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籠絡★(1/10)

白い首筋に指が滑る。
上向いた唇が重なり、グロスが光る下唇に舌が這う。
半開きになった小さな口から紅い舌が僅かに顔を出し、絡み合っていく。
喘ぐような、艶かしい息遣い。
息を飲み込み、揺れる喉仏。

「これ以上・・・ダメだって」
「何で?濡れちゃう?」
「違う、ってば」
彼は女の首筋を唇で撫でながら、俺に視線を向けてくる。
試すような歪んだ表情。
それに、どんな反応を返せば良いのか。

俺がゲイであること。
彼に仄かな想いを寄せていること。
目の前で女と絡む男は、それを知っている。

***********************************

半年前、今日と同じようなセクキャバに連れて来られた時のこと。
気乗りしない様子の俺に、会社の先輩である稲葉さんが声をかけてきた。
「こう言うとこ、嫌い?」
「俺、ちょっと・・・苦手ですね」
「見た目通り、うぶだね」
そう言いながら、彼の隣にやってきた女の身体に手を這わせ、抱き寄せる。
「素直に、楽しんだら良いんだよ。火傷しない程度にね」

女と言う生き物が嫌いな訳じゃ無い。
ただ、恋愛感情も湧かないし、性的欲求も満たされない。
逃げ出せない状況で迫られると、嫌悪感さえ芽生えてくる。
入れ代わり立ち代りやってくる嬢を、そっけなく断っているのにも疲れて来て
雰囲気に水を差さないように席を立ち、店の外に逃げ出した。

池袋の片隅。
風俗街だけあって、周りには同じような店が立ち並んでいる。
ビルの壁に寄りかかり、煙草に火を点けた。
周りにバレないよう、こういう店の付き合いも断らない。
社会人になってから心がけている、苦行の一つだ。
けれど、それもそろそろ辛くなってきている。

男しか好きになれない。
その現実を受け入れざるを得ないと思い知らされて、どのくらい経ったんだろう。
ノンケだったら、どんなに楽だろうと考えることもある。
ゲイで良かったと思ったことだって、もちろんあるけれど
これからずっと、こんな思いをして行かなきゃならないと思うと、堪らなくなってくる。


原色の光が眩しい光景に、ふと影が差した。
「こんなとこに、いたんだ」
その声で振り返ると、女と楽しんでいる筈の先輩が立っている。
「あ・・・すみません・・・」
「良いけどさ。気が付いたらいないから、そんなに長居しちゃったのかと思ったよ」
笑いながら、彼は自分の煙草に火を点けた。
「キャバクラくらいが、丁度良い?」
「ええ、まあ・・・そうですね」
煙を吐きながら、彼は俺の顔を窺う。
「いっつも、乗り気じゃない顔してるもんね」
「え・・・そんなこと」
「見てたら分かるよ。楽しくないのかな、って」
「そういうつもりじゃ・・・無いんですが」
何かを詮索されているようで、居心地が悪くなる。

時間は、既に12時を回っていた。
終電も近い。
「この後、どうするんですか?」
「加納君は、何か予定ある?」
「いえ、特には無いですけど・・・」
風俗はちょっと、そう言葉を続けようとした時、彼は遮るようにある提案を口にした。
「じゃ、オレの家で飲まない?」
一瞬、言葉が出なかった。
こうやって飲みに連れ出されることはよくあったけれど
互いの家に行ったりするほど深い仲では無い、ただの先輩・後輩の関係だと思っていた。
唐突な誘いに戸惑いを感じながら、俺はその誘いを受ける。
それは、自分の中に僅かばかりの下心があったことも、否定できなかったからだ。

□ 30_籠絡★ □   
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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