって、ずるいよ」
「言っただろ?今日は、フェラするだけで、良いって」
「口より、ナカの方が絶対気持ち良いよ」
「オレが、嫌なの。だから、ダメ」
「何それ。訳わかんない」
「そこで、オナってても、良いよ?オレ、見てて、あげる」
彼の腰の動きが、段々と早くなっていく。
荒い息遣いが水音に混ざり、増長される。
視線を上げると、歪む表情が目に入った。
その顔が身体の昂りを一層強くして、自らの身体を震わせる。
モノに与えられる刺激は、ぎこちない強弱を繰り返しながら、俺を絶頂へ追い詰める。
くぐもった喘ぎが各々の身体から発せられている、奇妙な空間。
狭苦しい空間から解放されたモノが、女の手によって扱かれる。
思わず、腰が浮いた。
それを見た彼は、自らのモノを俺の口から抜き、俺の腹の辺りで弄り始める。
「一緒に、イく?」
心を支配するかのような笑みで、そう問いかけられる。
乾いた叫びと共に、視界が白くなった。
腹の上に撒かれた二人分の精液が脇腹を落ちていく感触が、意識をはっきりさせていく。
女は、俺の足にしがみつく様にソファに身を任せていた。
「や、やだっ」
「こんなに濡らして、何言ってんの?」
「は・・・あ、っん」
背後から覆い被さるように、彼は女の身体を抱えて、指での愛撫を続ける。
官能に溶かされているのが、俺の足を掴む彼女の手の力で、嫌と言うほど感じられた。
淫らな音が、衣服の中から僅かに聞こえてくる。
「そこ、だめ・・・」
「そう?凄い、指、締め付けてるよ?」
「やっ・・・あ」
彼の肩に力が入り、女は更に嬌声を上げる。
その姿を見ながら、俺の心は冷静さを失っていく。
彼にとっての当たり前の行為が、俺には嫉妬の対象でしか無かった。
女がシャワーを浴びている間、彼は俺の腹の上で混ざり合った精液を拭き取り
皺になったワイシャツを脱がし、着替えを渡してくれた。
「彼女が出たら、君も浴びてくると良いよ」
乱れたワイシャツ姿で、彼は言った。
身体のだるさは、殆ど抜けている。
ソファに身を預けるよう、上半身を起こす。
どうしてこんなことになったのか、よく分からない。
それを彼に聞くべきなのかも、分からなかった。
突然、彼の顔が視界に入ってくる。
その手が俺の顔を包み、彼は静かに訊ねた。
「加納君、オレのこと、好き?」
□ 30_籠絡★ □
■ 1 ■ ■ 2 ■ ■ 3 ■ ■ 4 ■ ■ 5 ■ ■ 6 ■ ■ 7 ■
■ 8 ■ ■ 9 ■ ■ 10 ■
>>> 小説一覧 <<<